一歩進んだ臨床判断
[第9回] 肺結核疑いの患者が入院したら……?
連載 谷崎 隆太郎
2020.03.23
一歩進んだ臨床判断
外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。
[第9回]肺結核疑いの患者が入院したら……?
谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院 内科・総合診療科副部長)(前回よりつづく)
こんな時どう考える?
86歳男性,肺炎の診断で入院したが,肺結核の疑いで陰圧個室管理となっている。新人看護師から,「患者さんにN95マスクをしてもらわなくていいんですか?」と聞かれ,師長からは「部屋が一杯だから,隔離解除がいつになるか,ドクターに確認しておいてね」と言われた。どのような情報を確認すべきだろうか? |
結核は結核菌の感染によって起こり,全身のあらゆる臓器に病変を作る厄介な病気です。中でも,肺に病変を作る肺結核では,患者さんが咳やくしゃみをすることで結核菌が空気中に飛散し,他者へ空気感染するリスクがありますので,公衆衛生上,とても大きな問題を引き起こします。しかし,これまた厄介なことに,肺結核は臨床症状や画像所見だけでは,よくある細菌性肺炎と区別することが困難なので,診断が遅れることもしばしばあります。そこで私たち医師は,①抗酸菌塗抹検査,②培養検査,③核酸増幅検査の3つを駆使して肺結核を診断しています1)。
結核を疑った際の検査について
まず基礎知識として,結核菌は「抗酸菌」と呼ばれる菌の一種であること,そして,結核以外の抗酸菌のことを「非結核性抗酸菌(Nontuberculous mycobacteria:NTM)」と呼ぶことを知っておきましょう。その上で,それぞれの検査が何を示しているのを学んでいくと理解しやすくなります。
1)抗酸菌塗抹検査
簡単に紹介すると,痰などの検体を特殊な方法で染色して抗酸菌を顕微鏡で直接観察する検査です。主な染色法にはチール・ネルゼン染色または蛍光染色が用いられますが,蛍光染色のほうが感度が高いです。顕微鏡で菌が見えたら陽性と判定し,その菌量に応じて1+,2+,3+と報告されます1)。ちなみにこの表記,古くはガフキー○号と表されていましたが,現在は併記されることはあるものの基本的には用いられていません2)。よって,細かい話ですが,ガフキーというのは検査名ではなく程度を表す指標ですので,医師に確認する際には「ガフキー提出しますか?」ではなく「抗酸菌塗抹検査しますか?」のほうが正確です(なお,ガフキーとは,結核菌を発見したロベルト・コッホの助手であるゲオルク・ガフキーの名字です)。
さて,肺結核患者の喀痰の抗酸菌塗抹検査が陽性になると大変です。なぜなら,他者への感染力が強く,空気感染対策が必要になるからです(一方のNTMは,他者へ感染することはありません)。肺結核と気付かず一般病棟に入院させ,しばらく抗菌薬治療をしても治らないからと念のため出した喀痰の抗酸菌塗抹検査が「陽性」……,「実は肺結核でした」という状況は避けたいものです。
ただし,この抗酸菌塗抹検査はあくまで抗酸菌の有無を単に調べるものであり,「結核菌なのかNTMなのか」を見極める検査ではありません。そこで,次に培養検査を行うことで菌名を同定する必要があるわけです。
■備えておきたい思考回路
抗酸菌塗抹検査の陽性は,結核とは限らない。非結核性抗酸菌(NTM)かもしれない。
2)培養検査
この検査は一般的な細菌にもよく行われます。専用の培地に痰などの検体を塗って,コロニーと呼ばれる菌の集塊が生えてくるのをじっと待ち,そのコロニーを使って菌名の同定検査を行うものです(結核菌かNTMかも判別できます)。培養検査によって菌名を確定することも重要ですが,培養陽性になると薬剤感受性試験を行えるので,...
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