医学界新聞

連載

2015.01.26


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第121回〉
受講生からの贈りもの

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 2014年8月から9月にかけて開催した看護管理者研修の修了式を12月半ばに行った。日本看護協会認定のファーストレベルプログラムである(ちなみに,ファーストレベル150時間,セカンドレベル180時間,サードレベル180時間の課程を修了すると,日本看護協会認定看護管理者の資格試験を受験することができる。この資格は5年ごとに更新しなければならない)。

 3か月ぶりに会ったファーストレベルプログラムの修了生たちは,開講式のときとは違って,皆リラックスしていた。チャペルでの感謝礼拝の際,「自分を送り出してくれた職場の上司や同僚,支えてくれた家族に感謝している」と数人が語った。チャペルでの礼拝は気持ちを奮い立たせ,自らを謙虚にさせるという。

管理者研修後の行動変容

 これまでの間,受講生が何を学び,どのような行動変容があったのかが研修の主催者として気になるところであり,フィードバックを彼らに求めた。すると,一枚の「ファーストレベル研修後の報告」が届いた。

 書き出しはこのように始まっている。「研修後現場へ戻り2か月が経ちました。研修の成果が出ていると感じるのは,起きた事柄について何が問題か,なぜうまくいったかということを意識して考えるようになったことです」という。「以前ならそのままあやふやにしていたことも,答えが出せないにしてもスタッフと共に考えることができるようになりました」。このことは「意図的な実践」が強化されたといえよう。

 次に,「レポートの書き方で教わったことも役立っています」という。つまり,「スタッフのレポートを読むとき,何が一番言いたいことかを意識して見つけています。そしてそれをフィードバックして,違っていれば一緒に考えることもできるようになりました」。そしてこのことは,「相手に言いたいことを簡潔に伝えられることにもつながっています」とした上で,「いまだに結論にたどり着くのに遠回りをすることも多いですが,その言動に気付けるようになりました」と省察している。私がファーストレベルプログラムで重要視している「記述力の強化」の成果である。研修では,一文の長さは50文字程度に,段落の構成(トピックセンテンスと展開部),段落の文字数,段落の接続などの原則を提示し,自分が書いた「受講の動機」を自分で添削してもらうことにしている。このやり方で彼らは「仕事の文章」をどう書くかを体得するのである。文章の書き方の最後に,「発表の仕方,質問の受け方」も学ぶ。それはこうなる。「毎月主査会議があり(中略),ひと言で何を伝えようか悩みましたが,自分の言葉で表現する重要性を再認識したことを伝え」,さらに「これからは看護部の方針を自分の言葉でスタッフへ伝えていきたい」と発表したところ,他部署の師長数名から,「研修でいい学びをした」と声を掛けられたと記している。

怒りは導火線

 問題解決における「パワー」についても言及している(彼はこの点は今後の課題であると考えている)。「研修後は明らかに自分のアンテナの感度がよくなったと感じ,問題をとらえるコツをつかんできた」のであるが,「しかしそれを解決する力が足りないと感じている」。私は研修の中で,問題を解決するための導火線になるのは管理者の怒りであり,極論すれば,「もうやってられない」ときちんと怒ることが必要であると述べた。このことについて彼は「怒りのパワーが足りない」「まあいいか,と流してしまう」と反省している。そして「これだけは譲れない,という信念を持ち,より良い病院をめざしたい」と述べている。

 「患者への対応にも変化があります」とも語ってくれた。小児科病棟で,看護師によって説明が異なるとお母さんが指摘してきた。面会時間を看護師Aは19時,Bは20時までと言った。どうなっているのかと追及してきた。これまでの自分なら「申し訳ありません」と言うだけであったが,研修でアサーティブ・コミュニケーションを学んだので活用した。つまり,「病棟の面会時間は決まっているのですが,看護師はお子さんの状況を判断して“20時までどうぞ”とお母さんに伝えたのだと思います。一律ではなく,個々に状況を判断して看護師は対応しています」と応えた。こうして「クレーム」は「納得」へと質を変えたのである。

 看護管理者研修で何を学び,受講者のその後の仕事にどのような影響をもたらしているのか。ナラティブな報告は来年の研修プログラムに活かされる。そして彼らから「先生」と呼ばれる人たちに適切な刺激と喜びをもたらす最高のプレゼントである。

つづく

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