在宅におけるサルコペニアと看護師が行うリハ栄養(豊田実和)
連載
2018.10.22
今日から始めるリハ栄養
入院したときよりも機能やADLが低下して退院する患者さんはいませんか? その原因は,活動量や栄養のバランスが崩れたことによる「サルコペニア」かもしれません。基本的な看護の一部である「リハビリテーション栄養」をリレー形式で解説します。[第9回(最終回)]在宅におけるサルコペニアと看護師が行うリハ栄養
今回の執筆者
豊田実和(リハビリ訪問看護ステーションハピネスケア看護師/NST専門療法士)
監修 若林秀隆・荒木暁子・森みさ子
(前回よりつづく)
症例
60代女性。4年前からうつ病,食欲不振,不眠で心療内科受診中。2年前から8 kg体重減少あり。食事が食べられず,筋力や体力が低下して手先に力が入らなくなり,生活に支障を来すようになった。原因不明の全身の痛みもあり徐々にADLが低下。介護保険を申請したが,認定調査で非該当となる。さらに機能低下が見られため,自ら当ステーションに電話で問い合わせ,「一日でも早くリハビリをしたい」と訪問リハを依頼。再度介護保険を申請し,要支援1の判定。外出できないため車椅子を自費で購入し整形外科に通院,電気治療など施行。自宅は一戸建てでエレベーターあり。キーパーソンである息子夫婦と同居しているが,フロアが別で日中は独居。室内移動は杖歩行で可能。既往は萎縮性胃炎。認知症なし。
【所見】身長147 cm,体重40 kg,BMI 18.5 kg/m2,Alb 3.4 g/dL,Hb 11.0 g/dL。握力は右13 kg,左11 kg。両下腿浮腫あり。巻き爪で炎症を認め,皮膚科で切開排膿施行。自宅内を伝い歩きで,食事の準備の5分間程度の立位保持がやっとの状態。
全人的な評価・介入が重要な在宅のリハ栄養
「食べられない」ことは,在宅でも入院でもよく遭遇する問題です。その原因は多岐にわたり,入院の契機となりやすいです。食べられない状態が続くことで低栄養に発展します。
高齢者の脆弱性は単純に加齢のせいではなく,GFTT(Geriatric Failure to Thrive)やフレイルという臨床像が関連しています。GFTTは「高齢患者に起こる広範な機能低下症候群で,疾患の合併や心理社会的要因を伴って身体的虚弱,認知機能障害,日常生活動作の障害の悪化を来したもの」です1)。フレイルは,身体的フレイル/精神心理的フレイル/社会的フレイルに分類されます。フレイルは身体・生活機能に多様な影響を及ぼし,高齢者の要介護を引き起こしやすくなります。
運動機能向上だけがリハではありません。障害者や高齢者の機能,活動,参加,QOLを最大限発揮できるような取り組みにより,その人らしい人生を再構築する考えをリハマインドと呼びます2)。
リハと栄養管理が,生命活動の維持回復において必要不可欠との理解を本人・家族に促し,全人的な評価,介入を行います。
リハ栄養ケアプロセスで,どう進める?
ケアマネジャーが作業療法士の週に1度の訪問と,看護師の月に1度の訪問を計画しました。利用者自身の回復をサポートするためにどんな支援ができるか,訪問看護計画を立案します。
❶リハ栄養アセスメント・診断推論
4年前からうつ病で食欲低下。トラゾドン内服治療中。不眠症にてニトラゼパム,ゾルピデム処方。老年期うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale 15)で9点。日本語版LSNS-6(Lubben Social Network Scale短縮版)で6点。LSNS-6は家族ネットワークに関する3項目,非家族ネットワークに関する3項目の計6項目を回答するもので,得点範囲は0点~30点。12点未満は社会的孤立を意味する。
「食べたい気がしない」,「食事を見た途端にお腹がいっぱいになる」と訴え,自覚症状から機能性ディスペプシアの疑いでアコチアミドを処方。急に食べられるようになったと話すが,時折飲み忘れる。六君子湯も処方されるが,効果はなし。便秘にて酸化マグネシウム,ルビプロストン,センノシド内服。体重減少,疲労感,身体活動低下,筋力低下よりFriedらの定義する身体的フレイルに該当。両下腿浮腫あり。
米国国立老化研究所ではGFTTの具体的症状として,「体重減少,食欲不振,栄養不足,活動低......
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今日から始めるリハ栄養(終了)
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