研修は万能薬ではない(政岡祐輝)
連載
2018.02.26
院内研修の作り方・考え方
臨床現場で行われる研修会や勉強会をより効果・効率・魅力的な内容にするために,インストラクショナルデザインを用いた研修設計をご紹介します。初めて教育委員を任された「はじめさん」,頼れるベテラン看護師「ゆう先輩」と一緒に,教育を専門に学んでいなくても自信を持って教えられるスキルを学びましょう。
【第11回】研修は万能薬ではない
政岡 祐輝(国立循環器病研究センター副看護師長/熊本大学教授システム学研究センター連携研究員)
(前回よりつづく)
研修以外に効果・効率的な方法
(はじめさん) ゆう先輩に教わりながらいろいろな研修に携わり,研修設計の仕方が少しずつわかってきました。来年度は,看護実践能力を上げるために研修をたくさん企画しようと思います。
(ゆう先輩) おいおい,研修はただ開催すればいいってもんじゃないよ。研修以外にも実践能力を上げる方法はあるよ。
研修を開催することが目的化し,学習目標到達や現場での実践に活かされているかまで評価しない「教えたつもり」の研修は,時間や労力を無駄にかけた研修,自己満足の研修と批判されても仕方ありません。第1回(第3221号)で述べたように,教育担当者に求められるのは,学ぶ/学び合う場を創ることと学習をサポートすることです。学習の場/学習の方法は,図の4つが考えられます。研修は企画・準備に多大な時間を要し,業務時間も犠牲にして行われるものです。図のように,OJTの効果的な実施や業務がスムーズに進むツールの活用,学習者が実践で必要とする情報,スタッフ同士で学び合えるコミュニティーなど,研修で学ぶよりも効果・効率が図れる方法はいくつもあるのです。教育担当者は研修を企画する前に研修以外の選択肢もしっかりと念頭に置いておきましょう。
図 4つの学習方法(文献1を参考に筆者作成) |
看護師は,大学・専門学校を卒業してからも学び続けなければなりません。実践には基礎となる知識が必要とされ,多くの施設では知識付与型の院内研修が開催されていると思います。患者の受け持ちには,その患者の疾患や治療などに関する知識付与型の勉強会を受講してからでないと担当できない体制を取る病棟もあるでしょう。
基礎とは,応用となる実践に必要なものです。応用/実践が一体どんなものかわからないままに基礎となる知識を学んでも,高い学習効果は必ずしも望めません。まず,応用/実践を体験させた上で,本当に必要な基礎的知識を学ぶほうがより効果的です(第4回・第3233号に紹介したメリルのID第一原理で,最初の原理が「問題」であることに通じます)。
また,実践でうまくいかなかった点や疑問点などを「情報で学ぶ」につなげることで,研修を行わなくてもよくなる場合があります。患者の安全のためには,もちろん実践する前に習得しておくべき知識もあるので,知識付与型の研修が悪いとは一概には言えません。しかし,看護師は給与をもらって働いている専門職です。日看協「看護者の倫理綱領」でも継続的な学習が求められている通り,患者を担当するに当たり必要となる知識は,自ら率先して学ばなければなりません。
とはいえ,新人看護師などの若手に自己学習を課すと,学習しなければならないことが膨大で多大な負荷をかけてしまうことにもなりかねません。そこで,手順書の該当するページ,見るべき資料を指定するなど必要となる学習範囲を最低限示すことや,知識不足でもそれをOJTでサポートできる体制が必要です。
大切なことは,何でも一方的に与えるのではなく,自ら学ぶ力も養われるような教育を展開していくことです。
美学的経験となる研修をめざす
(ゆう先輩) 現場でできないことは何でもかんでも研修で解決,という安易な考えは捨てないと。だけど,せっかく集まるのであれば効果・効率の高い研修を提供したいよね。
(はじめさん) はい。しっかりと現場の課題を分析し,必要な研修を考えます。そして,いざ研修を開催するとなれば,インストラクショナルデザイン(ID)のモデルを参考にします。
(ゆう先輩) そうだね。効果・効率的な研修を提供しつつ,もっと勉強したい,看護がもっと好きになったと思える魅力的な研修をめざそう!
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