誤嚥性肺炎による医原性サルコペニア(松尾晴代)
連載
2018.05.28
今日から始めるリハ栄養
入院したときよりも機能やADLが低下して退院する患者さんはいませんか? その原因は,活動量や栄養のバランスが崩れたことによる「サルコペニア」かもしれません。基本的な看護の一部である「リハビリテーション栄養」をリレー形式で解説します。[第4回]誤嚥性肺炎による医原性サルコペニア
今回の執筆者
松尾晴代(鹿児島市医師会病院 摂食・嚥下障害看護認定看護師/NST専門療法士)
監修 若林秀隆・荒木暁子・森みさ子
(前回よりつづく)
症例
70歳代男性。狭心症,うっ血性心不全,誤嚥性肺炎で入院。入院時から発熱,喘鳴,SpO2低下を認め,呼吸管理を開始。輸液や抗菌薬を投与している。栄養管理は輸液と経口摂取を併用。入院4日後に肺炎は改善したが,痰の自己喀出力が弱く,湿性咳嗽やむせ,疲労感を認め食事摂取量は3割程度。
【入院時所見】身長154.5 cm,体重40.7 kg,BMI 17.0 kg/m2。握力は右13.5 kg,左11.0 kg,下腿周囲長27 cm,上腕周囲長21 cm。Hb 8.5 g/dL,Alb 2.4 g/dL,リンパ球数1050/mm3,CRP 8.5 mg/dL,EF(左室駆出率)52%,皮膚の乾燥あり。バーセルインデックス(ADL評価)は15点で,排泄・移乗動作は全介助。呼吸困難感と疲労感で耐久性が低く,座位保持が困難。MNA®-SF(簡易栄養状態評価表)2点で低栄養と判定。咀嚼や食塊形成に時間を要し,食物の送り込みは可能なものの,口腔内乾燥,咽頭に痰と唾液貯留を認める。
早期経口摂取が重要な誤嚥性肺炎のリハ栄養
誤嚥性肺炎では経口摂取量が低下し,低栄養や脱水,摂食嚥下機能低下を認めることがあります。肺炎で入院する嚥下障害患者は,高齢でADLが低く,低栄養で合併症が多いです1)。経口摂取を禁止すると肺炎治癒までの期間が長くなり(禁食群13日, 早期経口摂取群8日),摂食嚥下機能が低下します2)。
また,不適切な栄養管理や長期臥床,廃用性筋萎縮は二次性サルコペニアやADL低下の原因となります。絶食下での電解質輸液投与だけでは,侵襲や消耗,リハによる消費エネルギー量増大で飢餓が進行してしまいます。そのため看護師には,呼吸数や脈拍,食欲低下,体重減少,活動量,筋量や脂肪量,浮腫などの観察が求められます。低栄養の原因を把握して,総合的な判断のもと栄養評価を行い,適切な栄養療法を提案します。
食事や排泄,清潔援助の中で,起き上がり動作や座位・立位保持などの介入を行います。特に早期経口摂取が重要3)で,嚥下リハが誤嚥性肺炎患者の早期経口摂取自立につながります4)。むせの有無や頻度,喀出力や湿性嗄声,口腔内環境,食事時の姿勢や摂取量に注目し,栄養摂取方法や必要量,食形態を決定します。
リハ栄養ケアプロセスで,どう進める?
肺炎後の廃用症候群高齢者では,92%にサルコペニアを認めます5)。適切にリハ栄養を実践し,栄養管理と運動,経口摂取で栄養状態やADL改善,摂食嚥下機能の維持・向上を図ることが肺炎の治療とともに重要です。リハ栄養の実践では,看護師は看護診断のもと評価・診断,ゴール設定,介入,モニタリングを行います。
❶リハ栄養アセスメント・診断推論,❷リハ栄養診断
疾患,活動状態や生活背景から,栄養障害,サルコペニア,摂食嚥下障害,栄養素摂取の状態を評価します。
【栄養障害】血液検査と栄養評価で飢餓と侵襲があり,高度の低栄養と判断
【サルコペニア】筋量,筋力,身体機能低下があり認める
【摂食嚥下障害】誤嚥性肺炎,嚥下機能低下があり認める
【栄養素摂取の過不足】食事摂取量が3割(約400 kcal)で,タンパク質,脂質,糖質の摂取不足と判断
本症例はサルコペニアの可能性が高いと判断しました。医原性サルコペニア予防のため...
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