進歩の原理:生涯学習の態度と方法(岩田健太郎)
連載
2016.09.19
The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言
「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。
【第39回】
進歩の原理:生涯学習の態度と方法
岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)
(前回からつづく)
ジェネラリストよりも,スペシャリストよりも,「ジェネシャリ(ジェネシャリスト)」のほうが医師のモデルとしてふさわしいという話をずっとしている。しかし,言うはやすし。行うは難し。ジェネシャリになることも,そうあり続けることも簡単ではない。
これは生涯学習の問題だ。
医学は進歩していく。細分化と情報増大が著しい医学の世界は“肥大”していると言ってよい。かつて見えていたはずの医学・医療の進歩の境界線は,はるかかなたの見えないところにある。
全領域において全ての医学知識をカバーするのはとても不可能であり,それを目標にすべきではない。いわゆる“ジェネラリスト”だって(かつて多くの若手医師がそうなりたいと憧れたように)“何でもできる”わけではない。ジェネラリストであってもスペシャリストであっても,知識と技術が包括する範囲は,自分の診療環境にフィットしたものに限られる。悪性リンパ腫の最新の分類を暗記し,スワン・ガンツ・カテーテルをやすやすと入れるジェネラリストは稀有だろうし,そういう人をジェネラリストとは呼ばないだろう。
*
そこで生涯学習である。“肥大”し続ける医学の世界で,いかに勉強を重ねて進歩し続けることが可能であろうか。
一つは,「ノウハウ型」(=回答型)のアタマの使い方から,「質問型」のアタマの使い方に変換することである。
世の中は2つに大別できる。私の知っていることと,知らないことだ。私の知っていること,つまり「ノウハウ型」の知の体系内で勝負している限り,経験が重なっていけば学ばなければならないことは減っていく。研修医のときは薬の名前や投与量,輸液の使い方を覚えるのに四苦八苦したけれども,経験を重ねていくうちにそういうことはソラでできるようになる。言い換えるならば,“知っていること”は洗練されていく。
日本人の学習法は基本的に「ノウハウ型」だ。こういうときはこうすればよい。ああいうときはああすればよいというknow how,あるいはdo howの積み重ねだ。この型を覚えると日常診療は楽になるし,経験が長くなればさらに楽になる。経験値依存型の知の体系なので,年長者は年少者よりも常に偉い。「こういうときは,こうするものよ」と言えるパターンを多く持っている者の勝ちだからだ。卒後年数をすぐに知りたがり,「どちらが上から目線で物を言えるか」確認したがる日本の医者ムラは,ノウハウ型の診療が幅を利かせている結果とも言える。
ノウハウ型の知の体系であれば,年長者になればなるほど勉強するインセンティブを失ってしまう。だから勉強しなくなる。日本の多くの医者が,年齢が上がれば上がるほど勉強しなくなるのは,このためだ。
*
しかし,“知っていること”ではなく“知らないこと”にウェイトを置く質問型のアタマであれば,経験値が無勉強を促すことはない。経験を積めば積むほど,患者の観察が細かくなり,これまで読み飛ばしていた疑問に対して,より自覚的になれるからだ。臨床医学において,わからないものはたくさんある。例えば,「尿酸値が高ければアロプリノール飲ませとけ」だったのが,「アロプリノールが患者に何をもたらすのか」というさらに高次の質問に転化できる...
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