医学界新聞

連載

2013.12.09

こんな時にはこのQを!
"問診力"で見逃さない神経症状

【第3回】
めまい

黒川 勝己(川崎医科大学附属病院神経内科准教授)


3051号よりつづく

 「難しい」「とっつきにくい」と言われる神経診察ですが,問診で的確な病歴聴取ができれば,一気に鑑別を絞り込めます。 この連載では,コモンな神経症状に切り込み,危険な疾患を見逃さない「Q」を示せる"問診力"を鍛えます。


患者:73歳,男性
主訴:めまい
病歴:本日午後6時ごろ,ソファに座ってテレビを観ていると天井がぐるぐると回るめまいが起きた。体が左へ傾いて座っていることができず,ソファで横になって様子をみたところ30分くらいして治まった。1か月前にも深夜1時ごろトイレに行こうとして起き上がった瞬間にぐるぐると回るめまいが生じていたので,心配になり救急外来を受診した。

 患者は「めまい」を繰り返しているようです。めまい診療の手順は,第一に患者が訴えるめまいの病態を明らかにすることです。今回の場合は"ぐるぐる回る"めまいであり,真性めまい(vertigo)と考えられます。

 真性めまいの原因としては「耳鼻科的疾患」が一般的(common)ですが,時に潜んでいる「脳血管障害」が危険(critical)であり, 見逃したくありません。「耳鼻科的疾患」でめまいを繰り返すのはメニエール病が有名ですが,良性発作性頭位めまい症(BPPV)も再発することが知られています。一方「脳血管障害」でめまいを生じるのは,前庭神経核が存在する脳幹または小脳に血管障害が生じた場合です。

 本患者の"病歴"からは「耳鼻科的疾患」と「脳血管障害」,どちらの可能性が考えられるでしょうか。

***

 患者に耳鳴りや難聴の自覚はない。血圧140/90 mmHg,脈拍76/分・整,胸腹部に異常所見なし。神経学的所見では,脳神経,運動系,感覚系,協調運動ならびに起立・歩行に明らかな異常なしと評価。帰宅して様子をみることになった。

 救急外来受診時にはめまいは治まっており,めまい発作中を含めて耳鳴りや難聴はなく,その他明らかな神経学的異常所見もないため,様子をみることになったようです。

 果たしてそのような対応でよいのでしょうか。"病歴"に気になる部分がありますし,確認しておくべきこともあります。

***

 数日後,再びこれまでと同じようなぐるぐる回るめまいが生じたが,10分くらいで治まった。さらに数日後,起床時にぐるぐる回るめまいが生じた。同時に顔の右側がじんじんする感じがあり,吐気が生じて歩くこともできないため,救急搬送された。

 救急外来では,眼振(反時計回りの回旋性),左方視で複視あり。温痛覚障害,カーテン徴候,嗄声および四肢失調はみられず。

 頭部 MRI・MRAが施行され,脳幹および小脳に明らかな新規病変は認められなかったが,脳梗塞として入院した。

 患者は初診後も同様のめまいを繰り返し,ついにはめまいが治まらなくなり救急搬送されました。今回は複視という症状まで起こっています。

 少し細かな話になりますが,複視は左方視で生じており,左外転神経障害と考えられます。めまい症状と合わせて,脳幹の中でも外転神経核がある橋の病変が推測されます。脳幹梗塞は発症当日の頭部MRIでは異常所見が見られないことがあり,今回の患者でも異常は確認できなかったものの,臨床症状からは脳幹梗塞と診断され入院加療に至りました。

 さて,気になる病歴,とはどの部分だったのでしょうか? それは,「ソファで横になって様子をみたところ30分くらいして治まった」という部分です。

 「耳鼻科的疾患(common disease)」と「脳血管障害(critical disease)」の鑑別は,(1)common diseaseの特徴に合致するか,矛盾点がないか確認する, (2)critical diseaseでみられる特徴がないか確認する,ことが重要です。「耳鼻科的疾患」でめまいを繰り返すメニエール病については,患者には耳鳴りや難聴といった蝸牛症状が認められていない点で合致しません。BPPVは蝸牛症状がない点は合致しますが,BPPVであればじっとしているとめまいは2分以内には治まるはずです。ただし,寝返りをうつなどの体動にて再びめまいが生じます。

 つまりBPPVの鑑別には「30分くらいして治まった」という病歴について,本当に30分間断なくめまいが持続していたのか,それとも短時間の発作を繰り返し,30分したらめまいが起こらなくなったのか,確認することが必要です。そこで,患者に問いたいのはこの質問です。

■Qその(1)「じっとしていても,30分間ずっとめまいが続いたのですか?」

 本患者のめまいは,寝返りなどうたずにじっとしていても30分くらいは持続したそうです。また,1か月前に生じためまいについても,トイレから帰った後,じっとしていても約10分間続いた,とのことです。したがって,二度のめまいの持続時間からはBPPV以外の疾患を考えるべきと言えます。

 一方,椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作(TIA)の場合,めまいの持続時間は数分から数十分が多いと言われており,本患者は TIA の可能性があります。そこで,確定診断に迫るため,患者に聴きたいのはこの質問です。

■Qその(2)「めまいの最中,顔がしびれていましたか?」

 椎骨脳底動脈系のTIAによるめまいの場合,他の椎骨脳底動脈領域の症状をしばしば伴い,特に"顔面のしびれ感"の頻度が高いと言われています。

 患者は二度目の救急外来受診時には,顔面右側にじんじんするしびれが生じていますが,実は最初に受診した際のめまい発生時にも,ソファで横になっていたとき顔面右側にしびれ感があり,めまいが改善するとともにしびれ感も消失したそうです。

 なお,患者は数日後に頭部MRIを再検され,脳幹(橋)に脳梗塞巣が確認されました()。また,頭部MRAにて左椎骨動脈の狭窄所見があり,ここから血栓が剥離したものが脳幹に詰まって(artery to artery)TIAを繰り返し,ついには脳梗塞になった,と考えられました。

 頭部MRIとMRA
救急搬送当日のMRI(左)では明らかでなかったが,後日再検したMRI(中)では,橋の背側左側に高信号域(矢印)が出現しており,新規脳梗塞と考えられる。右のMRAでは左椎骨動脈に狭窄所見(矢印)がみられる。

 もし,最初の受診時に"顔面のしびれ感"の有無を聴けていたら,今回の脳梗塞を予防できたかもしれません。

***

 めまい発作が治まった時点で問診する場合,「めまいがどれだけ続いたか」(Qその(1))を聴く医師は多いですが,「めまい発作中の顔のしびれ感」(Qその(2))まで聴ける医師は多くないように思います。

 ちなみに椎骨脳底動脈系の TIA によるめまい症の場合,顔面のしびれ感の他には,複視もあります。顔面のしびれと複視の有無とを,聴くことが重要と考えます。

今回の"問診力"

めまい発作では,発作中の顔面のしびれ・複視を聴く。いずれかがあれば耳鼻科的疾患ではなく,椎骨脳底動脈系のTIAを疑う。

つづく

執筆協力・症例提供:園生雅弘(帝京大学医学部神経内科主任教授)

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