医学界新聞

連載

2010.10.04

レジデントのための
クリティカルケア入門セミナー

大野博司
(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)

[第7回]

■人工呼吸器の使いかた(1) 気道確保と気管内挿管


2894号よりつづく

今回は,クリティカルケアにおける人工呼吸器管理前の気道確保・気管内挿管について取り上げます。


CASE

Case1 頭痛,意識障害でER来院したADL自立の50歳男性。酸素10 L/分でSpO295%,血圧220/140 mmHg,心拍数130/分,呼吸数12/分,体温35.5℃,GCSスケールE1V1M4,いびき様呼吸。くも膜下出血の診断でICU入室。上気道閉塞,呼吸不安定のため,術前に気管内挿管,人工呼吸器管理となった。

 2%リドカイン100 mg 1/2A,ブプレノルフィン0.2 mg1A,ミダゾラム10 mg1A,ロクロニウム50 mg1Aを静注し挿管。人工呼吸器管理開始となり,2病日に緊急手術となった。

Case2 転落による多発外傷でER来院したADL自立の45歳男性。身長170 cm,体重100 kg。酸素10 L/分でSpO295%,血圧140/60 mmHg,心拍数80/分,呼吸数12/分,体温35.5℃,GCSスケール E1V1M3,いびき様呼吸,四肢麻痺,肛門直腸反射消失。頭部外傷による舌根沈下,頸椎損傷による横隔神経麻痺からの呼吸抑制で呼吸不安定なため,2%リドカイン100 mg 1/2A,フェンタニル0.1 mg1A,プロポフォール50 mg,ロクロニウム50 mg2Aを静注しビデオ付喉頭鏡(Pentax AWS-S100)を使用して気管内挿管。挿管チューブは7.5 mmを25 cmで固定し,人工呼吸器管理となった。

気道確保と気管内挿管の適応

 一般的な気管内挿管の適応としては,(1)低酸素血症および高二酸化炭素血症による呼吸不全,(2)気道防御機能の破綻(咳嗽反射消失,舌根沈下など),(3)NPPV(非侵襲的陽圧呼吸)で改善しない呼吸不全,の3つの場合が挙げられます。また,臨床所見からは,(1)呼吸補助筋使用による呼吸,(2)一文をすべて話しきることができない状態,(3)早く浅い呼吸,(4)十分な酸素投与にもかかわらず低酸素血症が進行,(5)意識障害,の5つの場合に気管内挿管の適応を考慮します。

 標準的な気管内挿管にはの器具・薬剤を用意します。各施設で,救急カートないしは気道確保カートの中身を常に確認しておくとよいでしょう。

 標準的な気管内挿管に用いる器具・薬剤
・挿管チューブ(男性7.5-8 mm,女性7-7.5 mm)
・スタイレット,ガムエラスティックブジー
・10 ccシリンジ
・マッキントッシュ型ブレード,ミラー型ブレード
・喉頭鏡,エアウェイスコープ,ビデオ付喉頭鏡
・固定テープ,バイトブロック
・リドカインゼリー,リドカインスプレー
・吸引チューブ
・Magill鉗子
・カプノメータ(PetCO2モニター)
・経鼻エアウェイ,経口エアウェイ

 使用する薬剤には,

*気管攣縮予防・頭蓋内圧亢進予防:リドカイン1.5 mg/kg,
*鎮痛薬:ブプレノルフィン0.2 mg,あるいは,フェンタニル0.05-0.5 mg
*鎮静薬:ミダゾラム5-10 mg(ないしプロポフォール50-100 mg)

 があり,挿管前に静注します。場合によっては,

*筋弛緩薬:ロクロニウム1 mg/kg,ないしサクシニルコリン1-1.5 mg/kg(

 を併用します。しかし,患者の状態が悪いほど,意識下での気管内挿管もあり得ることを忘れないでください。またこれらを適宜組み合わせ,血圧低下や困難気道かどうかを考慮して,「リドカイン(気管攣縮予防)+ブプレノルフィン(鎮痛)」「リドカイン(気管攣縮予防)+フェンタニル(鎮痛)+ミダゾラム(鎮静)+ロクロニウム(筋弛緩)」などの挿管前導入の方法があります。

 筋弛緩薬を挿管前に使用した場合,気道確保が確実にできないとCICV(cannot intubate, cannot ventilate)の状態となるため,十分な注意が必要です。そのため,sniffing position(口腔・咽頭・喉頭の軸を一直線に近づける!)を基本とする気道確保に普段から十分慣れておくこと,およびマッキントッシュ型喉頭鏡以外の他の挿管手技〔経鼻挿管,気管支鏡下経口挿管,ビデオ付喉頭鏡(エアウェイスコープなど),気管挿管ブジー,ラリンジアルマスク(LMA),外科的気道確保など〕などについて,オプションを広げておくとよいと思います。

 また,通常使用するマッキントッシュ型喉頭鏡下で喉頭展開しても声門が見えない場合には,次の手順で対応します。

*吐物,異物の場合,吸引ないしはMagill鉗子などで除去する。
*喉頭部が前にみえる場合,甲状軟骨・輪状軟骨を体外から押さえるか(Sellick手技やBURP手技),直型ブレードに変更する。
*頭部前屈を深くする。
*バッグ,マスク換気しながら救援を呼ぶ。

迅速気道確保の流れ
 急速挿管・迅速気道確保(RSI : rapid sequence intubation)は,麻酔導入薬,速効性の筋弛緩薬を使用することで意識消失と筋弛緩を直ちに起こし,気管挿管を行う手技です。挿管前に,胃内容物の存在が疑われる場合に行う気管挿管法となります。

【事前の準備】
・RSIカートの用意,困難気道の評価,血管確保と昇圧薬(エフェドリン,ノルアドレナリンなど)の用意。
・100%酸素でバッグ/バルブ/マスク換気(アンビューバッグを使用)。
・鎮痛薬としてフェンタニルないしブプレノルフィン,気道攣縮・頭蓋内圧予防としてリドカインを投与。

【RSI開始時】
  プロポフォールないしミダゾラム,Sellick法での輪状軟骨圧迫。適宜,筋弛緩薬追加(サクシニルコリンないしロクロニウム)を使用。

【RSI開始30-45秒】
  気管内挿管を行い,声門部が見えない場合はBURP手技〔甲状軟骨をB(backward),U(upward),R(rightward),P(pressure),後ろ→上→右に押す方法〕を行う。

【RSI気道確保後】
・聴診にて胸部左右差,胃内,胸郭の動きの観察。
・カプノメータ波形確認し,挿管チューブ固定。その後,血液ガス分析・胸部X線検査を行う。

各状況での対応法

 以上の気道確保と気管内挿管の流れを踏まえ,実際の症例で起こりうる状況での対応法を解説します。

1.胃内容物充満,嘔吐の場合は?
 挿管時に誤嚥を起こす危険性が高いため,経鼻胃管を吸引のために挿入してからRSIを準備します。しかし,挿管前に経鼻胃管を留置・吸引することで胃内容が空になるわけでないため,RSI手技で迅速に気道確保を行います。

2.頭蓋内圧亢進の場合は?
 疼痛や気管への刺激により頭蓋内圧が上昇する危険性があり,挿管時の刺激を減らすために局所麻酔薬による気道反射消失,リドカイン静注,バルビツレート,麻薬による深い麻酔,筋弛緩薬の使用を考慮します。

3.心筋虚血および,心筋梗塞後間もない場合は?
 挿管手技による心拍数や血圧の変動を少なくするために,麻薬による深い麻酔,局所麻酔薬による気道反射消失,β遮断薬(ランジオロールやエスモロールなど超速効型)を使用します。また血圧低下時にはエフェドリンやノルアドレナリン,血圧上昇時はニトログリセリンを用意します。

4.頸椎損傷の場合は?
 頭部の前屈など前方への頸椎の動きが脊髄損傷を増悪させるため,頭部・頸部・胸部を真っ直ぐに保つよう介助者が牽引・頸椎固定を行い,喉頭鏡での喉頭展開やビデオ付喉頭鏡(特にエアウェイスコープ)を使用して挿管を行います。

ケースを振り返って

 Case1は,くも膜下出血による意識障害下での気道確保のケースです。頭蓋内圧上昇に注意した気道確保が必要となり,頭蓋内圧上昇予防・気道刺激予防でリドカイン,鎮痛で拮抗性麻薬,鎮静でミダゾラム,筋弛緩でロクロニウムが使用されています。

 Case2は,多発外傷(頭部・頸椎損傷)であり困難気道(difficult airway)のケースです。気道確保に長けた医師(麻酔科医,救急医)による,RSIの適応となります。ここではビデオ付喉頭鏡を使用した気道確保を行っています。

Take Home Message

(1)気道確保・気管内挿管の適応について理解する。
(2)気管内挿管で用いる薬剤について理解する。
(3)RSIの流れについて理解する。

つづく

:脱分極性筋弛緩薬であるサクシニルコリンのほうが超短時間作用のため好まれますが,非脱分極性筋弛緩薬であるロクロニウムもリバースとしてスガマデックスが使用可能なため,緊急気道確保には使用可能と考えます。


参考文献
1)Roberts JT. Clinical management of the airway. Saunders. 1994.
2)Hurford WE. Orotracheal intubation outside the operating room : anatomic considerations and techniques. Respir Care. 1999 ; 44(6) : 615-29.
3)Reynolds FS, et al. Airway management of the critically ill patient : rapid-sequence intubation. Chest. 2005 ; 127(4) : 1397-412.

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