医学界新聞

連載

2016.02.22



看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第134回〉
看護教育のカリキュラム改革

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 2016年の年明けは「タナー先生と看護教育を考える1週間」(通称:Tanner's week)で始まった。聖路加国際大学大学院では,「フューチャー・ナースファカルティ育成プログラム(FNFP)」を,文部科学省「看護系大学教員養成機能強化事業」(2013-2015年)の一環として実施しており,タナー先生(米国オレゴン健康科学大学名誉教授)はその評価会への出席のため来日されたのである。

「質の隔たり」を埋めるための統合教育

 タナー先生の刺激的なレクチャーの中で私がコーフンしたのは,オレゴン看護教育コンソーシアム(Oregon Consortium for Nursing Education ; OCNE)の活動である。OCNEでは現在9つのコミュニティカレッジと6つの看護大学(オンラインを含む)が,学士号取得のための,コンピテンシーを基盤としたカリキュラムを開発し運営している。「このカリキュラムは,40人の教員が2年間にわたる討議を,しかもひと月に2回も重ねて開発した」とタナー先生は語った。

 OCNEのモデルカリキュラムは,固有のカリキュラムを開発するためにコミュニティカレッジと大学の教員が共通の枠組みとして用いることができること,ヘルスケアニーズに基づいており,新たなケア提供モデルに合致した看護実践として広く受け入れられること,教授学習におけるベストプラクティスを取り入れていることが特徴とされる。

 カリキュラム改革の根拠をタナー先生は次のように解説している1)

 「ここ20年,新たな種類の看護師を求める声があふれており,看護実践環境の大きな変化によってあおりたてられている。病院における患者ケアは煩雑であり,重症度がおびただしく高まっている。在院期間は短くなり,早期に家庭や地域に移行するため,そうした場での回復期ケアが必要になっている。新しい技術が導入され,情報や知識が急激に増加している。質の隔たり(quality chasm)を示す明確な証拠があり,患者安全における看護の重要性が認識されるようになった。そして,質の隔たりおよび患者安全の目標,高齢者ケア,臨床における予防および集団を基盤としたケアなどに関する新たなコンピテンシーが公表され,資格認定に組み込まれた」。

 さらに,「基礎教育においては老年学に関する講義や実習が増える一方で,それらはいまだ不十分であり,専門とする教員が不足しており効果的な教育がなされていない。ほとんどのカリキュラムは伝統的な看護の専門領域(母性,小児,内科-外科など)によって構成され,臨床実習の大部分は急性期病棟が占めて」おり,このような教育は効果的でないと述べている。そして,「この10年のカリキュラム改正はコンテンツを追加しているだけの加算的なものであり,変化する力を与えるようなもの(transformative)になっていない」と批判している。

 学生は基盤となる事実がわからないうちは,考えたり分析したり統合したり判断を下すことができない。教育課程で教わる約120のヘルスアセスメント技術のうち,臨床現場でルーティンで用いられているものは,4分の1から3分の1に過ぎないなどの先行研究がある。「統合教育」によって,教える知識や技術を削減し,特殊な状況に関連する場合のみ追加すること,また臨床判断の文脈の中でこれらを教えることを提言している。

 こうした仮説に基づいて開発されたOCNEプログラムは,コンピテンシーに基づくカリキュラムへと変わり,教員の役割...

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