医学界新聞

連載

2012.12.03

「型」が身につくカルテの書き方

【第6講】病棟編(2) 経過記録と問題リストの活用

佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)


3001号よりつづく

「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。

本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。


カルテ記載例

問題リスト
#1.急性呼吸不全[12.1登録]→重症市中肺炎[12.1診断](1)→肺炎球菌性重症肺炎・侵襲性肺炎球菌感染症[12.4深化]→治癒[12.14](2)
#2.発熱症[12.1登録]→#1に統合[12.1]
#3.高血糖[12.1登録]→高血糖高浸透圧症候群[12.4深化]→治癒[12.6](3)
#4.重度嚥下障害[12.5登録]→廃用性嚥下障害[12.14深化]
#5.急性肝障害[12.6登録]→薬剤性肝障害[12.8診断]→治癒[12.14]
#6.廃用症候群[12.3登録]

〈12月14日 経過記録〉
#1.肺炎球菌性重症肺炎・侵襲性肺炎球菌感染症(4)
S)咳・痰なし,息切れは歩行時に軽度のみで生活動作では出ない(5)
O)バイタル正常範囲(6),食事全量摂取,肺ラ音なし。胸部Xp:浸潤影消失。
A)治療開始14日目。十分な期間抗菌薬治療(CTRX 6日間→ PCG 8日間)を行い,症状や所見からも治癒と判定する(7)。#6廃用症候群が改善し次第退院でよい(8)。
P)PCG点滴は本日16時のもので終了。退院前にニューモバックス接種を提案(9)。
#4.廃用性嚥下障害
#5.薬剤性肝障害
〔#4.#5のS)―P)は紙面の都合で省略〕
#6.廃用症候群
O)OT・PT記録参照(6)。四肢・体幹ともに筋力・バランス・耐久性が低下しており,特に歩行時の易疲労感が目立つ。Alb2.8,Lymph850,Glc121,体重-2 kg
A)#1の侵襲+安静のため筋萎縮が進み体力低下が著しい。栄養障害も認める。急性疾患の異化期は終わったため十分なカロリー・蛋白負荷の上十分な筋トレと歩行訓練を継続すれば回復し始めると考えられる。
P)OT・PT2単位ずつ継続。運動後に高蛋白ゼリー追加。回復期病棟へ転科の手配を進める。

(1)プロブレム名更新時には,更新した日付と変化の分類を[ ]内に記載する。
 分類:深化・診断,統合・移行,訂正・取り消し,治癒・終了など
(2)統合(他のプロブレムへの吸収)や治癒(治療による疾患の治癒),終了(その他何らかの原因で問題が消失)した場合は日付とともに分類を記載すること。このいずれかが記載されていないプロブレムはまだ活動性で,解決しない限り退院できない。この問題リストでは#4,#6だけが現在アクティブだとすぐわかり,急性期病棟から回復期リハビリ病棟への転科タイミングと判断できる。
(3)前日までに統合・治癒・終了しているプロブレムは,その後の経過記録では触れる必要はない。
(4)冗長になるため,プロブレム名は最新のものだけでよい。番号だけだと問題リストを確認しながらでないと読みにくいので不便と個人的には感じる。
(5)簡潔さが大事なので,患者の解釈や感情を把握する必要がない医学的な問題の記述では医学用語に置き換えたり箇条書きでよい。
(6)温度板や他職種記録に書いている内容は重複して書かなくてもよい。
(7)治癒などプロブレム名変更の理由はAに根拠とともに記載する。
(8)プロブレム名=病状の把握内容が変化すれば必ず方針も変化するため,その都度記載する。
(9)まだ決定していない退院日の前後で行う予定の保留プラン。ここに書いておくだけだと退院間際に忘れるので,この時点で指示を出してしまうか,退院時要約に転記しておき退院直前に見つけられるようにしておくとなおよい。


 前回は病棟診療を立ち上げるために重要な「入院時記録」の書き方を解説しました。今回は入院後に毎日記載して,情報を整理し,評価・方針を最適化していくための「経過記録」について解説します。入院時記録や退院時要約に比べると注目されにくいですが,きちんと型に沿って取り組むことで毎日確実に成長できます。長く複雑な入院診療の道しるべとなる「日々深化する問題リスト」と,タスク管理と自己学習に役立つ「By problemでの経過記録」を組み合わせた効果的な記載方法を身につけましょう。

■「経過記録」のための『基本の型』の応用

 「SOAP全体」の書式,「問題リスト」の更新方法,「S・O欄,A欄,P欄」,それぞれのポイントに分けて解説していきます。

1)SOAP全体は「By problem」で書く
 これまでの本連載では多くの医療者に受け入れられやすく柔軟性も高い「一体型(全体のS・O→Aだけプロブレムを分ける→全体のP)」で解説してきましたが,病棟の経過記録ではPOSの基本型である「By problem(プロブレムごとに分けてSOAPを書く形式)」で記載してください。患者に存在する多彩な問題を,入院時に作成した問題リストに沿って分割して分析することで,診断推論・病態の判断・治療の効果判定といった一番難しい行為をシンプルに行えます。

 またBy problem形式だと,「手元のS・O情報のうち,どれがどのプロブレムに属するのか」を区別しないと記載できません。どこに書けばよいか考え,本を調べたり指導医に聞いたりすることで「Aという症状はXというプロブレムの診断根拠・経過判断を表すのに良い指標である」ことを学べ,「根拠に基づく診断推論能力」が強制的に育ちます。また「このプロブレムがある患者ではどんな情報が重要か」を考えながら翌日の問診・身体診察を行うことで,病状や方針判断に直結する情報を能動的に集める「効果的な情報収集能力」も高まります。

2)問題リストは「毎日更新」する
 病状認識が変わるたびにプロブレム名を更新していきます。プロブレム名の変遷を一望することで入院後の経過を簡単に把握することができます(ある病気がいつ認識されいつ治癒したのか,合併症がいつ発生したのかなどがすぐにわかる)し,いつまでも更新されないままのプロブレムがあれば介入がおろそかになっていることがすぐにわかります。また,問題リストの一番右にあるプロブレム名を見れば現時点での最新のプロブレム一覧がわかり,退院日にはそのリストをそのまま退院時要約に「最終病名」として登録したり,外来の問題リストに引き継ぐことができます。

 毎日問題リストを見ながら経過記録をBy problemで記載し,記載した結果プロブレム名に変化があれば,問題リストを更新します。そのためには経過記録とは独立していつでも閲覧できる「問題リスト」記載欄が必要で,電子カルテなら専用のページをサブ画面に表示して,紙カルテなら別紙の問題リストを脇において作業すると便利です。

3)S・O欄は簡潔に記載する
 前回記載時から今までに起きた出来事を記載します。手元の情報をすべて書くと膨大な量になり,入院経過が長くなるほど閲覧性が低下します。「そのプロブレムの病態判断や方針変更に必要な情報に絞って」記載しましょう。重要な基本情報(既往歴・生活歴など)は,経過記録への記載だけだと後日探し出すのが難しくなるので,その都度退院時要約やその他所定の欄に転記しておきましょう。

4)Aはプロブレム名の明確化と方針の最適化をめざす
 「S・Oの情報をもとに病状が改善・悪化しているのか」や,「プロブレム名の更新ができないか」を判断・記載する。プロブレム名の更新は,その都度問題リストに反映する。また,冒頭に「入院何日目」や「○○治療開始何日目」と書くと,治療効果判定や退院時期の検討に活かしやすい。

5)Pはタスク管理ツールとして活用する
 入院時に立てたプランを「ToDo」(未実施のものと新規発生したもの),「実施済」,「保留」(入院中には行わず退院後に引き継ぐもの)に分けて考えます。ToDoは毎日P欄に記載し,指示簿にも転記するクセを付けると指示漏れを防げます。印刷して持ち歩けばその日のタスク一覧にもなります。実施済プランはただ削除するのではなく退院後要約に転記しておくと,後で入院後経過をまとめるときにカルテを読み直さなくても書けるので便利です。保留プランも削除するときに退院時要約の申し送り欄や診療情報提供書に転記し,退院後の外来に確実に引き継がれるようにします。すべてのToDoが消えれば退院可能なはずであり,リストが消えない,または消えたのに退院できていない場合は何か見落としていないかの再評価が必要です。

■記載するタイミング

 基本的には「診療後に遅滞なく,その都度記載」で,最低でも1日1回は記載しましょう。ただし,新規情報も病状変化も介入もしていないプロブレムは記載しません。そのプロブレムの記載がないことで間接的に「変化がない日だった」ことがわかります(変化がないのに「毎日書く」こと自体を目的化してしまうと,次第に深く考えず「変化なし」ばかり連発する医師になってしまいます)。一方で,バイタルが動いているような重症患者や処置を行った直後,トラブルがあった後などはその都度,日に何度でも記載しましょう。夜にまとめて書くと細かい経過が思い出せず内容が不正確になりがちですし,トラブル事例でカルテ開示となったときには「トラブルが起きてからカルテ記載をするまでの間何も診療をしていない」と取られかねません。

■例外や限界

 複雑すぎてプロブレムごとに分割しきれない事例や,忙しくてプロブレムごとに分けて書いている余裕がない場合は,「By problem」ではなく「一体型」で書くこともあります。また,By problemに慣れていない指導医・病棟だとかえって混乱が生じることもあるので,「場の空気を読んで柔軟に」運用してください。

 次回は,病棟編の最後を飾る「退院時要約」の書き方をご紹介します。

つづく