神経:転換性障害(志賀隆)
連載
2010.12.06
それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴
【第10回】
神経:転換性障害
志賀隆
(Instructor, Harvard Medical School/MGH救急部)
(前回よりつづく)
わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。
1年目の研修も半分を終えてコモンな主訴に対する診療には,割と自信が出てきた。しかし,次の予診票を見たあなたはちょっと不安に思う。「ヘルニアかなぁ? 何だろう?」
■CASE
20歳男性。母親に伴われて来院。現在は服薬なし。朝起きてから左手・左足が動かないという。左足の感覚低下も伴う。発熱,発疹等はない。血圧120/80 mmHg,脈拍数70/分,呼吸数14/分,SpO2100%(RA)。右上下肢の徒手筋力テストは5/5。両側Babinski陰性。腱反射は両側正常。左半身の知覚低下があり,正常知覚への移行は体幹正中にて認められる。胸腹部には異常所見なし。
■Question
Q1 下肢の脱力の鑑別診断のアプローチはどのようにして行うか?
A アプローチの仕方は多岐にわたるが,両側の脱力なのか,片側の脱力なのかに応じて,最適なアプローチの仕方を選択する。
両側の脱力では,まず筋疾患,神経筋接合部疾患,神経疾患とレベルに応じて考える。筋疾患では多発性筋炎や横紋筋融解症など,神経筋接合部疾患では重症筋無力症,神経疾患ではギラン・バレー症候群などを検討する。さらに,毒素/毒物/薬物・代謝内分泌などと分けて考えるとよい。毒素ではダニ麻痺,ボツリヌス,ヒ素,代謝性では低マグネシウム血症,低リン血症など広く考慮する必要がある。片側の脱力の場合は,脳卒中,神経根症状(radiculopathy),単神経障害(mononeuropathy),多発性硬化症,などを考える。
あなたは「確かに力が入らないようだけれど,なぜ若者に? 切迫感もないなぁ?」と思い指導医に相談すると,「もしかしたら転換性障害(以前のヒステリー)かもしれない」という答えが……。
Q2「La belle indifference」とは何か?
A 満ち足りた無関心。
転換性障害にみられる,自身の症状の重篤さに比して無頓着な態度のことを指す。しかし,必ずしも全例にみられるわけでもなく,これによって診断が決まるわけでもないので注意が必要である。
Q3 転換性障害が疑われる患者における診察上のポイントは何か?
A 深部腱反射が保たれているのに完全麻痺である,麻痺側に顔を向けることができない(健側の胸鎖乳突筋の麻痺),詐病確認のHoover testが陽性であることなど。
Hoover test(写真)は,下記のように行う。
| 写真 Hoover test |
(1)まず,患者を仰臥位にして両側の踵に手を置く。患者に患肢を上げるように指示する。患側と反対側(健側)の下肢に下方への圧力がなければ,患者は一側の下肢を挙上しようと努力していないことがわかる。器質的疾患があれば,医師は健側に下方への圧力を感じる。
(2)その後,今度は健側を挙上するように指示をして,患側に下方への圧力が生じるかをみる。詐病の場合は,健側を積極的に上げようとする。その際,医師は本来力が入らないはずである患側に下方への圧力が生じるかをみる。器質的疾患による麻痺の場合,患側に下方への圧力は生じない。...
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