医学界新聞

2019.03.04



Medical Library 書評・新刊案内


検査値を読むトレーニング
ルーチン検査でここまでわかる

本田 孝行 著

《評者》米川 修(聖隷浜松病院臨床検査科部長)

簡便に実施できる基本13項目で完結したRCPC

 現在,購入者が極めて限られているはずの医学書が数多く出版されている。検査関係の書籍もしかり。同年卒業の本田孝行先生と私の頃とは隔世の感がある。

 数多の書籍から読むに値する検査の本を探し出す検査法が必要なほどである。多くは似たような内容,構成であり実際の選択に迷う。一冊手に取ってみよう。その書籍を読了した後に見える景色はいかがなものであろうか? 果たして,もう検査で悩むことはない自分を具体的にイメージできるだろうか?

 検査医学を学ぶのなら検査の原理はもちろんのこと,ピットフォールの知識も押さえておきたい。しかし,より重要なのは検査データを系統立てて解析できることであり,少しでも病態に近づけることである。その技術を自分のものとするには何をすべきなのか? そもそも,一部の専門家だけができる高等技術なのでは,と多少心配にもなってくる。

 それを効率よく簡便に誰にでも可能にする方法こそがRCPC(Reversed Clinico-pathological Conference)である。RCPCを通じて系統立てた解析法を学んでいく。だが,「言うはやすし」である。親切に教えてくれる人間が身近にいるだろうか? 適切な師匠を選ばないと偏った見方に染まり,矯正困難となる恐れもあり得る。

 向学心はあるが,どう対応していいかわからぬ医師,医学生,検査技師への最強の道具であり,武器ともなるプレゼントこそが,今回紹介する信州大の本田先生が満を持して単独執筆した書籍である。

 数年前から,日本臨床検査医学会学術集会では定期的にRCPCを取り上げるようになり,その中でも抜群の解析力で参加者を魅了してきたのが本田先生のグループである。本田先生を中心とする信州大の検査室の方々は,本書I章「栄養状態はどうか」から始まり,XIII章「動脈血ガス」に至る基本13項目で,あたかも実際に患者を診察したかのように病態解析をしてみせたのである。この基本13項目を用いた解析方法は,つとに「信州大学方式」として浸透してきた。その有用性は,信州大関係者以外が駆使・活用し,その効力を遺憾なく発揮したことで証明されたと言っても過言ではない。

 検査で忘れてならないのは「対価」の概念である。「対価」とは「価値/代償」のことである。患者に加える精神的・肉体的・経済的侵襲という代償に対して得られる情報が価値である。当然,「代償」が小さく「価値」が高いほどよい。本書の方式が有用なのは,診療科,施設を問わず簡便に依頼・実施できる基本検査項目で完結していることにある。特殊で高額な検査で辛うじて病態を把握しているのではない。ぜひ,基本的検査の解釈・活用を自家薬籠中の物として患者に還元してほしい。さらに「守」「破」「離」の精神で各自が新たな境地を開いていくことが,現在でも学生に合気道を指導している著者の願いでもあると感じる。

 蛇足となるが,この書籍は,初心者はもちろんのこと,自分は中堅・ベテランだと感じている臨床医にこそ読み解いてもらいたい。

B5・頁352 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02476-1


国際頭痛分類 第3版

日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 訳

《評者》戸田 達史(東大教授・神経内科学)

頭痛診療の頼もしい武器!

 これまでの調査によれば,わが国の頭痛罹患率は40%近くに上るとされており,脳神経内科医にとって避けては通れぬcommon diseaseであることはご存じのとおりである。日本神経学会としても脳神経内科がこれまで以上に診療に注力していくべき疾患として,脳卒中,認知症などとともに頭痛を挙げ,ファーストコンタクトを取る科としての役割を強調している。しかしながら,頭痛診療は難しい面があることも事実で,苦手意識を持つ脳神経内科,脳神経外科の専門医も少なくない。特に患者からの多様な訴えをうまく聞き出さねばならず,その内容から膨大な鑑別診断を見極める作業は多くの脳神経内科医が難渋しているものと思われる。本書の初版が1988年に発行されたとき,その診断基準のシンプルさに驚かされた。多岐にわたる頭痛の症状をA~Eのたった5つの項目にまとめていたからである。そのシンプルさは今版にももちろん引き継がれている。

 さて,本書は国際頭痛学会(International Headache Society)が2018年1月に発表した『International Classification of Headache Disorders 3rd edition』の日本語訳である。前述したように初版が1988年に,第2版が2004年に,そして第3版beta版(2013年)をはさみ,今回正式な第3版が出版されるに至っている。初版では,エキスパートオピニオンに基づく分類が多かったように思うが,版を重ねるにつれエビデンスの強化が図られてきた。原書第1版の序文には「あらゆる努力を傾けたにもかかわらず,いくつかの誤りは避けられなかった」と国際分類の前置きとしては随分弱気なコメントがある。しかし,いかに弱気であっても,勇気を持って最初の一歩を踏み出すことがいかに重要か。これが今版を読んで思うことの一つである。勇断により生み出された統一的な分類が臨床試験を促進し,その結果確立されたエビデンスが次版に組み込まれ,ブラッシュアップされた分類がより精度の高い臨床試験につながるといった,好循環のらせん形が作り出され,そのらせんの先頭に位置するのが今版なのである。

 前版の第3版beta版からどのような変更がなされているであろうか。その主たる部分は,beta版を作成した目的である実地試験の結果を反映できたところにある。各項目,細やかな見直しがなされ,確かに精度が高まっている。ただ,残念ながらbeta版作成時に期待された国際疾病分類改訂第11版(ICD-11)のコードを収録することはできていない。ICD-11の公表がずるずると遅れてしまったため,この点は致し方ない。

 本書は日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会により翻訳されたが,翻訳関係者の中心メンバーの多くは日本神経学会の頭痛診療ガイドライン作成委員や頭痛セクションのメンバーである。頭痛学の基礎と臨床に精通したエキスパートによる翻訳であり,原文に忠実でありながら,わが国の読者が理解しやすいように翻訳や訳語の選択にさまざまな工夫がなされていることも本書の特徴である。

 頭痛というのはcommon diseaseでありながら,患者の平穏な生活を脅かす厄介な疾患である。この厄介な疾患に正確に対処し苦痛を取り除くこと,それが国民が求める脳・神経の専門家としての脳神経内科の役割の一つである。幅広い神経学分野において,本書ほど網羅的に全ての疾患を診断基準とともに分類したものは珍しい。この頼もしい武器を手に脳神経内科医一人ひとりが臨床の場で存在感と影響力を発揮することを期待する。

B5・頁280 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03686-3


在宅医療カレッジ
地域共生社会を支える多職種の学び21講

佐々木 淳 編

《評者》高橋 昌克(釜石のぞみ病院医師)

在宅医療の現在が見通せる

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook