医学界新聞

連載

2012.01.23

看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第85回〉
健康日本21と保健師のミッション

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の最終評価が,「健康日本21評価作業チーム」(座長=東北大大学院・辻一郎)によって昨年10月にまとめられた。これを受けて,厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会(座長=東大大学院・永井良三,筆者も委員の一人)では,次期国民健康づくり運動プランについて検討が始まっている(ちなみに,「健康日本」は「けんこうにっぽん」と呼ぶのが正しいそうである)。

 健康日本21策定は,「急速な人口の高齢化や生活習慣の変化により,疾病構造が変化し疾病全体に占めるがん,虚血性心疾患,脳血管疾患,糖尿病等の生活習慣病の割合が増加し,これら生活習慣病に係る医療費の国民医療費に占める割合は,約3割となっている」ことから,「平成12年に生活習慣病やその原因となる生活習慣の改善等に関する課題について目標等を選定」したものである。健康日本21は,平成17年度に中間評価を行い,平成22年度から最終評価を行って,その後の運動の推進に反映させることになっていた。医療制度改革にかかわる諸計画の計画期間を踏まえ,平成24年度まで2年間延長することになっている。

指標の達成度

 健康日本21は,9つの分野の全指標80項目から構成される。分野1は「栄養・食生活」の15項目,分野2は「身体活動・運動」の8項目,分野3は「休養・こころの健康づくり」の4項目,分野4は「たばこ」の4項目,分野5は「アルコール」の3項目,分野6は「歯の健康」の13項目,分野7は「糖尿病」の11項目,分野8は「循環器病」の14項目,分野9は「がん」の7項目である。

 80項目中,再掲の21項目を除く59項目について,目標値に達した項目は10項目(16.9%)であった()。その主なものは,メタボリックシンドロームを認知している国民の割合の増加,高齢者で外出について積極的態度を持つ人の増加,80歳で20歯以上・60歳で24歯以上の自分の歯を有する人の増加などであった。目標値に達していないが改善傾向にある項目は25項目(42.4%)である。その主なものは,食塩摂取量の減少,意識的に運動を心がけている人の増加,喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及,糖尿病やがん検診の受診の促進,高血圧の改善などであった。変わらない項目は14項目(23.7%)であった。その主なものは,自殺者の減少,多量に飲酒する人の減少,メタボリックシンドロームの該当者・予備軍の減少,高脂血症の減少などであった。悪化している項目は9項目(15.3%)である。その主なものは,日常生活における歩数の増加,糖尿病合併症の減少などである。全体の傾向として,健康に関する認識の変化が行動に結び付いていないという状況である。

 「健康日本21」最終評価の結果

保健師のミッション

 中間評価報告で指摘された課題は,「誰に何を」というターゲットが不明確であること,目標達成に向けた効果的なプログラムやツールが不十分であったこと,アウトカム評価手法の見直し,政府全体や産業界を含めた社会全体の取り組みが不十分であったこと,医療保険者や市町村等の役割分担が不明確であったこと,現状把握・施策評価のためのデータ収集整備が不十分であったこと,保健師・管理栄養士など医療関係者の資質の向上に関する取り組みが不十分であったことなどが挙げられている。

 私はとりわけ,最後の課題に反応している。しかもまたもや「資質の向上」という文言が登場している点である。資質の向上は,保健師助産師看護師法(保助看法)第1条「目的」に記されている多少屈辱的な文言である。ちなみに,保助看法第2条には,保健師は「保健指導に従事することを業とする者をいう」と規定される。健康日本21は,まさに保健師のミッションそのものである。

つづく

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