家族付添許可申請書をめぐって(井部俊子)
連載
2018.02.26
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加国際大学名誉教授 |
(前回よりつづく)
2018年1月26日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で,「急性期一般入院料」の重症患者割合をどう設定するかについて議論された。診療側・支払側の隔たりを埋めることが難しいと判断した公益代表の裁定によって決着した,と報じられた。2018年度診療報酬改定の最大の目玉となる「7対1および10対1一般病棟入院基本料の再編・統合」に関して,現行の7対1相当である「急性期一般入院料1」の重症患者割合(一般病棟用の重症度,医療・看護必要度Iの基準を満たす患者割合)は30%(看護必要度項目の定義見直し後)とすることになった。
2018年度診療報酬改定では,急性期から長期療養に至る入院基本料・特定入院料が,看護配置などに応じた「基本部分」と,診療実績に応じた「段階的評価部分」とを組み合わせた報酬体系へと組み換えられる。このうち7対1と10対1の入院基本料については,重症患者割合を診療実績の指標として7種類の「急性期一般入院料」に再編・統合される。
入院基本料における「看護の実施」方針
「入院基本料」として慣れ親しんできた用語は,2018年度診療報酬改定によって姿を消すことになる。しかし,現行の入院基本料で規定されている施設基準の多くが踏襲されていくと想定して,本稿では「付添い」について取り上げたい。
現行の入院基本料の施設基準「7)看護の実施」の次に「看護の実施に関連する参考事項」がある。この項目には以下のように記され,参考として「家族付添許可申請書」(図)が示される。
1.付添い
看護の実施①を遵守して行われること。 (1)付添は本人又は家族の希望によるものであって,病院側から要求しない。 (2)主治医が付添いについて患者の状況を考慮して許可し,その旨を記載しておく(下線は筆者)。 |
図 家族付添許可申請書(様式例)(クリックで拡大) |
私は長い看護管理者としての経験から,さらに看護管理者を退任したあとも,この「家族付添許可」という制度に疑問を持っていた。看護管理者の時代には,入院基本料を取得するために従順にその役目を果たしていた。つまり不本意ながら「家族付添許可申請書」を管理していた。
前出の「看護の実施①」は次のように示される。「看護は,当該保険医療機関の看護要員のみによって行われるものであり,当該保険医療機関において患者の負担による付添看護が行われてはならない(下線は筆者)。ただし,患者の病状により,又は治療に対する理解が困難な小児患者又は知的障害を有する患者等の場合は,医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者が付き添うことは差し支えない。また患者の負担によらない家族等による付添いであっても,それらが当該保険医療機関の看護要員による看護を代替し,又は当該保険医療機関の看護要員の看護力を補充するようなことがあってはならない」。
「家族付添許可申請書」を見直すべき3つの理由
このような「看護の実施」方針は,以下の3点の理由から見直す時期に来ている。
まず,(看護)サービスの特性のひとつに「顧客との共同生産」がある。対人サービスは顧客を対象とする活動であるから,実際のサービス活動は顧客とサービス提供者との相互作用の形をとる。このことは顧客がより積極的な役割を担わなければならないことを意味している1)。家族の付添いという「参加」を基本的に排除している体制はサービスマーケティングからみると効率的でないことがわかる。
さらに,家族の看護への参加は,看護要員とは異なる機能がある。夜間せん妄の患者は家族の存在によって混乱が落ち着くことは経験的に知られている。看護要員の代替機能ではなく,家族が持つ特有の機能がある。
最後に,家族の付添いの必要性や重要性を現実的に判断し調整しているのは看護師である。これは「療養上の世話」業務の範囲に入るものであり,「医師の許可」ではなく「医師への報告」でよい。
*
金沢大学附属病院の「抑制しない看護へのチャレンジ報告会」では,せん妄が遷延する患者について夜勤担当看護師から以下の報告が行われた2)。「追加の眠剤与薬のとき,そばにいることを伝え,ベッドサイドに椅子を置き,座りながら患者の手をさすった。患者さんは,“やっと会えた,こんな話をする時間があるのか,忙しいやろう”と言いながらも,“そばにいてくれてめちゃくちゃうれしい”と言われた。そして,5分ほどで入眠された」。
人が人を縛る非人道的な行為とされる身体抑制を,人が人に付添うという人間的な行為に変えるには,権威的・排他的な「家族付添許可」をまず修正しなければならない。
(つづく)
参考文献
1)近藤隆雄.サービス・マーケティング.第2版.生産性出版;2010.
2)小藤幹恵.高度急性期医療の場での抑制しない看護へのチャレンジ.看護.2018;70(2):70ー5.
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