遠隔教育のABC
[第2回] 遠隔教育の質を高めるための3つの視点
連載 淺田 義和
2020.07.13
遠隔教育のABC
「遠隔での教育実践が求められた。さて,何から準備すべきか?」。新型コロナウイルス感染症による学修環境の変化を踏まえ,遠隔教育を行う上で押さえたいツールの選択と授業設計のエッセンスを3回にわたり紹介します。
[第2回]遠隔教育の質を高めるための3つの視点
淺田 義和(自治医科大学情報センターIR部門 講師)
(前回よりつづく)
一方向型か双方向型かによって変わるツールの使い方
遠隔教育を開始する際の7つのポイントを,第1回(3374号)に列挙しました。今回はその内の「学修目標」「評価方法」「教育内容」の3点について,インストラクショナルデザイン1)(註)の観点も踏まえて説明します。新型コロナウイルスの影響を受ける環境要因も考慮しながら考えていきましょう。
本題に入る前にここで,遠隔教育の区分をあらためて整理します。前回,同期型と非同期型との区分を説明しました。この区分に加え,一方向型(教員から学生へ)か双方向型か,というもう1つの区分を紹介します。「講義を生中継するか,学生参加型にするか」のZoom利用事例から考えると,前者は同期型の一方向型,後者は同期型の双方向型と位置付けられます。2つの区分は「どのツールを使うか」よりも「ツールをどう使うか」の影響を大きく受けることに注意が必要です。仮に,電子メールや紙教材の郵送という方略であっても,学習者からの質問や課題の提出,講師からの解説やフィードバックの提示が可能であれば,双方向型と考えてよいでしょう。
遠隔教育での学修目標は?
では,1つ目の学修目標の位置付けから見ていきましょう。医学部では文科省の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」(コアカリ)や大学のディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)などに沿った学修目標が設定されています。この前提に立つと,学修目標そのものを大きく変えるのは難しいかもしれません。一方で,遠隔教育に絞れば,例えば「診察できる」「参加できる」といった技能や態度にかかわるものは評価方法や教育内容との関連から具体的な学修目標の検討が必要になります。
だからといって,難しく考える必要はありません。というのも,授業の設計にあたり従来考慮されてきたことだからです。知識に関しては一般的に,講義で教えて筆記試験で評価します。実技はシミュレーションや臨床で教えた後にOSCEによる評価があります。いずれも,学修目標に合わせて評価方法や教育内容を調節してきたことでしょう。遠隔教育も同様に,遠隔で可能なこと/困難なことを区分けした上で,学修目標を検討することがポイントになります(図)。
図 Millerのピラミッドモデルにおける分類2)から考える,遠隔教育の実現可能性 |
濃い色の部分が遠隔教育で代替可能な範囲。 |
遠隔教育における評価方法,その特徴と限界
次に,評価方法です。こちらも遠隔教育に切り替わったからといって,全体像が大きく変化するものではありません。学修目標が確定すれば,評価方法も連動してほぼ自動的に決まるものだからです。考えるべきは「遠隔でどこまで可能か」ということです。いわゆる成績評価のための総括的評価,学修を支援・促進するための形成的評価の両面から考える必要があります。
例えば筆記試験や口頭試問であれば,不正防止の検討をした上で,学習管理システム(LMS)やWeb会議システムなどを用いた実施が可能です。毎回の授業で小テストを課しているのであれば,その積み重ねで総合的に評価する方略も一案です。本連載では踏み込みませんが,いわゆる期末試験のような評価をどう行うかも,遠隔主体の教育では別途検討が必要でしょう。
不慣れな遠隔教育の開始にあたり,ついデメリットに注意が向きがちかもしれませんが,メリットもあります。遠隔,特に非同期型では,形成的評価を行う場合に評価の制約条件が軽減されることがあるからです。例えば1人3分間のプレゼンテーションを形成的に評価しようとする場合,学習者が100人いれば実施だけでも300分要します。これに加えて,もし講義時間内で評価までを行うとすれば相当な人員が必要です。しかし,学生に動画を提出させて評価するのであれば,授業時間内に全てを実施するという制約条件からは解放されます。評価の負担はなお残るものの,人的・時間的な制約条件はかなり軽減されます。
ただやはり,実際に身体診察を行うなど,実践に即した内容に関する評価方法は,遠隔のみでは不可
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