医学界新聞

寄稿

2009.11.02

【寄稿】

Cancer Survivorshipと在宅ホスピスケア
Macmillan Cancer SupportとForum for Hospice at Home UK

加藤恒夫(かとう内科並木通り診療所)


 昨年,筆者は本紙に「英国腫瘍センターと地域,そして緩和ケアとの連携」と題し,主として腫瘍センターを取材し報告した(第27932795号)。その中でも触れたが,今回の訪英では,地域と病院双方で患者を支援し,かつ一貫してプライマリ・ケアを重視した数々の対策を実行し続けるMacmillan Cancer Support(MCS)をさらに深く取材した。MCSは,20世紀初頭より英国緩和ケアを牽引する非営利団体の代表的存在である。

 加えて,英国の在宅ホスピスを運営する諸団体の連合体である“Forum for Hospice at Home UK”の代表者にインタビューし,また同連合体の2009年度総会に出席したので,その現状も合わせて報告する。

■MCS-英国におけるCancer Survivorshipの旗手

がんに焦点を当てることへの組織的再確認

 英国の緩和ケアは1990年代末以降,「がん」から「がん以外の疾患」へと舵を大きく切ってきた。その中で,組織の名前に「がん」を冠するMCSは活動の方向をどう定めるか,内部で議論がかなり沸騰していた。筆者は2004年,英国の諸団体(St. Christopher’s Hospice,当時のNational Council for Hospice and Specialist Palliative,当時のMacmillan Cancer Relief)本部を訪問し,その現状を伝えた(本紙第26032604号)。

 当時Macmillan Cancer Relief代表者(Chief Executive;CE)であったPeter Cardy氏は,「がん以外の緩和ケア」の取り組みについては「今後の課題である」として明言を避けた。以下に,当時のインタビューより氏の発言を抜粋する-「しかし,ご存知のように,Macmillanの憲章には“がんの人たちの救済”ということが明記されていますから,この問題に取り組むためには,私たちにとっては,とても難しい問題が待ち受けています。(中略)私たちは,今の憲章を変えるつもりはないのですが,がん以外の人たちのケアからも学ぶことが必要だと思います。もう決して,がん以外の人たちを無視できる状況にあるとは,思えません。これからの私たちの大きな課題です」1)

 それから5年を経て,現在のMCSは新しいCEであるCiaran Devane氏の指揮で,活動の方向性をより明確化している。すなわちその理念を“Living with Cancer”とし,焦点をCancer Survivorshipに当てた上で,さまざまな新しい取り組みを開始している。

団体名の変遷-がんを取り巻く社会状況に合わせて

 MCSの詳細な歴史は同Webサイトに譲るが,MCSは1911年の創設以来,自らの団体名を次々と変化させてきた。筆者が過去20年間に訪問した間に,Cancer Relief Macmillan Fund,Macmillan Cancer Relief,Macmillan Cancer Supportと3回改称している。Ciaran Devane氏によると,がんをめぐる社会の環境の変化に応じたのだという。以下,氏の言葉を借りる。

 「現在,英国で生存中のがん患者数は約200万人,そのうち130万人は診断後5年以上生きています。つまり,がんは既に“死に至る病”ではなくなっているということです。しかし,現在の英国民が持つがんに対する感情は,いまだに死と直結した“汚名(Stigma)”であり,“恐怖(Fear)”の対象です。創立当初は,社会の貧困を反映して患者の経済的困窮に対する援助に焦点が当てられていましたが,その後,1950-60年代は当時のホスピス開設運動の影響を受け,ホスピス建設によるベッドの確保に移りました。さらに,1970-80年代にかけては緩和ケアの質の標準化に焦点が移り,専門看護師の育成と配備へと戦略が変わりました。そして今日,がんの社会的汚名と悪印象の原因は自らの団体名にあった“解放・救済(Relief from Suffering)”という言葉の中にも込められていたと断定しました。そこで,その文字を取り除き,がんと共に生きることを団体の使命として再確認したのです」。

 MCSが力を入れている活動として,患者の発言を全国的な規模で求め,それらを病院・ホスピス・緩和ケアチームだけでなく,自らの組織運営や行政の方針作りにまで反映させる活動がある。これは,今では英国政府の方針となっている2)。その方法も,全国各地での集会のみでなく,Cancer Voice Networkとして電子媒体を通じて組織的に収集,情報化し,頻度分析と要因分析を行っている。その上でさらに,各種の専門的ガイドラインの見直しや政策の結果評価の材料として役立てている。

がん患者を支援する-活動の中心はプライマリ・ケア

 英国厚生省は2000年に“Cancer Plan”3)を発表し,将来の計画とその予算確保を明言した。がん治療の中心にGeneral Physician(GP)をおき,イングランド領域におけるプライマリ・ケアのがん治療強化政策のための予算を保障した(Primary Care Cancer Lead; PCCL)。

 MCS(当時はMacmillan Cancer Relief)は積極的にこの政策と歩調を合わせ,GPに対して,がんの治療から終末期ケアにおける専門家たちとの連携などについての教育を行ってきた。その結果,この政策は2004年には英国全土に拡大された。

 さらに2007年に英国厚生省から発表された“Cancer Reform Strategy”のなかで,再度プライマリ・ケアの重視策が確認され,PCCLはがん政策の中心に位置するようになった4)

 このことは,政策の理念的支柱はがんと共に生きること“Living with Cancer”であり,その伴走者はプライマリ・ケアであることを確認し,予算の保障がされたことを意味する。これはMCSの活動の理念そのものであり,さらに,MCSは英国厚生省のその後のがん政策書にその名を明文化された。

 現在も,そして今後も,MCSはプラマリ・ケアが,がんの旅路(Cancer Journey)の中心であり続けられる...

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