検閲とお姉さん(井部俊子)
連載
2014.06.23
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加国際大学学長 |
(前回よりつづく)
先日,ある会合で,看護系大学院の教授をしている友人が,修了生が勤務している病院の看護部による発表論文への不当な介入に憤慨していた。友人が共同研究者として名前を連ねている抄録の,標題,用語の使い方,カテゴリーの数,考察の内容の記述の4点について,看護部から修正されて本人に返却されてきたというのである。聞くところによると,公的な病院では,抄録申請書(院外発表申請)なるものがあり,学会発表等ではそれを提出して,副部長から看護部長へ稟議書が回るところもあるという。その理由は,病院の情報のみならず,病院職員が「ヘンな発表」をしては困るからだそうだ。後段は,ヘンな発表をしないように指導をするのだという意味合いであろう。いわば組織防衛と論文指導という名目である。
看護部による「論文指導」
以前,雑誌の編集会議で,「自分は既に原稿を書き終えたが,看護部長の手元に長くとどまっていてまだ返ってこない」と嘆いている専門看護師がいた。私は,看護部長室の書類の山に埋もれている彼女の原稿を想像した。
このような事態は常態化しているらしい。大学院を修了している看護管理者の文章を看護部長が「修正」し,その修正内容に疑問を持ったという例は少なくない。つまり,看護部というところで行われる強制的“指導”は,場合によっては,看護部の知的レベルや見識に疑いを持たせるような事態を生じさせているということである。しかも,当の看護部はそうした本当の姿を知らず,してやったりと,意気揚々としているのが少々滑稽である。不合理な“指導”だとスタッフが認識しても,そのように反論できない上司-部下の関係があることも確かである。
こうした傾向を世の編集者たちも強化している。私は1993年から10年間,看護部長として仕事をしていたとき,月に何通も舞い込む「承諾書」に辟易とした。「あなたのところの○○さんに,××という原稿を執筆してもらおうと計画しているがよいか」という類の文書である。これらの文書も,うずたかくなる書類の山のひとつとなるのである。そこで私は思い立ってその出版社に次のような内容の手紙を書いた。あなた方が選定した優れた執筆者を,看護部長がとやかく言うことはない。本人の責任で世に問うものであり,いちいち許諾を求めてくるのは不要であると(もう少し上品な文章であったと思うが)。すると,先方から間もなく返事が届いた。そのような考えを持っているのは貴方(つまり私)くらいであり,世の中の他の看護部長の多くはそうではない。看護部長への文書を出しておかないと,原稿が差し押さえられたりして出版に影響が出ることがあるというのだ。10年以上前のやりとりなので現状はどうなっているのか定かではないが,前述の事態から類推すると,あまり変わっていないようである。
ブラックボックスの看護部からの脱却
部下の院外発表記事や論文が看護部(ここがブラックボックスである)を通過しないと公表できない仕組みを,われわれはどう考えたらよいのであろうか。本当に組織防衛や論文指導の機能を必要としているので...
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