医学界新聞

一歩進んだ臨床判断

連載 谷崎 隆太郎

2020.02.24



一歩進んだ臨床判断

外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。

[第8回]入院中の患者に新たに出現した皮疹,これって薬疹?

谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長)


前回よりつづく

こんな時どう考える?

 脳梗塞後遺症で左上下肢の不全麻痺と軽度の嚥下障害がある76歳男性が,誤嚥性肺炎にて入院して4日目。現在は嚥下訓練を行いながらアンピシリン・スルバクタムの点滴が継続されている。幸い治療経過は順調だが,本日「体が痒い」との訴えでナースコールが……。訪室すると腹部と両側大腿に掻痒感を伴う紅斑が出現している。体温は37.5℃で皮疹に痛みはなく,眼結膜・口腔粘膜に異常は認めない。看護師は何を考え,医師にどう報告すべきだろうか?

入院中の患者に新たに生じた皮疹は,まず薬疹を考える

 入院中の患者さんに新たに生じた皮疹は,だいたい薬疹のことが多いです。やや極論過ぎる気もしますが,看護師の皆さんが実際に遭遇する頻度やその後の対応の重要性を考慮すると,入院中の患者さんに新たに生じた皮疹はまず薬疹の可能性を考えて良いと思います。もちろん,帯状疱疹などもたまに見掛けます。オムツ使用中であれば接触性皮膚炎も多いです。

 さて,薬疹とはその名の通り,薬剤投与がきっかけで起こる皮疹のことです。ピンクから赤の斑状(macules)~丘状(papules)の皮疹が生じ,次第に癒合していきます。約80%以上が斑状疹・丘疹(maculopapular rash)または麻疹様皮疹(morbilliform rash)で,残りの5~10%程度が蕁麻疹と言われています1)。具体的な皮膚の所見は,教育目的に医療情報を提供するウェブサイトからも参照できますのでご覧ください。

 通常は皮疹のみで粘膜障害は見られません。全身症状としては,38.5℃未満の発熱はよく見られます。発症時期は,典型的には薬剤投与開始から4~21日で起こり,遅延型のIV型アレルギーが関与すると言われています。ほとんどの場合,皮疹は原因薬剤中止により急速に消退し,1週間以内には自然に消失します。ですので,皮疹が出現した患者さんをアセスメントする際には,投与中の薬剤と,投与されてからの日数が情報収集の大切なポイントになります。

■備えておきたい思考回路
入院患者に新たに生じた皮疹は薬疹かもしれないので,投与されている薬剤とその投与日数を確認する。

薬剤投与早期に起こる皮疹で注意すべき点は

 投与4日後以降と言わず,即時型のI型アレルギーにより薬剤投与早期に蕁麻疹を起こすこともありますが,その鑑別で最も重要なことはアナフィラキシーショックの有無です。やはり皮膚所見は蕁麻疹が最も多く,紅斑や血管浮腫なども起こり得ます。アナフィラキシーショックを疑った場合は当然ながらABC(A:airway[気道],B:breathing[呼吸],C:circulation[循環])に異常がないか確認することが重要です。具体的には,吸気時の喘鳴や努力様呼吸の出現,呼吸数増加,SpO2低下,血圧低下などです。

 ちなみにアナフィラキシーを起こすと全身の血管透過性が亢進してさまざまな臓器症状を来します。また,腸管の血管透過性亢進を反映して腹痛や下痢などを来すこともありますので,D:diarrhea[下痢]の有無もぜひ確認しましょう。...

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