医学界新聞

名画で鍛える診療のエッセンス

連載 森永 康平

2021.09.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3436号より

 人間の歴史をたどると,少し前までは自然現象や普段の生活の背景にあやかしや神様などの「目に見えない存在」を感じることが普通だったようです。しかし「科学の目」が入り現象の解明が進んだことや,あらゆる知にインターネットでアクセスできるようになったことによって,「目に見えない存在」は世界の片隅に追いやられています。

 とはいえその中で最後まで解明が難しい聖域として残るのは,人の心でしょう。これは時間や状況で絶えず変化し,容易には観測・評価することかないません。

 ルーク・フィルズによる今回の名画を見てみましょう。中央手前には,ベッドに横たわる子どもとそれを見つめる椅子に腰掛けた男性医師が描かれています。これはクリスマスイブに亡くなったフィルズの息子にベッドサイドで寝ずの看病を行った医師に対する大きな敬意を持って,100年以上前に描かれました。この医師は,患者さんに心から向き合い続けたと言えるでしょう。

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 それでは現代の医療はどうでしょうか。私たちは検査などのデータを表示するモニターを通して患者さんを見る時間の比重が増加しており,そのため患者さんとの言葉や眼差しの重みを感じ取る対面での機会は大きく減少しています。

 これらの機会が失われれば,目に見えないものを知覚して洞察する感性が衰えるのは必然と言えます。そこで,名画鑑賞をきっかけに自分自身の感性を見直して診療に生かすことが,本連載を通じて最も伝えたいポイントでした。

 医学では,サイエンスとアートの重要性がしばしば言われます。医療で言うサイエンスとは,病気を的確に診断し治療するために積み重ねられた膨大な知識や研鑽された技能でしょう。私たち医療者は,先人が積み上げてきた知恵を無下にしないよう,巨人の肩に乗りながらさらに高みをめざして研鑽してきました。

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