医学界新聞

2016.12.19



Medical Library 書評・新刊案内


“脳と心”からみた
統合失調症の理解

倉知 正佳 著

《評 者》篠崎 和弘(和歌山県立医大教授・神経精神医学)

精読を強くお勧めする優れた総説

 優れた総説を探し当てて読むことを若い後輩には勧めています。折々には単行本の精読も勧めますが,英文だと反応が鈍いものです。著者自ら統合失調症の「古典的精神医学と現代の精神医学の橋渡し的役割をはたしているかも知れない」(p.279)とあとがきに記された本書は,精読を強くお勧めする単行本です。また幸いに日本語です。母国語でこの高いレベルの本が読めるのはこの国に生まれた僥倖と言えるでしょう。若い医師たちや,研究をめざす医師はもちろん,臨床で活躍している医師にも,読んでいただきたい本です。

 臨床家の中には,研究段階の生物学的知見が臨床に必要か,と疑問を持たれる方もおられるでしょう。それに対する答えはこうです。臨床家は「統合失調症は(中略)患者や家族の人生に深い影響を及ぼす。この疾患を予後良好な疾患にするためには,何をすればよいのだろうか」(p.iii)と工夫を凝らしていることでしょう。また統合失調症の全体像が未解明であること,薬物治療が満足できるレベルに達してないことにも歯がゆい思いをされると思います。それゆえ,不完全な知識と技術で臨床をしている,という危うさを熟知しておくことは,専門家としての責任であり,また治療の選択肢を増やしてくれるはずです。この本が「理解」と題されているのはそのような意味もあってではないでしょうか。

 第1章はクレペリンに始まって,最終章は早期介入(ARMS)で終わっています。主要な研究や病態仮説が網羅されており,読者は鳥瞰的な理解へ導かれます。文章は論理的で,読み手を先へ先へと導いてくれます。

 全ての章においてご自身の見解が披瀝されているのですが,ご自身と教室の論文に全てが裏打ちされています。精神科医として神経病理学でスタートされ,神経薬理学,神経心理学,画像研究,認知神経心理学,精神生理学,遺伝子解析と広い領域で業績を挙げておられることの証でしょう。そのため教室の研究に基づくレビューではありますが,包括的で偏りのない内容となっています。

 本書は3部,13章で構成されています。第I部「統合失調症とはどのような疾患か」では概念,症候学,疫学,発病仮説,転帰,転帰に関連する要因が紹介されています。第II部「統合失調症の神経生物学」は神経心理学,認知機能障害,脳の形態学的変化,病態形成,病態生化学的仮説から構成されており,最も読み応えがあります。なかでも,側頭-前頭2段階発症仮説(第10章)は著者のオリジナルです。「神経発達障害に由来する側頭葉の脆弱性がある方に思春期前後に前頭葉の成熟障害が加わると,側頭葉障害が顕在化し統合失調症症状(ドーパミン過剰伝達)が発現する」。このジャクソン流の動的仮説によって,前頭葉障害による陰性症状と内側側頭葉構造による陽性症状の両方を多くの患者が持つことについてなるほどと納得させられます。この仮説からどのようなバリエーションが導かれるのかも言及されていますので,本書を手に取って楽しんでください。

 第III部「予後良好な疾患にするために」でも著者が富山で関与しておられる新薬開発の橋渡し研究と,早期介入活動が紹介されています。

 本書から読み取れる別の興味は,研究と人材育成の素晴らしい堅固なシステムを新設医科大学で作られたことです。地域医療と人材育成を目標として,国際的に評価される臨床研究活動を梃にされました。臨床研究の充実と,基礎と臨床の橋渡しができる人材の育成が臨床医学の課題ですが,成功例として参考になります。

A5・頁304 定価:本体4,800円+税 医学書院)
ISBN978-4-260-02552-2


COPDの教科書
呼吸器専門医が教える診療の鉄則

林 清二 監修
倉原 優 著

《評 者》川島 篤志(市立福知山市民病院研究研修センター長/総合内科医長)

COPD診療現場の悩みに応える臨床本

 著者の倉原優先生を紹介する際には,質の高い有名なブログから始まることが多い。隠れファンの1人である評者も,「コストを意識した吸入薬の一覧表」がSNSでアップされていたことをきっかけにコンタクトを取らせてもらった。が,実はまだお会いしたことがない。しかし,そのアプローチが奏功したのか,今回,本書の書評を書かせていただく貴重な機会を頂戴した。医師不足・偏在の存在する地域基幹病院の病院総合内科医として勤務している立場からすると「呼吸器専門医が教える診療の鉄則」であるこの書籍の存在はとても心強い(呼吸器専門医の不足・偏在については日本呼吸器学会からも提言がなされている)。

 COPDのアウトラインについて,歴史や定義だけでなく+αの病態(話題のACOS,CPFE)にも触れておられ,さらには禁煙支援,リハビリテーション・栄養療法,そして人生の最終段階の医療の方法についても言及されているので,“疾患だけでなく,人を診る”ことを意識させてくれる。非呼吸器内科医が毛嫌いする可能性のある吸入薬についても,臨床試験結果をコンパクトにまとめながら,薬価や使い勝手についても併記されている。図表や写真が多用されているので,高い質で頭を整理するには最適の項目である。さらに第III部「ちょっと知りたいCOPDの実臨床」には,「前立腺肥大症の併存」など,現場の悩みを共感してくれている臨床的な書籍である。

 “わかりやすいCOPDの本に”とも表現されているように,軽いタッチで記載されているので多忙な医療従事者でも短時間で通読できる。随所にちりばめられている「ステップアップCOPD」というコラムも心を和ませてくれるが,お笑いセンスの質評価は直接お会いしたときの楽しみにしておこうと思う。強制的に出る息(強制呼気)が,「はーっ!」(失礼しました!)となるか,「ふぅ~」(……溜息)となるか,今後の臨床スタイルが変わるかも……しれない(詳しくは本書p.62参照)。

 最後に,この書籍は「COPDを診療するすべての医療従事者へ」とある(帯より)。“喫煙者”を診療しない内科医・かかりつけ医は皆無である。医療従事者としての矜持があれば,この書籍を手に取って自身のCOPD診療の質向上をめざすか,適切に対応してくれる医師との連携の必要性をCOPD患者さんに伝えてあげてほしい。この書籍の存在が,呼吸器内科医が不足・偏在している日本のCOPD診療の質向上に大きく寄与すると確信する。

A5・頁348 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02429-7

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