医学界新聞

2009.09.07

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


研修医のための
整形外科診療「これだけは!」

高橋 正明 編

《評 者》髙岸 憲二(群馬大教授・整形外科学)

整形外科医として独り立ちするために

 厚生労働省が報告している国民生活基礎調査の有訴者率では「腰痛」および「肩こり」が男女ともに1位および2位を占めていますし,女性では3位に「手足の関節が痛む」が入っていることでわかるように,外来診療では,この種の訴えを持った多くの患者が整形外科外来を訪れています。また,救急外来では救急車で運ばれてくる外傷患者の9割以上が整形外科関連という病院もあります。2004年に始まった卒後臨床研修システムでは整形外科は残念ながら必修科には選ばれませんでしたが,一般病院では,整形外科医がかかわる機会が数多くあります。多くの研修医が一般病院で研修を受けるようになり,指導医が十分いない病院でどのようにして彼らを一定のレベルまで引き上げることができるか,また,研修医向けの良い整形外科入門書がないかと思っておりました。

 このたび医学書院から『研修医のための整形外科診療「これだけは!」』が出版されました。この本は雑誌『臨床整形外科』に2007年1月から2008年6月までの1年半,全18回にわたり掲載された連載企画「臨床研修医のための整形外科」を1冊の書籍にまとめたものです。

 編者の高橋正明先生は慶應義塾大学医学部整形外科医局に属され,私と同じ肩関節外科を専門とされており,学会や症例検討会での先生の発言を聞いておりますと基本に忠実で,ポイントを押さえて的確であることから,素晴らしい先生と常々感じておりました。雑誌『臨床整形外科』の編集委員会でこの連載企画が持ち上がった折,私は高橋先生が慶應義塾大学医学部付属病院で「若手医師」を指導する「卒訓担当」医師を務め,若手医師より大変慕われていたことを知っておりましたので,彼なら間違いないと大賛成でした。

 連載された企画も大変好評であり,このたび1冊の書籍が出来上がりました。診断に至るフローチャート,臨床研修Q&Aやサイドメモ(問診で確認する内容),研修での評価項目など随所に日常診療に役立つ工夫が施されています。

 これから整形外科を学ぶにあたり,研修医がスタンダードな本を購入し,勉強していかなければならないことは言うまでもありませんが,本書によって一般病院で日常行われている整形外科医の診療像が把握でき,さらに実践に役立てることができることを確信しております。研修医の方は外来,当直,手術室などでぜひ本書を常時携帯して一日も早く整形外科医として独り立ちしていただければ幸いです。

B5・頁212 定価5,880円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00808-2


摂食障害 第2版
食べない,食べられない,食べたら止まらない

切池 信夫 著

《評 者》福居 顯二(京府医大大学院教授・精神機能病態学)

時代と共に大きく変遷していく摂食障害治療の羅針盤

 拒食症や過食症といった食行動の異常を呈する患者の増加が指摘されるようになって久しい。呼称も広く「摂食障害」といわれるようになった。筆者が研修医だった昭和50年代初めには,大学病院でも摂食障害(多くは神経性食思不振症・制限型)の患者さんの入院は1年間にせいぜい2-3例で,主治医として診る機会は少なかったと記憶している。近年では過食の症例の増加も相まって,外来や病棟でもよく見られるようになり,摂食障害は時代と共に大きく変遷していく疾患の一つであるといえる。

 そんな中,『摂食障害』第2版を読む機会を得た。初版から10年経った改訂版である。本書は副題にあるように,「食べない,食べられない,食べたら止まらない」の病態をわかりやすくまとめたものである。著者の序にもあるように,この10年間で画期的な特効薬的治療法が確立されたかといえば残念ながらそうではない。さらに本疾患が,本人の性格,生き方,取り巻く家族,社会,文化とも関係するため,「治療は難しい」(VII章)にも通じるが,治療者のアートの側面もまた大きい位置を占めていると述べている。

 第2版の特徴は,初めて摂食障害を診る医師のためのQ&Aをまとめた「Introduction」が冒頭に追加記載され,専門医にとっては知識の整理に,経験の少ない医師には,その診断・治療,種々のかかわりの中での対応などがわかりやすく記載され,親切で身近に感じられる。それだけ本疾患が増加し,精神科や心療内科以外の多くの診療科を受診する状況を物語っている。さらに,10年間の疫学の変遷や,生物学的病因の新しい知見,それに基づく薬物療法などについて新たに記載されている。これらのデータは,わが国を代表する摂食障害の臨床家として,また日本摂食障害学会の理事長として,長年本疾患に取り組んできた著者の研究グループの数多くの知見が中心であり,各章末に引用され,そこから海外の主要な文献にもたどり着くことができる。そして何よりも治療に関して力点を置いていて実践的である。

 最近,本疾患は単に医師・患者にとどまらず,家族や社会といった多方面の,さらには多職種のネットワークによる支えが必要であることが強調されてきている。この点からも,本書が研修医を含め,広く摂食障害治療にかかわる医師,看護師,臨床心理士,精神保健福祉士などにとっての有用な羅針盤になるものと思われる。

A5・頁288 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00818-1


《標準言語聴覚障害学》
失語症学

藤田 郁代 シリーズ監修
藤田 郁代,立石 雅子 編

《評 者》柴田 貞雄(日本福祉教育専門学校校長)

一流の臨床家への学びを一冊に凝縮

本書刊行の意義
 失語研究ほど広い学際的分野・領域を包含するものはない。本書は,それら関連する諸科学も取り入れ,失語を失語症学として体系化の枠組みを具現している。端的に言えば広大無辺,茫漠としていた失語に「学」として明確な輪郭が描かれたことになる。失語を学ぶ上で必要なあらゆる,しかも先端をいく関連科学の進歩と知見も取り入れて見事に編纂されている。

 失語臨床は失語症学の実践であり最たる目的であるから,失語を担当する言語聴覚士はもちろんのこと,これを志す学生にとって本書はめざすべき学習の広がりと深みのレベルにminimal requirementを設定しているとも考えられ,それが“標準”の意味であろう。本書は1970年代に始まるわが国の本格的な失語臨床の勃興から約40年にわたって,失語臨床を主導した言語聴覚士たちの今日までの集大成でもあり,後進に継承される発展への願いでもあるだろう。したがって,後進はひたすら本書に沿って学べば,間違いなく一流の臨床家,研究者に成長できるはずである。臨床と研究のタフな研鑽の道のりではあるが,実りは大きい。

本書の特徴,工夫
 さて,本書は実によくできている。全体の構成,各章,各項とも細部にわたって,内容とともによく練り上げられ,学習がはかどりそうである。第4章までは基礎学として専門分野を読み進める上での必須事項を描き出し,失語臨床にかかわる内容理解を深く導く。繰り返し立ち返り確認されることを勧めたい。

 第5章以下は,自身の臨床研究の成果と幅広い考察に基づく言語聴覚士ならではの精細な記述で本書のハイライトである。失語臨床の世界的レベルを思わせる。失語臨床は出現する症状の的確な把握から始まる。この精度が診断と治療の質を決定するといっても過言ではないが,実に要領よくまとめられ,次章への入念な準備となっている(第5章)。

 失語のタイプ分類(失語症候群)は,言語症状の発現機序を解明し言語機能回復への合理的アプローチを提示する「言語診断」そのものではないが,最初に到達すべき不可欠の失語診断である。各症候群の概念に始まり,言語症状の特徴,病変部位,鑑別診断,予後・回復に進む記述は,初心者にも混乱のない掛け値なしのわかりやすさで,確かな診断技術を体得できよう。

 言語治療は,言語症状の発現機序の論理的解明と失語症者の可能性を探る評価に基づき,働きかけの対象機能や方法などを合理的に決定し(適応),実施することである。言語機能回復に近年の理論と手段を総動員して着々と成果を挙げつつある本書の著者らの労作が書き込まれ,将来への大きな可能性を予感させる。また,失語症患者の生活と人生を支援するリハビリテーションの包括的な活動も網羅してすきがない。言語聴覚障害治療学こそ究める道である。

 本作りにも配慮が行き届いている。随所にTopics,Side Memoを配して理解とその広がりを助け,得した気分にさせてくれる。図と表も適切である。特筆すべきことは,本書の記述を学問的に裏付ける豊富な文献が身近に配されて,確かめやすく将来の検索に極めて便利なことである。Key pointは,内容の理解を試すところだが編者の親切な姿勢がありがたい。

 以上,言語聴覚士およびそれをめざす学生はもちろんのこと,失語に広く関心を寄せられる人々に心底から本書を薦めたい。

B5・頁336 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00769-6


脳腫瘍臨床病理カラーアトラス 第3版

日本脳腫瘍病理学会 編
河本 圭司,吉田 純,中里 洋一 編集委員

《評 者》長村 義之(東海大教授・病理診断学)

脳腫瘍に携わるすべての医療従事者に極めて有用な書籍

 本書を開いてみて,まず感銘を受けるのは,(1)多くの脳腫瘍を網羅しながらの理路整然とした組み立て,(2)規則正しく簡潔かつ十二分な各腫瘍についての記述,(3)タイトルにふさわしい美麗かつ的確なカラー図である。本書には,一貫して編集者の哲学が感じられるのが素晴らしい。本書の内容は,総論と各論により構成されている。

 総論は,(1)歴史,(2)組織分類,(3)発生の分子メカニズム,(4)分子遺伝学と,脳腫瘍の“温故知新”が簡潔にまとめられており,興味深くまた大いに参考になる。特に「脳腫瘍の組織分類」ではWHO分類2007の表にはすべての腫瘍名が網羅されており,中枢神経系腫瘍のWHO gradeでも,表が見やすくgradingが可能となるように配慮されている。「脳腫瘍発生の分子メカニズム」「Astrocytoma,oligodendrogliomaの分子遺伝学」ではこの領域でのアップデートされた最新情報が記載されている。

 各論では,WHO分類2007に準拠して記載されており,グローバルスタンダードにのっとってアップデートした脳腫瘍診断を行うことができる。“誰でも”と付記したくなるくらいに,すべてが明快である。各論では代表的な66疾患が取り上げられているが,記載の簡潔さはもとより,カラー図も,H&E染色,免疫染色,電子顕微鏡など各腫瘍の診断に不可欠の特徴が網羅されている。かつ,われわれ病理医にとっても,極めて有用な画像診断イメージが必ず図示されている。CT,MRI画像などわかりやすく大いに参考になると思われる。さらに,遺伝性疾患であるNeurofibromatosis1/2,von Hippel-Lindau病,Tuberous sclerosisなどの場合では,遺伝子の突然変異も図示されている。最後に付録として,「表1.脳腫瘍の遺伝子/染色体異常」「表2.脳腫瘍の免疫組織化学」,そして文献が掲載されており有用である。

 本書は,病理医としては,脳腫瘍の病理診断の際に極めて有用であると同時に,脳腫瘍の診療に携わる臨床医にも多くの情報をもたらすものと思う。本書を,研修医,病理医,臨床医および脳腫瘍に関わるすべての医療従事者に極めて有用な書籍として推薦する。

A4・頁216 定価19,950円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00792-4


ウエスト呼吸生理学入門:正常肺編/疾患肺編
Respiratory Physiology: The Essentials, 8th Edition
Pulmonary Pathophysiology: The Essentials, 7th Edition

正常肺編
John B. West 著
桑平 一郎 訳

疾患肺編
John B. West 著
堀江 孝至 訳

《評 者》福地 義之助(順天堂大客員教授・呼吸器内科学)

“美しい肺”のすべてを余すところなく示す

 『ウエスト呼吸生理学入門』の「正常肺編」,「疾患肺編」を推薦する。

 呼吸器系が生命維持の上で不可欠な機能を担っていることはすべての医療従事者に異論のないところである。したがって,その機能を健常人で正しく理解し,これの異常を来す呼吸器疾患患者に生じる変化を迅速に把握し治療に万全を期すことの重要性も直ちに了解できるであろう。呼吸器疾患のベッドサイドの臨床では呼吸生理学の基本的知識に欠けるところがあると,患者さんにとって最も役立つ診断,治療戦略や看護・介護計画が十分に立てられない恐れがある。このようなリスクを最小限にするためには比較的簡明でわかりやすい入門書を手にして反復学習することが最もよい方法である。J. West著の『呼吸生理学入門』は,このような目的に最高の効果をもたらす入門書であると思う。私たちが呼吸器臨床に取り組み始めたころからJ. ComroeのThe Lungと並んで呼吸の働きと仕組みをしっかりと頭に入れるのに一番役立った教科書であった。West教授は35年にわたって本書の改訂を続けて今日に至っている。偉業というべきである。

 その最新改訂版が2009年5月に“Respiratory Physiology: The Essentials”と“Pulmonary Pathophysiology: The Essentials”の日本語新訳として出版された。今回の日本語翻訳版を手にしてまず感じるのは『呼吸生理学入門』の「正常肺編」と「疾患肺編」の2部作の形をとったこと,および装丁が原書よりも美しく視覚に訴えることの2点に集約された新鮮さである。「正常肺編」の翻訳は桑平一郎東海大学教授が新たに担当され,「疾患肺編」は旧版と同じく堀江孝至日本大学名誉教授による翻訳である。両教授共に長年にわたり呼吸生理学を研究し,臨床経験も深いのでWest教授の意図するところを科学的に十二分に咀嚼した訳文は見事である。読みやすく達意の表記となり英文と比較すると日本語への移行が正確な上に違和感がない。掲載されている図表も訳本のほうが見やすく,特に訳注は初学者の理解を助けるのに役立つ。また「正常肺編」における「疾患肺編」の記載項目への参照指示は適切で読者に親切な試みとなっている。これは2部作の形にした効用であろう。この2冊を通読して改めて感じたのは,一人の著者による系統的で一貫した理念によって呼吸生理が包括されて記述されていることの利点である。

 筆者はかねがね肺が3つの点で際立った器官であると考えている。一は外界に直接開口するがために環境因子に敏感なこと。二にガスと液体の相異なる物性の流体が接触して機能を営む複雑系であること。三には呼吸運動が自律性と髄意性の両面性を持つこと。West教授のこの著書はこのような“美しい肺”のすべてを示して余すところがないのである。広く若い医師,ナース,PT,OT,STに一読,再読をお勧めする次第である。

B5変型 頁218 定価3,990円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/
B5変型・頁244  定価3,990円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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