医学界新聞

連載

2017.03.13



臨床医ならCASE REPORTを書きなさい

臨床医として勤務しながらfirst authorとして年10本以上の論文を執筆する筆者が,Case reportに焦点を当て,論文作成のコツを紹介します。

水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)

■第12回(最終回) Case Reportマイスターから学ぶ(後編) 指導医もいろいろ考えてる!


前回よりつづく

水野 前回に引き続き,3人の先生に座談会形式でお話を伺います。今回は,後輩指導の実際を教えてください。

やはり経験が必要

忽那 私の場合,指導するというより,自分やレジデントが診た中で,「これは絶対に面白いからCase reportを書くべき」と思う症例を紹介し,「もし書きたいなら,私が見るから一緒に書こう」と提案しています。本来なら自分が書きたい症例なのでレジデントに譲るのはちょっと悔しい面もありますが,一緒に書くのも面白いです。

 とりあえず英語で書いてきてもらって,ディスカッションのポイントをどこに置くかなどを中心に話し合います。

皿谷 私も指導をするのは,主に臨床的な考察(ディスカッション)です。英語はとりあえず適当でいいから書いて,最後に英文校正に出せばよいとアドバイスしています(笑)。

志水 私が英語論文を書き始めた際には,バッティングセンターに行く感覚で,NEJMやBMJのCase reportを読んでいました。特にNEJMはちゃんとした英語を書いている方が多いので,最初のうちは参考になる言い回しをストックすると良いと思います。

皿谷 書き慣れてきたら,同じ内容でも変化をつけられるようになると面白いですよね。全部を直球勝負でいくのではなく,一番言いたい部分を生かすためにカーブやフォークも交える

水野 マイスターたちも書きながら学習してきた感が出ていますね。やはり経験が必要なのでしょうね。

レジデントが忘れないうちにできる限り早めに見てあげよう!

水野 実際の指導は,面と向かって行うことが多いですか? それともメールなどで行いますか?

忽那 直接話すこともありますが,メールでのやりとりが多いですね。

皿谷 私は日本語で書いてきたものを一緒に英語に直すときなどは,同じ部屋でパソコンを2台並べてやります。ファイルのやりとりにはDropboxを活用しています。進捗状況が随時わかりますし,誰かがファイルをアップロードするとパソコン画面の右下にポップアップが出るのも便利です。

水野 レスポンスはどれくらいで返していますか?

志水 できるだけすぐに返すようにしています。症例を診たときの生々しい記憶は,時がたつにつれて薄れてしまうので。当院総合診療科では,Case reportは診た日に書いて投稿することを目標にしているため,「そう言うからには,すぐに見てくれるんですよね?」という空気が(笑)。後輩から確認をお願いされたら自分の仕事は全部中断する勢いです。後輩ファーストという鉄のルールに従っていて,そのせいで自分の論文は遅れます。

忽那 それは大変そうですね。私はその日には返せないですが,3日以内には返すようにしています。

お蔵入りを防ぐために~期限を区切る~

水野 皆さんRapidですね! 逆に,コメントを返したものの,その後戻ってこない,途中で脱落してしまう人もいますよね。そういうときはどうしていますか? どれくらい待ちます?

忽那 内容によりますね。急ぎではない症例なら半年くらい待つこともあります。逆に,世界初など,先を越されたくない症例は時間を区切って急がせます。先日は,キューバ国内ではまだ報告がないチクングニア熱にキューバで感染してきた日本人旅行者の例を1か月で書くように言いました。

皿谷 指導医としては,ある程度期間を決めて,それを過ぎたら一緒にやろうと提案するのが良いと思います。私は逃さないように,部屋に連れて行って書かせます(笑)。

忽那 当院ではないですが,なぜ論文化しないんだろうと思う,もったいない症例もありますからね。

皿谷 自分が研修医のときを思い返すと,知識不足や英語への苦手意識の問題だけでなく,論文を書きたくても書ける状況ではありませんでした。スタッフが少なくて,自分が死ぬか患者が死ぬかみたいな忙しさだったんです。しかし,そのような中で診た症例でも,今も頭に残っているものはいくつかあります。実は最近,研修医時代に診た症例を振り返って,論文にしました。これくらい長期的に,自分の中で熟成されるのを待っても良いのかもしれません。

 ただ,今のレジデントたちは,日々ものすごい数の患者を診ています。そうした環境では一度機会を逃すと,一生書かない可能性が高い。一緒にやるから,今はちょっと頑張って書いてほしいという気持ちがあります。

水野 どれくらい待つかの問題は,後輩指導だけでなく共著者とのやりとりなどでも生じますよね。

皿谷 そうですね。昔,first authorになるべき人が4年ぐらい埋もれさせていたので,しびれを切らして私が全部書いたことがあります(笑)。

忽那 共著者に回す場合などは,レジデントを相手にするとき以上にしっかり,「何月何日に英文校正に出すので,意見がある人はこの日までに」と区切ってしまうのが良いと思います。

志水 「飲み会に“行かない人”は返事ください」方式ですね。

忙しい合間に書くためのコツ

水野 忙しい臨床の間に論文を書いているわけですが,タイムマネジメントはどうしているのでしょう。

皿谷 ある程度まとまった時間がないとできないタイプなので,病棟業務後の夜に書いています。夕飯を家で食べてから大学に戻ったり。休む時間も必要なので賛否両論あるとは思いますが,土日にやることも多いです。

忽那 私は朝,病棟業務を始める前の1時間を使ってコツコツとですね。

志水 私は移動が多いので,参考文献をPDFなどでパソコンに入れておき,空いた時間に書けたら書く方式です。

水野 皆それぞれですね。参考文献は論文を書きながら読むほうですか?

皿谷 書くときは書く,読むときは徹底的に読むと分けています。昔やっていた方法は「読む」「マーカー部分を読む」「それをタイプして写す」の3工程でした。文献をプリントアウトして,勉強になる言い回しなどにマーカーを引きながら読む。何本も読んでいると最初のほうに読んだ文献の内容はどんどん忘れていくので,2回目はマーカー部分だけを追って,書いてあったことを思い出しながら読む。

水野 なるほど,勉強になりそうですね。論文を書くために必要な知識のリサーチには何を活用してますか。

皿谷 まずは最新のレビュー読んで,自分の症例を思い浮かべながら,「このあたりは合致する」「ここがポイントになりそうだ」と探っています。

忽那 私はまずはPubMedで検索します。楽をしたいときはUpToDate®を見て,そこから引用元の論文にさかのぼって読んでいきます。

臨床研究に対する考え方

水野 最後に,Case report以外の臨床研究に関するお考えを教えてください。

皿谷 臨床医であれば,まずはCase reportから始めて,Original articleにつなげると良いと思います。症例から生まれたクリニカルクエスチョンを確かめるために,同様の症例を集めていく流れは一般的です。

忽那 同感です。私自身,現在取り組んでいる研究も,初めて書いたOriginal articleも,最初の気付きは症例でした。デング熱ではあまりCRPが上がらないことが気になり,症例を複数集めてマラリアと比較しました。症例を発展させるやり方だと,症例報告と臨床研究の両方の面白さが味わえます。

志水 一般的な医学研究とは少し異なりますが,私は診断の定量化やQI,コスト削減などの研究に取り組んでいます。総合診療医なので少し特殊かもしれませんが,自分がどういうかたちで医療に貢献できるかという観点で考えるのも良いと思います。

水野 臨床現場にいる医師がどのように論文執筆や研究にかかわるのかは,大切なテーマです。マイスターの先生方のご意見はきっと読者の皆さんの役に立つでしょう。

左から順に,志水太郎氏(獨協医大病院総合診療科・総合診療教育センター),皿谷健氏(杏林大病院呼吸器内科),水野篤氏,忽那賢志氏(国立国際医療研究センター病院国際感染症センター)

(了)

 今回で全12回の連載は終了です。本連載では,論文を一人で書けるようになるために役立つコツを,私が経験上困った点を中心に紹介しました。紙面の都合上,駆け足で詰め込んでしまいましたので,質問などございましたらいつでもご連絡ください。

 第1回(第3170号)で触れたように,臨床医には「全ての患者をCase reportに!」という気概で日常診療をしてほしいと思っています。「臨床に還元するぞ」という熱い思いがあれば,論文を書く苦労もきっと報われます。臨床現場での成長と同じく,一回の成功体験が皆さんの世界を変えることがあります。まずは1本書いてみましょう! それでは,またお会いする日まで。

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