医学界新聞

2013.10.28

Medical Library 書評・新刊案内


運動障害診療マニュアル
不随意運動のみかた

H. H. Fernandez,R. L. Rodriguez,F. M. Skidmore,M. S. Okun 原著
服部 信孝 監訳
大山 彦光,下 泰司,梅村 淳 訳

《評 者》村田 美穂(国立精神・神経研究センターパーキンソン病・運動障害疾患センター長/特命副院長/神経内科診療部長)

この1冊ですべてわかる不随意運動のみかたと包括ケア

 「運動障害」って何だろう,と思われる方も少なくないかもしれない。「不随意運動」と聞くと,ああ,震えたり勝手に体が動くことね,でもいろいろあって何がミオクローヌスだか振戦だかよくわからないなあ,というのが多くの方の思いではないだろうか。

 ここにご紹介するのは米国フロリダ大学運動障害疾患センターのdirectorの1人で米国パーキンソン財団のNational Medical DoctorでもあるOkun博士らがその豊富な経験をもとに「ポケットタイプでありながら,すべての運動障害疾患の症候をベースとした臨床家の頼りになるハンドブック」を書かれたものである。運動障害疾患関連の書籍はわが国でも散見されるが,いずれも専門家向けで手軽に手にとれるものはほとんどない。本書の原著は2007年に出版され,世界中で愛読されているが,今回わが国のパーキンソン病診療および研究の第一人者である順天堂大学脳神経内科服部信孝教授の監訳により,Okun博士のもとで薫陶を受けた大山彦光先生らが訳された。この名著の日本語版が出版されたことは本当にうれしいことである。

 この本は内科的アプローチ,外科的アプローチ,包括的アプローチの3章仕立てである。

1)内科的アプローチは症候で分類されて述べられているが,「見た目で分類する」という著者の意図をさらに親しみやすくするための訳者の工夫が盛り込まれ,「オドる」患者のみかた,「ピクつく」患者のみかたといった,親しみやすい題がついている。
2)外科的アプローチではパーキンソン病のみならず本態性振戦,ジストニアも含め,適応,実際のターゲッティングの他,手術をより成功させるための要素,適応評価における集学的チームとして,脳外科医,神経内科医の他,心理学者(臨床心理士),精神科医のかかわりにも言及している。
3)包括的アプローチでは非薬物治療として言語療法,理学療法,作業療法,栄養学的アプローチに触れているが,特に言語療法の中で代表的疾患それぞれにおける言語・嚥下評価に触れているのは他には類をみないものである。

 しかもハンデイである。ポケットサイズ厚さ15mmのなかに運動障害疾患のみかた,診断,治療まですべてのエッセンスが詰まっている。

 もちろん,訳本であるので,薬物の量や考え方に少しわが国との違いがある。原著は2007年に出版されているので,少し現状に合わない部分もある。しかし,運動障害疾患患者のケアセンターを作ることに尽力してきたOkun先生のポリシーが随所にみられ,正確な診断のみならず,考えられるすべての方法を集約し運動障害疾患の患者さんを今よりも少しでもよくしようという気持ちがあふれている書である。

 神経内科専門医のみならず,運動障害にあまりなじみのない内科医,神経内科をローテートする研修医,さらには運動障害疾患に興味を持つ看護師,リハビリスタッフにもぜひいつも手元においていただきたい1冊である。

B6変・頁288 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01762-6


≪標準臨床検査学≫
免疫検査学

矢冨 裕,横田 浩充 シリーズ監修
折笠 道昭 編

《評 者》石井 規子(昭和大横浜北部病院臨床病理検査部技師長)

免疫学の初心者にも苦手な人にもお薦めの一冊

 免疫はおもしろい。

 ジェンナーの種痘の話やパスツールによる病原微生物の発見などはノンフィクション小説のようである。免疫反応理論を読むと生命の神秘を感じずにはいられない。例えばアミノ酸1個の置換で血液型が異なることもあり,一方で多少の遺伝子の変異や欠損があっても生命は維持できる。HLA型の頻度からは人類の起源と祖先の地球規模の大移動も見えてくる。また生体防御機構はウイルスや細菌と人類との攻防そのものである。

 分子生物学の進歩によって現在でも免疫に関する新たな発見が続いており,自分が学生のころの「免疫学」とは大きく異なっている(もっともそのころは「血清学」だったが)。

 種の維持には遺伝子の多様性を欠くことはできない。それと同じように「多様性」は免疫のキーワードであり,おもしろさの元でもある。しかし一方で初めて免疫を学ぶ人にとってはこの多様性が難関でもあり,「この反応はこの原理によることもあるが,そうではなくてこの原理によっても起こることもある……」というような無数のケースバイケースの前で立ち往生してしまう。免疫学や輸血学が苦手だという人に聞くと,抗原と抗体の区別がよくわからないという答えが返ってくることがしばしばある。たしかに「ある抗体が抗原となってその抗体に対する抗体が産生される」こともあるのだから混乱するわけである。またさまざまな免疫反応を利用した検査の原理は理解できないままに丸暗記をするには数が多すぎて苦痛である。

 本書,『《標準臨床検査学》免疫検査学』は,免疫学の初心者にも,また苦手意識を持ってしまった人にも取り組みやすいよう,さまざまな工夫がされている。まず各章の冒頭を見てみよう。「学習の

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