運動障害診療マニュアル
不随意運動のみかた

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運動障害、特に不随意運動に対する内科的(症候、診断、検査、薬物治療)、外科的(DBSとその手術適応)、包括的(リハビリテーション、栄養学)各種アプローチ方法を網羅。パーキンソニズム、舞踏運動、ジストニア、ミオクローヌス、レストレスレッグス症候群、振戦など、各症候の見た目(“ピクつく”“フルえる”など)で分類した臨床で使いやすい構成。神経内科医のみならず、一般内科医や研修医も読んでおきたい1冊。
原著 H. H. Fernandez / R. L. Rodriguez / F. M. Skidmore / M. S. Okun
監訳 服部 信孝
大山 彦光 / 下 泰司 / 梅村 淳
発行 2013年05月判型:B6変頁:288
ISBN 978-4-260-01762-6
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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訳者 序

訳者 序
 本邦では神経内科疾患をまとめたマニュアルは多数出版されているが,運動障害疾患,とくに不随意運動疾患に焦点を当てたマニュアルはほとんどなく,現在出版されている不随意運動疾患の本は専門的で高価なものが多い.
 本書は運動障害疾患をより実践的に,「見た目」で分類することで,神経内科専門医以外でも容易に運動障害疾患,不随意運動疾患にアプローチしやすいように工夫されている.このコンパクトにまとまったポケットサイズマニュアルの訳本を出版することにより,神経内科専門医のみならず,一般内科医や神経内科をローテートする研修医や医学生の皆さまが忙しい病棟業務・実習のなかで手軽に参照していただけるのではないかと信じている.
 翻訳にあたって,原則的に日本語用語は,日本神経学会による『神経学用語集(改訂第3版)』に従ったが,一部変更したものもある.また本書の特徴上,本邦未承認薬および用法・用量外使用についての情報も含まれている.本邦未承認薬はアルファベットで表記し,極力,注釈をつけるなどしたが,実臨床においては,本邦における最新の適用,用法,用量をご確認いただきたい.
 運動障害分野は新たな疾患概念が提唱されたり,新たな原因遺伝子が発見されたりなど,進歩の速い学問領域であり,本書の出版時点ですでにやや古くなっている内容もあるかもしれない.また,本書の特徴からややくだけた表現をしている部分もあるが,諸先生方のご意見・ご批判をいただければまた幸いである.

 2013年3月 吉日
 訳者一同



 運動障害疾患movement disorderの包括的な成書はいくつか存在しているが,たいていは文章が長く,分厚いハードカバーの本であり,いろいろな運動障害疾患の診断方法や治療の簡便な指針を求める忙しい臨床家にとってはあまり有用ではない.パーキンソン病に関しては簡便な治療ハンドブックはいくつかあるが,舞踏病,ジストニア,ミオクローヌス,運動失調症などのような,他の運動障害疾患まで含めたものはない.
 このニーズに応えるために,我々は白衣のポケットに入るサイズの手ごろなペーパーバックでありながら,すべての運動障害疾患の症候をベースとした,臨床家にとって信頼のおける,ハンドブックを作成した.本書では,臨床症状,診断,検査,対処法を強調した,箇条書きスタイルを用いた.このハンドブックの使命は,臨床家にとって簡便でありながら,主要な種類の運動障害疾患の評価,検査,対処法を包括的に提供することである.
 今日,臨床家は多くのことが期待されており,治療は薬物療法だけではなくなっている.したがって,このハンドブックは,(1)内科的,(2)外科的,(3)その他の非薬物治療的アプローチの3つのパートから構成されている.最初のパートでは,まだ診断がついていないが,運動障害疾患を呈している患者を前にした臨床家が,まず最初にすべき薬物治療的アプローチが,疾患ベースではなく症候ベースで記載されている.また2番目のパートで,パーキンソン病だけでなく他の運動障害疾患も含む外科的治療の要点が記載されていることがこの本の特徴である.最後のパートでは,栄養や理学療法,作業療法,言語療法・嚥下法を含む包括的なアプローチの必要性を紹介している.
 このハンドブックによって,忙しい臨床家にとって,主要な運動障害疾患の評価と治療が,より馴染みやすく,やりがいのあるものになることを期待する.

 Hubert H. Fernandez, MD
 Ramon L. Rodriguez, MD
 Frank M. Skidmore, MD
 Michael S. Okun, MD

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献辞
訳者 序


 1 はじめに:運動障害疾患の症候学
  運動障害疾患の有病率
  運動減少性運動の種類
  その他の運動減少性運動
  運動過多性運動の種類

運動障害疾患の内科的アプローチ
 2 「オドる」患者のみかた
  症候
  舞踏運動/舞踏病
   臨床的特徴/鑑別疾患
  分類
   遺伝性/孤発性
  診断・検査
  治療
  バリスム
   原因/予後と治療
  アテトーゼ
  アカシジアとレストレスレッグス症候群

 3 「ピクつく」患者のみかた
  症候
  原因と分類
   皮質性ミオクローヌス/脳幹ミオクローヌス/脊髄性ミオクローヌス/
   末梢性ミオクローヌス/多巣性・全般性ミオクローヌス/
   進行性ミオクローヌスてんかん/進行性ミオクローヌス失調(症)/
   固定姿勢保持困難/眼球クローヌス・ミオクローヌス症候群/
   生理的ミオクローヌス/心因性ミオクローヌス/
   ミオクローヌス・ジストニア症候群/薬剤性ミオクローヌス
  遺伝学
  鑑別診断
  診断・検査
  治療

 4 「フルえる」患者のみかた
  症候
  分類
  振戦をきたす疾患
   パーキンソン病/本態性振戦/小脳性振戦/ホルムス振戦(赤核振戦)/
   ジストニア振戦/神経障害性振戦/口蓋振戦/薬剤誘発性振戦/
   ヒステリー性振戦/起立性振戦/生理的振戦/誘発性生理的振戦
  振戦患者の評価
  診断・検査
  治療
   パーキンソン病/本態性振戦/小脳性振戦/ジストニア振戦/
   起立性振戦/誘発性生理的振戦/神経障害性振戦/口蓋振戦/
   薬剤誘発性振戦

 5 「ヒキずる」患者のみかた
  症候
  診察
  パーキンソン病
   疫学/病因/リスクファクター/遺伝因子/環境因子/臨床的進行/
   臨床的特徴/パーキンソン病の誤診/運動合併症
  鑑別診断
   血管性パーキンソニズム/多系統萎縮症/進行性核上性麻痺/
   大脳皮質基底核変性症/ウィルソン病/レビー小体型認知症/
   正常圧水頭症/薬剤誘発性パーキンソニズム/本態性振戦
  診断・検査
  治療
   運動症状の側面から:治療の原則/
   運動症状の変動に対して使用される薬剤/
   パーキンソン病の非運動症状の側面/行動異常/自律神経障害

 6 「ネジれる」患者のみかた
  症候
   主要徴候/その他の徴候
  分類
   分布による分類/臨床症候による分類/病因による分類
  治療

 7 「チックな」患者のみかた
  症候
  臨床的特徴
   付随する所見
  疫学・病因・病態生理
  診断のための検査
  治療

 8 「フラつく」患者のみかた
  小脳の役割
  解剖と機能の相関
  症候
  分類と検査
   脳卒中と小脳占拠性病変/自己免疫性/遺伝性/孤発性
  治療

運動障害疾患の外科的アプローチ
 9 パーキンソン病と運動障害疾患に対する外科的治療のキー・コンセプト
  パーキンソン病,本態性振戦,ジストニアの手術のための患者選択
  患者教育:手術によって反応する症状について話し合う
  本態性振戦とジストニアの手術適応患者の特徴
  パーキンソン病の薬剤抵抗性症状と例外的状況
  パーキンソン病における服薬の試行と適正化
  本態性振戦とジストニアにおける服薬の試行と適正化
  運動障害疾患専門神経内科医の診察
  手術をより成功させるための要素
  手術の種類(DBSか破壊術か)およびターゲット(視床下核か淡蒼球か)の選択
  DBSテクニック:術中のDBS電極留置
  コンピュータ化された方法を用いたターゲッティング
  GPiマッピング中に得られる細胞
  視床下核の微小電極マッピング
  DBSまたは破壊術のテクニック:マクロ刺激
  電極の固定とパルス発生器の埋め込み
  DBSプログラミング:一般的事項
  外来におけるDBSデバイスの簡易プログラミング・アルゴリズム
  アトラスによる電極位置の標準座標(間接ターゲッティング)
  電極位置とプログラミングの際にみられる副作用
  DBSのリスク
  術後DBSエマージェンシー
  DBSの不全例

運動障害疾患の包括的アプローチ
 10 言語療法によるアプローチ
  運動障害疾患の患者における言語および嚥下の異常
  言語の評価
  言語障害のMayo分類
  言語障害の行動療法
  嚥下の評価
  嚥下障害の行動療法
  パーキンソン病における言語・嚥下障害
  多系統萎縮症における言語・嚥下障害
  進行性核上性麻痺における言語・嚥下障害
  大脳皮質基底核変性症における言語・嚥下障害
  運動失調症における言語・嚥下障害
  ハンチントン病における言語・嚥下障害
  ウィルソン病における言語・嚥下障害
  ジストニアにおける言語・嚥下障害
  遅発性ジスキネジアにおける言語・嚥下障害

 11 理学療法・作業療法によるアプローチ
  運動障害疾患における理学療法士と作業療法士の役割
  理学療法士と作業療法士の役割の違い
  パーキンソン病における理学療法と作業療法
  パーキンソン症候群とその他の運動障害疾患における理学療法と作業療法
  転倒する患者
  結論

 12 栄養学的アプローチ
  栄養不良患者
  パーキンソン病における栄養
  パーキンソン症候群における栄養
  舞踏運動を呈する疾患における栄養
  運動失調患者における栄養
  運動障害疾患の原因としての栄養障害
  運動障害疾患における嚥下障害
  栄養補助食品(サプリメント)のエビデンス
  結論

索引

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ベッドサイドで頼りになる運動障害疾患の虎の巻
書評者: 高橋 良輔 (京大大学院教授・臨床神経学)
 Movement Disorderの和訳は運動障害(疾患)あるいは運動異常(症)で,運動が過多になり,不随意運動を呈する疾患群(例:舞踏病),逆に運動が過少になる疾患群(例:パーキンソン病),そして場合によっては運動が不器用になる疾患群(例:脊髄小脳変性症)の総称である。運動障害は神経内科疾患の中でも最も謎めき興味の尽きない疾患群であり,研究が重ねられてきた。今日では,その病態生理や遺伝学的背景について数多くの知見が得られ,それらを基に新しい薬物治療法が生まれ,手術療法やリハビリテーションなど非薬物療法の進歩も著しい。しかし運動障害の診断・治療は必ずしも容易ではなく,例えば特異な不随意運動をどのように記載するかは,熟練した専門家の腕の見せどころ,といった面がある。初学者の中には苦手意識を持つ人も多いかもしれない。

 このたび訳出された『運動障害診療マニュアル』は,運動障害は複雑と考えて敬遠しがちな向きの人には朗報となる実践的な手引書である。著者のうち,Hubert Fernandez氏は著名なパーキンソン病の専門家であり,国際パーキンソン病・運動障害疾患学会(International MDS)ではWebsite editorとして大変魅力的なサイトを構築して,学会で表彰されたこともある。またMichael Okun氏はDBSの世界的権威で,2012年の日本神経学会で招待講演をされたことも記憶に新しい。この2名にRodriguez氏,Skidmore氏の2名の若手研究者が加わって作成された本書は,極めて斬新,かつ実践的なアプローチで運動障害の診断と治療のポイントを教えてくれる。

 前半の「運動障害疾患の内科的アプローチ」では,ミオクローヌスを「ピクつく(“jerky”)患者」,パーキンソニズムを「ヒキずる(“shuffling”)患者」とその特徴を端的にとらえて運動障害を定義している点が,新鮮な印象を受け,取り付きやすい。内容も鑑別診断や治療法をわかりやすい図表を使って,また箇条書きで解説してくれるので,短時間で重要事項が頭に入りやすい。

 また,後半の「運動障害疾患の外科的アプローチ」ではDBSの適応疾患,ターゲット,手技からプログラミングまで,要領よく解説されている。さらに「運動障害疾患の包括的アプローチ」では言語療法,作業・理学療法,栄養療法が取り上げられ,個々の疾患への対応がわかりやすく書かれている。これまで,運動障害の外科療法,包括的療法についてこれだけ具体的,明解で,しかもコンパクトに書かれているものは読んだことがなく,大変得るところが多かった。

 わが国での本格的なMovement Disorder Clinicの設立に尽力されている順天堂大学脳神経内科・服部信孝教授の監訳のもと,大山彦光氏,下泰司氏,梅村淳氏の3名の若手・中堅の脳神経内科医・脳外科医の共訳による訳文は,正確で,かつ表現がこなれていて,読みやすい。熱心な読者なら2-3日で通読できるだろう。サイズも白衣のポケットに入る重さと大きさで,マニュアルの名にふさわしい。研修医から専門医に至る医師はもちろん,メディカルスタッフにも手元において役立ててほしい,ベッドサイドで頼りになる虎の巻である。運動障害の患者を扱うすべての医療関係者に強く推薦する。
この1冊ですべてわかる不随意運動のみかたと包括ケア
書評者: 村田 美穂 (国立精神・神経研究センターパーキンソン病・運動障害疾患センター長/特命副院長/神経内科診療部長)
 「運動障害」って何だろう,と思われる方も少なくないかもしれない。「不随意運動」と聞くと,ああ,震えたり勝手に体が動くことね,でも色々あって何がミオクローヌスだか振戦だかよくわからないなあ,というのが多くの方の思いではないだろうか。

 ここにご紹介するのは米国フロリダ大学運動障害疾患センターのdirectorの1人で米国パーキンソン財団のNational Medical DoctorでもあるOkun博士らがその豊富な経験をもとに「ポケットタイプでありながら,すべての運動障害疾患の症候をベースとした臨床家の頼りになるハンドブック」を書かれたものである。運動障害疾患関連の書籍はわが国でも散見されるが,いずれも専門家向けで手軽に手にとれるものはほとんどない。本書の原著は2007年に出版され,世界中で愛読されているが,今回わが国のパーキンソン病診療および研究の第一人者である順天堂大学脳神経内科服部信孝教授の監訳により,Okun博士のもとで薫陶を受けた大山彦光先生らが訳された。この名著の日本語版が出版されたことは本当にうれしいことである。

 この本は内科的アプローチ,外科的アプローチ,包括的アプローチの3章仕立てである。

1)内科的アプローチは症候で分類されて述べられているが,「見た目で分類する」という著者の意図をさらに親しみやすくするための訳者の工夫が盛り込まれ,「オドる」患者のみかた,「ピクつく」患者のみかたといった,親しみやすい題がついている。

2)外科的アプローチではパーキンソン病のみならず本態性振戦,ジストニアも含め,適応,実際のターゲッティングの他,手術をより成功させるための要素,適応評価における集学的チームとして,脳外科医,神経内科医の他,心理学者(臨床心理士),精神科医のかかわりにも言及している。

3)包括的アプローチでは非薬物治療として言語療法,理学療法,作業療法,栄養学的アプローチに触れているが,特に言語療法の中で代表的疾患それぞれにおける言語・嚥下評価に触れているのは他には類をみないものである。

 しかもハンデイである。ポケットサイズ厚さ15mmのなかに運動障害疾患のみかた,診断,治療まですべてのエッセンスが詰まっている。

 もちろん,訳本であるので,薬物の量や考え方に少しわが国との違いがある。原著は2007年に出版されているので,少し現状に合わない部分もある。しかし,運動障害疾患患者のケアセンターを作ることに尽力してきたOkun先生のポリシーが随所にみられ,正確な診断のみならず,考えられるすべての方法を集約し運動障害疾患の患者さんを今よりも少しでもよくしようという気持ちがあふれている書である。

 神経内科専門医のみならず,運動障害にあまりなじみのない内科医,神経内科をローテートする研修医,さらには運動障害疾患に興味をもつ看護師,リハビリスタッフにもぜひいつも手元においていただきたい1冊である。

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