医学界新聞

連載

2011.06.06

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第199回

アウトブレイク(13)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2929号よりつづく

公聴会でのFDA批判

 2000年7月18日,下院・政府改革委員会において「医薬における水銀使用――不必要なリスクを冒しているのか?」をテーマとして,公聴会が開催された。

 冒頭,公聴会開催の目的を説明したのは,同委員会委員長ダン・バートン議員(共和党,インディアナ州選出)だった。

「昨年来,本委員会は,予防接種に関する安全性・研究・政策についての調査を行って参りました。一部に,本委員会の調査を『反予防接種運動』と見なす向きがあるようですが,これほど真実からかけ離れた非難はありません。安全で有効な予防接種が命を救う一方で,十分な検証・検討が行われない場合,予防接種は危険なものとなりますし,その好例がロタウイルス・ワクチンでした。

……何が起こったのかを調査することは決して無責任な行為ではありませんし,連邦政府の諮問委員を務める多くの医師は『利益相反』の問題を抱えています。彼らは,予防接種の許認可について決定する立場にあるというのに,ワクチンを製造する製薬企業から報酬を得ているのです。

……本日の主題は医薬に使用されている水銀の問題です。水銀が毒であることを知らない人はいません。少量・長期の暴露は,精神遅滞・脳性麻痺・中枢神経障害と関連付けられてきました。私たちは,子どもたちが医薬に含まれる水銀に暴露されることがないように食品医薬局(FDA)が守っていると思い込んできましたが,そうではありませんでした。1930年に初めて市販された後,チメロサールは,広く予防接種の(水銀系)保存剤として使用されてきました。現在認可されている50種以上の予防接種に使われているのです。

 生後6か月までの間に,子どもたちが(予防接種を通じて)環境保護局の安全基準を上回る水銀に暴露されている事実をFDAが認めたのはつい最近のことであります。子どもたちが,4つや5つの予防接種をいっぺんに投与されるのはよくあることです。私の孫も,一度に9種類の予防接種を受けさせられましたが,その結果,62.5マイクログラムの水銀に暴露されました。孫の体重からすると一日の許容量は1.5マイクログラムでしたから,41倍の量を投与されたことになります。

……FDAは水銀を含むような(危険な)ワクチンを即刻市場から排除するはずだと思うのが普通でしょうが,そうではありませんでした。米小児科学会と合衆国公衆衛生局が,予防接種からチメロサールを除去すべしとする共同声明を発表したのは1999年7月9日のことでした。一方,FDAがワクチン製造企業に対して『医薬品におけるチメロサールの減量・除去』に関する勧告を出したのは2000年5月31日のことでした。しかも,この勧告は何ら強制力を伴うものではなかったので,チメロサールが入ったワクチンはいまだに使われているのです。

 FDAが水銀入りワクチンの使用を許可し続けているために,毎日8000人以上の子どもが予防接種を通じて毒性を発揮する量の水銀を投与されているのです。

……FDAは,食品添加物の場合,水銀を含む化合物は認可していませんし,水銀を含む化合物一般について安全とはみなしていません。

……食品添加物や店頭販売医薬品の場合は安全でないというのに,なぜワクチンなら水銀は安全だというのでしょう……」

出席者の顔ぶれと委員長の思惑

 と,公聴会の目的について述べた後,バートンは発言者の顔ぶれを紹介し始めた。疾病予防管理センター(CDC)の担当官等,予防接種の専門家が招かれていたのは当然だったが,「意外」なことに,発言者の多くは,自閉症を専門とする医師や,自閉症児を持つ親で占められていた。公聴会には「医薬における水銀使用」という概括的な名称が与えられていたのとは裏腹に,バートンが政府改革委員会委員長として公聴会を主催した本当の目的が,「予防接種に含まれる水銀系保存剤チメロサールと自閉症の因果関係」を検証することにあったのは,出席者の顔ぶれからも明らかだった。

 しかも,ワクチンの許認可について諮問する専門委員の「利益相反」についてあえて言及したことからもわかるように,バートンが「チメロサールが自閉症の原因」とする説を信じ,「危険なワクチンの使用を認めているだけでなく,子どもたちへの接種を義務付けている」FDAに対し,批判的であることに疑問の余地はなかった。

 では,なぜ,バートンが「チメロサールが自閉症の原因」と信じるようになったかというと,その理由は,自身の孫クリスチャンが,「9種類のワクチンを投与された後,自閉症になった」という体験をしていたことにあった。「自閉症の症状が出現し始めたのは予防接種の後。予防接種が原因だったのは間違いない」と信じ込んでいたのである。

この項つづく

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook