医学界新聞

連載

2014.09.01



こんな時にはこのQを!
“問診力”で見逃さない神経症状

【第12回】(最終回)
めまい

黒川 勝己(川崎医科大学附属病院神経内科准教授)
園生 雅弘(帝京大学医学部神経内科主任教授)


3088号よりつづく

 「難しい」「とっつきにくい」と言われる神経診察ですが,問診で的確な病歴聴取ができれば,一気に鑑別を絞り込めます。この連載では,複雑な神経症状に切り込む「Q」を提示し,“問診力”を鍛えます。


症例
患者:35歳,女性
主訴:めまい
病歴:今朝起床時,寝返りをうつとぐらぐらと回るようなめまいが生じた。じっとしていると数秒程度で治まった。しかし,その後もドアを閉めて振り返るなどすると,ぐらぐらとするめまいが生じるため当科を受診した。同様なめまいは数年前から時折生じている。耳鳴りや難聴はない。

 いよいよ本連載も最終回です。今回の「めまい」も真性めまい(vertigo)と考えられます。これまで第3回(3055号,椎骨脳底動脈系の TIA)第8回(3076号,小脳梗塞)でも取り上げたテーマです。

 第8回では,2つの質問により,脳血管障害のような危険(critical)な疾患を見逃さないことをお伝えしました。すなわち「これまでに同じめまいはありましたか?」と聴くことで“new vertigo”を見逃さず,さらに「どういう状況でめまいが起きましたか?」と聴くことで“明らかな誘因”の有無を判断できる,という手順です。

 本患者の場合は,数年前から同様なめまいをくり返していたとのことですので,“new vertigo”ではありません。また,めまいは頭位あるいは体位を変えたときに生じているようですので,“明らかな誘因”がありそうです。したがって,少なくとも脳血管障害によるめまいではないと考えられます。

 では,一般的(common)な疾患である「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」の可能性が高いのでしょうか。

 日本めまい平衡医学会によるBPPV の診断基準は,

1)空間に対し特定の頭位変化をさせたときに回転性めまいが誘発される
2)めまい出現時に眼振が認められるが,以下の性状を示す
 (1)回旋性成分の強い頭位変換眼振である
 (2)眼振の出現には潜時があり,めまい頭位を維持させると次第に増強し,次いで減衰ないし消失する
 (3)眼振はめまい頭位を反復して取らせることにより,軽快または消失する
 (4)めまい頭位より座位に戻したときに,反対方向に向かう回旋性成分の強い眼振が出現する
3)めまいと直接関連を持つ蝸牛症状,頸部異常および中枢神経症状を認めない

となっています。

 2)の眼振を確認するにはフレンツェル眼鏡を用いなければ正確な評価が困難であり,プライマリ・ケアでは判断が難しいと思われます。本患者では1)と3)は当てはまりそうなので,多くの場合, BPPV と診断されそうです。ではこの時点で直ちに,BPPVと診断してよいでしょうか? 診断を下してしまう前に,意識的に以下の質問をすることが大切です。

■Qその(1)「頭痛はありませんか?」

 患者に聴いたところ「10代から繰り返し頭痛を起こしている」と言い,慢性の頭痛持ちであることがわかりました。詳細を聴くと,片側性,拍動性が多く,閃輝暗点の前兆,光過敏・音過敏があり,ひどいと嘔吐する。週末に生じることが多く,寝込むこともしばしばだが,たいてい3日で治まる,とのことでした。

 慢性頭痛の場合,片頭痛あるいは緊張型頭痛が考えられます。本患者の頭痛はかなり典型的な片頭痛と思われますが,片頭痛と緊張型頭痛の鑑別は必ずしも容易ではありません。例えば,片頭痛は必ずしも“片側性”とは限らず,両側が痛む場合があります。また“拍動性”ではなく,締め付けるような痛みの場合もあります。さらに,片頭痛でも肩こりはあります。肩こりがあり,両側を締め付けるような頭痛がするからと言って,直ちに緊張型頭痛と断定せず,片頭痛の可能性も考慮しておくことが大切です。

 さて,慢性頭痛がある(しかも片頭痛らしい)ことがわかったら,次にめまいと頭痛症状との関連を調...

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