医学界新聞

連載

2012.11.05

「型」が身につくカルテの書き方

【第5講】病棟編(1) 入院時記録

佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)


2997号よりつづく

 「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。

 本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。


カルテ記載例(入院時記録)

【入院目的】肺炎治療(1)

【主訴】発熱・咳・痰

【現病歴】糖尿病・高血圧等で当院かかりつけの,なんとか独居を続けてきた89歳男性(2)。入院3日前より倦怠感・咳嗽が出現,2日前に近医で風邪薬を処方された(詳細不明(3))。息切れも出現したため本日6時に当院救急外来に救急車にて搬送。肺炎と診断され,セフトリアキソン(CTRX)を投与後同日10時に当院内科病棟に入院となった。咳・痰と労作時息切はあったが,胸痛・血痰,消化器・尿路症状の有無は未評価(3)。

【既往歴】糖尿病,高血圧症。心血管合併症や過去の肺炎歴,家族歴・生活歴等は外来カルテに記載なく明日家族から聴取予定(3)。

【身体所見(4)】JCS20,BP106/64,HR122整,RR26,SpO2 91(室内気),BT38.2。左背側でcracklesあり。腹部は……,四肢は……,神経系は……。

【検査所見(4)】尿:潜血(++),白血球(++)。血液:WBC1万2600,Hb12.4,Plt24万,(以下略)。胸部Xp:左下肺野に浸潤影あり。喀痰:グラム染色未実施。

【問題リスト(5)】#1.市中肺炎,#2.糖尿病,#3.尿潜血……,#10.高齢独居

 #1.市中肺炎

 自宅で生活していた高齢者の急性経過の呼吸器症状と胸部Xp異常から,市中肺炎と診断する(6)。CURB-65から重症。病歴・検査不十分で起炎菌を絞り切れずCTRXはカバー不十分な可能性あり(以下略)。

 #2.糖尿病~#10高齢独居(省略)

 #2の血糖変化に注意しつつ#1の治療最優先で進める。リハビリで体力低下を防ぎ2週間以内の早期退院をめざす。バイタルが落ち着けば#2,3の合併症評価と処方最適化を行い,#4以降は時間がなければ退院後に外来で引き続き対応していく。(7)

【初期方針】

 Tx(8):CTRX1 g/q24 h+CPFX300 mg/12 h。絶食,生食100 mL/h持続点滴。発熱時アセトアミノフェン座薬使用。床上リハ開始。

 Dx(9):バイタルを○時間ごとに評価。喀痰培養結果待ち。翌日前医への問い合せ,家族からの詳細な情報聴取追加。48時間で解熱しない場合は……,呼吸状態が悪化する場合は……する。

 Ex(10):診断名・今後の見通しを家族に口頭で説明した。経過が良ければ○日に詳しい病状説明予定。

 Px(11):喫煙歴があれば禁煙教育。退院前に肺炎球菌ワクチンを提案。生活困難があれば介護認定やサービス利用の相談を早期から行う。

 (カルテと別に,各職種への指示箋記載も行う)


(1)この入院の目的やゴールが直接イメージできるため,主訴よりも重要。
(2)現病歴はOpening statementから始める。
(3)まだ把握できていない重要な情報は,理由とともに「詳細不明」「未聴取」等と記載しておく。
(4)入院後刻一刻と変化していくデータのベースラインとして,入院の時点(自分が担当した時点)での身体所見・検査所見をすべて記載する(記載例では紙面の都合で割愛)。
(5)問題リストは,緊急度・重要度を加味しながら入院時に把握したすべての問題点を列挙する。
(6)S・O情報の何を重視してプロブレム名を付けたのか(診断確定の場合,診断根拠は何か)をBrief summaryで明言し,その後に現状の情報からわかる範囲で鑑別診断・病型分類・重症度判断などを述べる。
(7)全体の方針は,退院目標に触れつつ,問題リストの優先順位や対応の流れを説明。
(8)根治治療(抗菌薬や手術)だけでなく,対症療法や支持療法も記載。
(9)どのパラメーターで治療効果を判断するのか,経過が悪い場合の追加検査計画,入院時に取りきれなかった情報をどうやって埋めるか。
(10)患者・家族に何を説明したかを記載。次回面談の予定も決めておくとよい。
(11)現時点で思いつく疾病予防策や福祉サービス活用などの退院調整プランを立ち上げる。


 前回までは「基本の型」として,「SOAP」各要素の書き方を説明してきました。今回からは「応用の型」として,外来や救急などセッティング別の書き分け方を紹介していきます。

 まずは,多くの研修医が最初に書くことになる「病棟」での「入院時記録」を解説します。毎日の経過記録とは区別してAdmission noteとも呼ばれ,適切な診療に乗せるために重視されています。入院初日は忙しいですが,この出来がその後の診療の質を大きく左右するので心して取り組みましょう。

■誰のために書くのか?

 「誰が,何のために読むのか」を考えると,おのずと良いカルテの条件が見えてきます。入院時記録の場合は(1)医師自身,(2)他職種,(3)患者・家族の3者が重要です。

 (1)医師:初日に収集した膨大な情報が整理されれば,頭がすっきりし臨床上の問題点も明確化されます。また,所定のフォーマットを埋められないことで担当症例に対する情報不足や知識不足に気付くことができ,現場で役立つ学習のきっかけになります。

 (2)他職種:各職種の役割分担やチームとしての目標が明確になる入院時記録があれば,各職種の能力を最大限引き出し質の高い医療を提供できます。

 (3)患者・家族:患者自身が現状を理解し医療者と一致した目標を持つことができれば,より円滑で満足度の高い診療が行えます。また,トラブル時にはカルテ開示を要求されることもあるため,いつ誰に見られてもいい記載内容である必要があります。

■良い入院時記録の最低条件

 「患者を診療したら遅滞なく記録する」が基本であり,どんなに忙しい事情があっても「入院後24時間以内に完成」を厳守してください。

 「良いカルテ」を書こうと意気込む研修医ほど,入念な情報収集・繰り返しの推敲・丁寧な清書に時間をかけがちですが,そもそも入院時には必要な情報が不足しているため「完璧な入院時記録」は書けません。まだ把握できていないS・Oは「未聴取」と記載しておき,とりあえずA・Pを書き現場を回し始めましょう。そうすれば入院時にはわからなかった「時間経過とともに明らかになる自然経過・治療反応性」や「他職種が集める多彩な視点からの情報」が蓄積し,数日経てば全体像が見えてきます。そのころに完璧な「中間要約」を作れば十分です。

 以上を踏まえて入院時記録の書き方を具体的に説明していきます。カルテ記載例も参考に以下を読み進めてください。

■「入院時記録」のための「基本の型」の応用

1)S・O欄は,入院時の「全情報」を書く
 鑑別に役立つかどうかや,プレゼンで話すかどうかといった基準で割愛せず,入院時につかんでいる情報は「すべて」記載しましょう。

 入院初日にはまだ情報が少なく何が重要か判断が難しいですが,何気ない情報が後になって重要になったり,他職種にとっては意外と大切な情報だったりします。ただし,大量の情報は後で読むのが大変なので,一定のフォーマットに沿って記載することで情報を整理し,また各プロブレムの最初にS・O情報の要約(=Brief summary)を書き全体像を把握しやすくしましょう(本連載第24講参照)。

2)A欄は「混乱のない問題リスト」「退院の見通し」が重要
 プロブレム数が多い場合,在院日数の短い急性期病棟では優先順位が重要です。(1)命にかかわる急性疾患(感染症・臓器不全など)>(2)退院後では介入しにくい問題(患者・家族教育や処方整理など)>(3)急がない問題(安定した慢性疾患など)の順番に問題リストに登録するとメリハリが付きます。

 また,入院期間中の問題リスト番号はその日の重要度順で番号を入れ替えたりせず一貫性を持たせます。入院時には診断が付かず今後のプログラム名変化が予想できない場合は,入院時には仮記号を付けておき,診断が付いた時点で番号を振る方法も便利です(悪い例:入院時「#1発熱,#2胸痛」→1週間後「#1心筋梗塞,#2肺炎」。良い例:入院時「#a.ショック,#b.発熱,#c.胸痛→1週間後「#1.心筋梗塞による心原性ショック(#a+c),#2.肺炎(#b)」)。

 診断学的には「プロブレム名」の後に鑑別診断を並べる形式(例:#1.発熱症。S/O市中肺炎,R/O尿路感染症)が望ましいですが,診断推論よりも治療が重視される病棟では,総合プロブレム方式で禁忌(第3講参照)とされる「○○病疑い」というプロブレム名(例:#1.肺炎疑い)のほうが好まれることも多いです。病棟の文化や指導医の好みに応じて柔軟に対応することで,多彩な「カルテの型」を身につけましょう。

 方針は,「いつごろ病状が落ち着き,いつまでに退院する見込み」のように「退院するまでの見通し」として書きましょう。入院時から退院計画が明確化することで在院日数を短縮できるため,患者は入院による負担が減り,病院経営も改善し,研修医も経験症例数が増え経過を見通す力もついていいことずくめです。

3)P欄は「タイミング」と「分担」を明確に
 急性疾患の入院治療では,膨大な量のやるべきことがあり,刻一刻と変わっていく病状に対してタイミングよく介入する必要があります。計画の全体像を一望できる「クリティカルパス」をイメージして,各職種がどの計画をいつ実施するのかを明記しましょう。実際には,看護指示簿やリハビリ処方箋・食事箋など職種・病棟ごとに決められた指示出し方法は活用しつつ,それで不十分な部分をPの欄に書きます。

 次回以降は,毎日の診療を充実させる「経過記録」の書き方や,退院後につながる「退院時要約」の書き方を解説していきます。

つづく


参考URL
 原稿倉庫「Simple Guide」

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