医学界新聞

2015.11.09



Medical Library 書評・新刊案内


完全腹腔鏡下胃切除術
エキスパートに学ぶ体腔内再建法[DVD付]

永井 英司 編

《評 者》山本 学(足立共済病院院長/第5回日本内視鏡外科学会大上賞受賞)

技術向上へ導く優れたコーチ

 ご存じの先生も数多くおられるとは思うが,本書は医学書院から発売されている雑誌『臨床外科』で,2013-15年にわたって連載された「必見! 完全体腔内再建の極意」をまとめたものである。その内容は,完全腹腔鏡下胃切除術における再建術式に焦点を当てたもので,極めて貴重かつ実践的なものである。しかも,本書はただ掲載論文をまとめただけでなく,新たに実際の手術映像を収録したDVDを加え,まさに「完全腹腔鏡下胃切除術」をめざす読者にとってバイブルとなる,唯一無二のテキストである。

 本書が出版されるまでの経緯は,編者の永井英司先生が「序」で述べておられるように,腹腔鏡下胃切除術を行っている外科医の技術向上に対する熱意が作り上げた一冊と言ってよい。

 タイトルにもある「エキスパートに学ぶ」という言葉は,よく目にするものであるが,手術の上手な外科医が教えるのもうまいとは限らない。本書に名を連ねるエキスパートたちは,いずれもセミナーなどで優れた教育法を実践している方ばかりであり,その内容は完璧とも言える。

 もちろん,外科に限らず,ある手技を習得しようとするならば,座学のみでは不可能である。しかし,ただ実践あるのみ! と手術をするだけでは,上達への道のりは遠回りであり,何よりも「learning curve」という犠牲者を出すことにもなりかねない。正しい理論に基づいた正しい手技を効率的に学ぶことは,患者の生命を守る医師として,義務とも言える最重要命題である。プロのアスリートが日々の練習を怠らないように,外科医も日々研さんを積まねばならない。また,彼らには優れたコーチが存在するように,外科医もまた良いコーチが必要である。

 本書は,必ずしも毎日コーチがいない環境の外科医に対してコーチングを行ってくれるだけでなく,既にコーチがいる者に対しても,もっとうまくなりたい,執筆者の手技が見たい,直接教えてほしい,などのモチベーションを喚起してくれる内容である。

 繰り返しになるが,手術はテキストやビデオを見るだけでは上達しない。しかしながら,これら抜きでは間違った手技を身につける恐れさえある。本書を座学と実践両輪の一輪として,全ての腹腔鏡下胃切除術を行う外科医が活用し,安全で治療効果の高い手術を実践していただければ,本書にかかわった全ての方の喜びであると信じて疑わない。

B5・頁216 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02103-6


DSM-5®を使いこなすための臨床精神医学テキスト

Donald W. Black,Nancy C. Andreasen 著
澤 明 監訳
阿部 浩史 訳

《評 者》神庭 重信(九大大学院教授・精神病態医学)

DSM-5®が身につく格好の教科書

 『DSM-5®を使いこなすための臨床精神医学テキスト』(原題:Introductory Textbook of Psychiatry, 6th edition)には,二つの大きな特徴がある。

 その一つは,米国の教科書らしく,『DSM-5®精神疾患の診断・統計マニュアル』(以下DSM-5)にのっとった疾患分類に沿って章立てされ,それぞれの疾患の解説が診断基準とともに紹介されていることである。読みこなすのが容易ではないDSM-5自体に比べ,本書は疾患の説明が簡潔にして要を得ているので,精神医学の初学者にとって,DSM-5の主要な点をざっくりと理解できる格好の教科書となっている。このことが,訳者らが本書の和文タイトルを,『DSM-5®を使いこなすための臨床精神医学テキスト』としたゆえんであろう。この教科書は初版が1990年に発刊され,以来改訂を繰り返し,今日にいたるロングセラーとなっている。

 第二の特徴は,この教科書がわが国でも評価の高いアイオワ大のNancy C. Andreasenと同僚の医学教育者Donald W. Blackの二人の手で書かれていることである。読者はきっとAndreasenがどのような教科書を書いているのかに興味を引かれずにはいられないだろう。

 わが国にも精神医学の教科書は数多い。私も教科書を編集している一人なので,その構成には共通した特徴がみられることを知っている。まず総論に多くの紙面が割かれ,精神医学史,症候学,診断学,精神の発達,神経科学的基盤の解説,検査,治療方法が説明される。続いて各論に入ると,主要な疾患により多くの説明が加えられ,あまり遭遇しない疾患はおざなりに済ませてしまいがちである。

 これに対して本書では,総論は簡潔で,「診断と分類」「面接と評価」「精神疾患の神経生物学と遺伝学」の3章のみである。各論ではDSM-5の疾患順に章が並び,それぞれの章に比較的均等に紙面が割かれ,鑑別診断や治療が日本の教科書に比べてかなり実践的な内容に仕立てられている。これは米国では,医学生がベッドサイドでかなり踏み込んだ臨床実習を体験するためかもしれない。また,統合失調症やうつ病(DSM-5)・双極性障害はもとより,神経発達障害,PTSD,性別違和,パラフィリア障害などの記述が充実しており,米国精神医学にその進歩の多くを負う疾患について知識を整理するのに都合が良い。一方で,米国の精神科医がかかわらないてんかんや脳波の説明は,扱われていない。

 本書の監訳者は,意外なことに,神経科学の世界で著明な業績を挙げているジョンズ・ホプキンス大の澤明教授である。話は横にそれるが,この意外性について少し触れてみたい。米国の教科書として私の印象に残っているのが,駆け出しのころに読んだSnyder SHの『最新精神医学入門』(原題:Biological Aspects of Mental Disorder, 1980/翻訳:松下正明,諸治隆嗣.星和書店;1981)である。Snyderは,DSM-III以前の精神医学すなわち精神分析学のトレーニングを受けた精神科医であり,当時は精神薬理学の気鋭の学者でもあった。彼は,この教科書において心理学的見方と生物学的立場との統合を試みたことを,その序文に書き残している。

 なぜこの話をするのかというと,澤先生は,『最新精神医学入門』の訳者の一人である松下先生に精神医学を学び,その後にSnyderの直弟子として神経科学の道を進まれた方だからである。そして彼の関心も二人の師と同じく,脳科学と心理学との統合にあるとお聞きしたことがある。だから澤先生がAndreasenの教科書に強い関心を持ったのも納得できる。それは彼女が,生物学的精神医学の巨塔の一人でありながら,米国でDSMの浅薄な用いられ方が蔓延し,精神科医の患者理解の劣化をもたらしたことを嘆いたことでも知られるからである。

 本書は比較的楽に読みこなせるテキストである。全章を読み終えたときには,自然とDSM-5が定義する精神疾患の診断と治療の進め方が身につくはずである。これで,いわゆるDSM-5をチェックリストとして用いてしまうわなに陥ることはなくなるであろう。DSM-5は,19年の時間を経て改訂され,診断の分類や診断基準の変更は,この間の研究で明らかにされた事実が激しく議論された上で加えられたものである。さらに欲を言え...

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