医学界新聞

連載

2018.09.24



今日から始めるリハ栄養

入院したときよりも機能やADLが低下して退院する患者さんはいませんか? その原因は,活動量や栄養のバランスが崩れたことによる「サルコペニア」かもしれません。基本的な看護の一部である「リハビリテーション栄養」をリレー形式で解説します。

[第8回]がんによるサルコペニア

今回の執筆者
永野彩乃(西宮協立脳神経外科病院摂食・嚥下障害看護認定看護師/NST専門療法士)

監修 若林秀隆・荒木暁子・森みさ子


前回よりつづく

症例

60代男性。腎機能障害を伴う多発性骨髄腫(国際病期分類III)で薬物療法を受けながら自宅療養中であった。トイレで意識消失し倒れたため,妻が救急要請。貧血・高熱を認め,精査と薬剤調整のため入院。薬物療法はVRD療法(ボルテゾミブ/レナリドミド/デキサメタゾン)を行っていた。既往歴は糖尿病,高血圧。

【入院時所見】身長163 cm,体重55 kg,BMI 20.7 kg/m2,Alb 3.0 g/dL,Hb 6.6 g/dL,CRP 3.65 mg/dL,BUN 44.9 mg/dL,Cr 2.07 mg/dL,eGFR 26.3 mL/分/1.73 m2,K 4.2 mEq/L,Na 135 mEq/L。下腿周囲径は左右33 cm,握力は右20 kg/左18 kg。高熱は分子標的薬ボルテゾミブの影響と考えられ,休薬。輸血合計4単位実施後,Hb 7.6 g/dLに上昇。3か月前に薬物療法を開始後,体重が5 kg減少した。妻がタンパク質制限食(1800 kcal/日,タンパク質45 g/日)を作っていたが,米や肉類が少なく野菜が多い食事は好みに合わなかったことと,味覚障害のため6割程度しか食べていなかった。また,サリドマイド関連薬レナリドミドの副作用によって両手に軽いしびれがあり,巧緻動作が難しかった。両足はビリビリする痛みが持続し,足底感覚が低下。倦怠感もあり,歩行時にふらつきがあったため,ほとんど外出しなかった。入院後は排尿に尿器を使用し,移動は車椅子。患者は「体重が減り,食事が食べられないことで妻に心配をかけていることがつらい」,妻は「いろいろ勉強し,頑張って食事を作っているけれど,なかなか食事量が増えない」と言っている。


患者とともに,家族のQOLが重要ながんのリハ栄養

 がん患者は,病状の進行とともに体重減少や低栄養を来します。このような状態を「がん悪液質」(cancer cachexia)といいます()。悪液質とは骨格筋の減少を特徴とし,食欲不振や体重減少を伴う代謝性の症候群です。がん患者の50~80%に合併し,化学療法や放射線療法などのがん治療への耐性や治療効果を減弱させ,術後合併症の発生率を増加させます。進行がん患者の約半数にサルコペニアを認め,サルコペニアの場合は抑うつ状態になりやすく,QOLも低下します1)

 がん悪液質のステージ(文献3より改変)(クリックで拡大)

 がん悪液質による症状は患者と家族に食に関する苦悩を与えるだけでなく,感情の衝突の原因にもなります2)。栄養療法や運動療法は,がん治療の継続とその人らしい生活を維持するための重要な支持療法です。そのため,がんのリハ栄養ではがん悪液質に伴う患者と家族の苦悩を理解し,QOLと身体機能の維持・向上を支えることが重要です。

リハ栄養ケアプロセスで,どう進める?

 がんに対するリハ栄養は,退院後の療養生活も見据えた長期の取り組みが必要です。本人や家族の生活史や希望を理解し,QOLに焦点を当てたゴール設定を一緒に考えます。

❶リハ栄養アセスメント・診断推論,❷リハ栄養診断
【悪液質】3か月で5 kg(8%)の体重減少,経口摂取不良を伴い悪液質と診断
【栄養障害】著明な体重減少,食事摂取量減少や筋力低下があり,悪液質と飢餓,侵襲による低栄養と診断
【サルコペニア】下腿周囲長が基準値以下,握力低下と歩行困難があり,疾患・活動・栄養によるサルコペニアの疑い(握力低下は薬剤性ニューロパチーの影響も考えられた)
【栄養素摂取の過不足】必要量...

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