心(2)(田中和豊)
連載
2011.12.05
連載 臨床医学航海術 第71回 心(2)-最終回 田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長) |
(前回よりつづく)
臨床医学は疾風怒濤の海。この大海原を安全に航海するためには卓越した航海術が必要となる。本連載では,この臨床医学航海術の土台となる「人間としての基礎的技能」を示すことにする。もっとも,これらの技能は,臨床医学に限らず人生という大海原の航海術なのかもしれないが……。
前回に引き続き人間としての基礎的技能の第12番目の「心」について考える。前回は心を理解する上で,心理学が大切であると述べた。今回は医師の「心」について考えたい。
表 人間としての基礎的技能 | |
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医師の「心」
患者に心があるように医師にも「心」がある。それでは,病める患者を治療している医師のほうの心は果たして健全と言えるのだろうか?
仏教では,人間が克服すべき煩悩として「三毒」が挙げられている。三毒とは,「貪(とん)」「瞋(じん)」「癡(ち)」の3つの煩悩である。「貪」は必要以上にむさぼる心,「瞋」とは怒りの心,そして,「癡」は愚痴(無知)の心である。人の心は放っておくと,知らぬうちにこの三毒にむしばまれてしまうという。
日々診療を行っていると,われわれ医師の心も知らず知らずのうちにこの三毒にむしばまれていると感じることがある。例えば,心肺停止で搬入された患者を蘇生する場面を思い浮かべてもらいたい。患者が高齢であれば,「成功しないかもしれない」とどこかで思いながらも心肺蘇生を続けることがある。そのまま心拍が再開しなければ,死亡を確認し,診療は終わるだろう。しかし,その再開しないであろうと予想していた患者の心拍が突然再開することもある。こんなとき,われわれの脳裏にふと「心拍が戻っちゃった……」という思いがよぎる。心拍を再開させるために行っていた処置にもかかわらず,その目的と裏腹にそんなことを考えてしまうのだ。
もちろん,それには理由がある。高齢患者の場合,心拍が再開しても低酸素脳症で意識が戻ることはほとんどなく,また心肺蘇生後には集中治療室に入院となり,そこで患者の治療をしなければならず,中心静脈ラインや動脈ラインを入れ,場合によっては低体温療法を行う必要もある。これらのすべてを自分で行わなければならなくなるのだ。「戻っちゃった」という思いを抱いてしまうのは,まさに,さらなる...
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臨床医学航海術(終了)
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