医学界新聞

連載

2013.01.28

看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第97回〉
「座長」談義

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 秋の学会シーズンでいくつかの「講演」を聴いた。学会プログラムには講演する講師と並んで「座長」が示される。壇上にいて,その講演の口火を切る座長は,これから繰り広げられる1時間ほどの講演を誘導する重要な役割を担っている。ということに,ある退屈な講演を聴きながらはたと思い至った。それに,本稿の編集者からの「"学会座長の心得"みたいなテーマでアジェンダを書いていただくのも面白いかもしれません」というフレーズが頭に浮かんだ。

 もしあなたが講演の演者ではなく座長を依頼され引き受けたとして,どのように振る舞うと聴衆と講師の距離を縮め,期待感にあふれた開幕とすることができるのか。講演中や終了後に座長がやるべきことは何か。私の経験則を紹介しようと思う。

「控え室情報」の活用,場の「解凍」

1)座長を引き受けた時点で
 座長の依頼があり引き受けようと決めた時点で,講演テーマと講師の略歴と業績に関心を持つ。全く面識のない講師の場合はインターネット等で情報を得る。立花隆だったと思うが,自分が対談する相手の著作をすべて読むと言っていた(私もマネしようと思ったことがあったが挫折した)。

2)講演前
 講演が始まる30分くらい前には控え室で講師にあいさつし,簡単な打ち合わせを行う。この「出会い」が大切である。どこからやって来たのか,どんな様子なのか,何に関心を持っているのか,面白そうな人か,講演の内容のポイントをどこに置いているのか,などを探索する絶好の機会である。

 講演時間のぎりぎりまでパワーポイントを修正している踏ん切りの悪い講師もいるので,講師のそばにべったりいる必要はない。座長としての語りに必要な情報を得たら,会場の下見に出かけるとよい。

3)壇上での振る舞い
 アナウンスにより座長が紹介され,壇上に登り席につく。座長にライトが当たる瞬間である。マイクを引き寄せてスイッチがオンになっていることを確認する。

 講演の始まりとテーマを告げる。そして講師の紹介を行う。講師の略歴や業績は主催者側で準備し座長に渡されることが一般的である。渡されたペーパーに記載されている情報は,公開してもよいものと判断される。この講師紹介をどのように行うか,どのくらいの時間を使うかは座長に委ねられる。「講師の紹介をいたします」と言ってから記載されている情報を長々と読み上げるのは聴衆を飽きさせる。

 聴衆と講演をつなげるためには,座長は「昔からの知り合い」のように講師を紹介しなければならない。棒読みはせず,メリハリをつけて,できるだけ自分のセリフを挿入する。この際に役立つのは「控え室情報」である。控え室で講演内容をつぶさに聞く座長もいるが,座長も聴衆と同様な期待感をもって臨むには,事前の打ち合わせはほどほどにしておくとよい。座長が,これから始まる講演は面白そうだという雰囲気を醸成するのである。そのために座長は,顔の表情,声のトーンを考え,自らを演出するとよい。

 座長は,「大変有名な」講師に圧倒されないことが大切である。コンサートなどで,「みんな元気かい?!」などと盛り上げるのに似ている。あるいは,手術室の外回りナースが手術全体の進行を決定づけるようなものである。変革プロセスでいう「解凍」の段階である。特に,聴衆がよく知らない,頭がよくてまじめそうな講師の場合にはジョークで会場を和ませる。

4)講演中
 講演は多くの場合,パワーポイントが用いられる。会場は照明を暗くし,座長は闇に沈む(場慣れしている座長の中には,その間仮眠をとる人もいる)。私は,講演中に座長が「合いの手」を入れるとよいと思う。例えば,「そこをもう少し説明してください」とか「それは面白い」とか「その話は本当ですか」とか……。時に,座長から質問を切り出したり,話が長くなったらやんわりと終結に導く。絶妙なタイムマネジメントが重要である。講演が延びると,あとが押している学会側にとっては死活問題となる。

5)講演の終了
 教育講演や特別講演の場合は,聴衆からの質問を受けないのが一般的である。しかし,時間に余裕があり,講師の了解が得られるならば意見交換をできるだけすべきであると私は思う。そのためには20-30分必要であり,短い時間の質疑には限界がある。数分の時間が残ったら,数分で回答できて,しかも聴衆も聞きたいと思っているであろう質問を座長自らがさっと効率よく行うとよい。「質問はありませんか」とフロアに投げかけて,間髪を入れず手が挙がるようになるとよいと,座長をしていて思うことがある。

 最後に,「皆さま,(講師に)拍手をお願いします」と強制するかどうかである。私は聴衆の一員として,拍手の強制はやめてもらいたいと思う。座長が講師に「お礼申し上げます」や「ありがとうございます」と締めくくれば,聴衆は自発的に拍手をするであろう。時間がないのに,やぼな「まとめ」とやらをして参加者を引き留めておくことも不要である。

 以上,秋の学会シーズンで得た「座長」談義である。

つづく

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