医学界新聞

連載

2011.05.16

「本物のホスピタリスト」をめざし米国で研鑽を積む筆者が,
その役割や実際の業務を紹介します。

REAL HOSPITALIST

[Vol.5] 「本物」の条件

石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)


前回よりつづく

How was that Code Blue? What's going on?
(さっきのコードブルー。どうだった?)

That hospitalist! It is his patient, again. He is in septic shock. He did nothing for the patient.
(例のホスピタリスト。また彼の患者よ。敗血症性ショック。何にも管理してなかったの。)

 私がまだレジデントだったころの,ICUでのエピソードである。当時うちの病院でもまだ,ホスピタリストは玉石混淆,といった状態であった。ホスピタリストという言葉が紹介されて当時まだ約10年,その役割自体がまだまだ手探りであり,全米どこの病院においてもある程度,そのような状態だったのではないだろうか。

 ただ中でも一人,どうしようもないホスピタリストが存在した。患者管理はサブスペシャリティに丸投げ。責任感はない。ドクターズフィーを稼ぐため,患者の数をとることにはご熱心で,そのくせ,午後2時ごろには病院を離れてしまう。そして,ナースからの呼び出しには応じない。患者管理のクオリティーが,これで高かろうはずもない。当時のわれわれレジデントから見ても,信じられない管理をしていることがままあった。結果として冒頭で挙げたようなCode Blue(患者の状態が悪化し,担当チームに招集がかかった状態)を,文字通り連発していた。わが師匠であるDr. Vaidyanは,このような似非(えせ)ホスピタリストがごく普通に働いている状況を打破すべく,内科のディレクターによって引き抜かれてきたのである。

 当然のことだが,ホスピタリストにもピンからキリまである。私の目標とするものは本連載名の通り,「本物のホスピタリスト」である。いっぽう,「本物」とはとても呼べないホスピタリストも,残念ながら存在する。以下,その特徴を挙げてみたい。

 単なるゲートキーパー。プロフェッショナルとしての自覚がなく,通り一遍のことしかしない。マニュアル通りにしか医療行為を行わない。患者診療に対する意欲がない。Careerではなく,Jobとしてしか自分の仕事をとらえていない,等々。こういう「似非ホスピタリスト(Fake Hospitalist)」が多いのも,また事実である。残念なことだ。

 表面上で,このような「似非」ホスピタリストと「本物の」ホスピタリストとを見分けることは,難しい。行っていることを評価するためには,評価する側にも一定の医学知識が必要なためだ。もっとも長い期間を経れば,その違いは次第に明らかになってくる。最初に紹介したホスピタリストなどは,その最悪のケースだろう。

 では,「本物のホスピタリスト」の条件は何だろう。これは,簡単には語り尽くせない。きめが細かく,しかも素早い病歴聴取の技術。正確な身体所見の獲得。幅広い知識に裏付けされた臨床判断。優れた人間性とリーダーシップ。コミュニケーションスキル。フレキシブルでありながら,肝心のところでは決して妥協しないバランス感覚。これらはしかし,必要条件ではあるが,十分条件ではない気がする。この疑問をさらに深く掘り下げるために,私はこの連載を始めたと言ってもいい。

 ただ明らかなことは,「患者中心の医療」と「患者を一番に考えるプロフェッショナリズム」,このふたつが必須の条件だということだ。これは「良い医師」としての普遍的な条件でもある。そして,つまるところホスピタリストの価値は,「医師としての普遍的な仕事を,どれだけ情熱を持って行えるか」にあると言える。そのためには,「自分がどれだけ高い志を持っているか」,そして「どのような医師でありたいか」が重要なのだと思う。

He is leaving this hospital, I heard.
(彼,この病院やめるらしいわよ。)

Finally!!
(ああ,とうとう。)

 わが師匠が病院に来て以来,その改革はゆっくりと,しかし十分にドラスティックに行われた。コメディカルとわれわれレジデントに教育を行いつつ,自分が理想とする患者管理を行える,医療チームの構築に努めていった。また,「これは」と思える若手ドクターを引き抜き,理想のホスピタリストチームを徐々に作り上げた。似非ホスピタリストが辞めざるを得ない環境を作るため,いわば外堀から埋めていったのである。そして,それを私は一番身近で見続けることができた。幸運だったと言っていい。

 現在,彼のチームは文字通り,この病院の患者管理の中枢を担っている。そのメンバーの半数は,私同様レジデント時代に彼の薫陶を受けた者たちである。そのメンバーの一員であることに誇りを持てる,そういう環境で働けることは幸運だと,いま心からそう思う。

Real Hospitalist虎の巻

「本物のホスピタリスト」に必要な資質とは?
幅広い知識に裏付けされた臨床判断,優れた人間性とリーダーシップ,コミュニケーションスキル,そしてバランス感覚。単なるゲートキーパーではない,総合内科医としての患者中心の医療と,プロフェッショナリズム。

It's Toyota's Kaizen Methods.
(トヨタのカイゼン方式だよ。)

 わが師匠の,当時の口癖である。彼がどのようにしてカイゼンを成し遂げていったのか。これはまた稿を新たにして紹介したい。ただ,その改革を成し遂げた一番の要因は,次代を担う学生,若手レジデント,そしてコメディカルへの十分な,しかも熱意に満ちた教育にあった。そしてこの教育,教師としての姿勢もまた,ホスピタリストに求められる重要な役割のひとつなのである。

 次回は,この教育に焦点を当ててみたいと思う。

(左)セントルイス紹介Photoシリーズ第一弾,ゲートウェイ・アーチ。セントルイスと言えばまずはこれ。シンプルかつ美しいデザイン,そしてその大きさは,見る者を魅了する。個人的には,セントルイスのみならず,全米をも代表するモニュメントだと思う。
(右)セントルイスのダウンタウン。中央に見えるのは,旧裁判所。こちらも,セントルイスの代表的建築物のひとつ。ゲートウェイ・アーチと並び,この街のランドマーク的存在である。

つづく

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