感情のメカニズム(井部俊子)
連載
2016.07.25
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加国際大学特任教授 |
(前回よりつづく)
このところ,「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」誌で連載している「世界標準の経営理論」に注目している。執筆者は入山章栄氏(早稲田大ビジネススクール准教授)である。彼が一人で毎回執筆している。「世界標準」という命名にも誘われる。
2016年7月号のテーマは「職場環境と感情の理論」である(41巻7号,126~137頁)。「感情のメカニズムを理解してこそ,組織は動き出す」という。今回はその概略を紹介したい。
経営学で扱う三種の感情
経営学で取り扱う感情には三つの種類がある。それらは「分離感情」「帰属感情」「ムード」である。
分離感情(discrete emotions)とは,怒り,喜び,憎しみ,恐れ,嫉妬,驚き,悲しみ,幸福,ねたみ,いらつきなど,一般にわれわれが感情と呼ぶものであり,学術的には分離感情と呼ばれる。分離感情は外部刺激によって引き起こされ,短い期間で収まりやすい。
帰属感情(dispositional affect)とは「感情の個性」を指す。この感情は,ある程度安定的に一人ひとりが持つ特質であり,「彼女は常にポジティブだ」「彼はいつも心配性だ」「うちの部長は怒りっぽい」などがそれに当たる。帰属感情は「ポジティブ感情」(Positive Affect;PA)と「ネガティブ感情」(Negative Affect;NA)に大別される。
個人の帰属感情は,短時間で変化する分離感情と異なり,安定していて計測しやすいため,実証研究が進んでいる。代表例としては,1980年代後半にデイビッド・ワトソンらが打ち立てたPositive and Negative Affect Schedule(PANAS)がある。PANASは,個人の心理状況を苦悩,驚き,自信,怒りなど20の感情表現に基づいて質問票で調査し,最終的にPAとNAの高さとして集計される。この指標は心理学者だけでなく,セラピストなどにも広く応用されている。
ムード(mood)とは感情の集合体を指す。組織や職場は人の集合体であるからである。職場のムードの研究はミクロ組織論で重要な位置を占める。ムードは,「この職場は元気な職場だ」「このオフィスはいつも雰囲気が悪い」などと,比較的安定して職場に定着している。
これら3つを包括する概念を,学術的にアフェクト(af...
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