摂食障害 第2版
食べない,食べられない,食べたら止まらない

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改訂版では、Introduction「はじめて摂食障害患者を診る医師のQ&A」を新設。巻末には、著者が実際の診療で使用している患者向けパンフレットを収載した。このほか、疫学と発生機序については最新データに改め、また臨床像として近年増加している「働く女性」を追加。治療については著者が実践している外来通院治療法を解説し、支持的精神療法や難治例についての記述も補充。薬物療法の内容も一新した。
切池 信夫
発行 2009年04月判型:A5頁:288
ISBN 978-4-260-00818-1
定価 3,740円 (本体3,400円+税)
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第2版の推薦の辞(川北幸男)/第2版の序(切池信夫)

第2版の推薦の辞
 「光陰矢のごとし」と言うべきか,本書の初版の出版から約10年が経過して,このたび第2版が出版されることになった.著者がライフワークとして取り組まれ,営々として努力を傾注されてきた「摂食障害」だが,その情熱には心より敬意を表するものである.
 仄聞するところでは,本症の患者数は減少する傾向がない一方,研究面でも病因や発症機序はまだ明らかではなく,多元モデルが提唱されている.本症の研究はまだ道半ばというところであろうか.
 そんな中にあって,著者は誠実に丹念に各症例の診療にあたり,特に治療には相当のエネルギーを注入しておられる.本症の治療に関わられることの多いコメディカルスタッフの方々にも本書は裨益するところが大きいのではなかろうか.
 ところで「食行動」は「性行動」と並んで人間の二大本能の一つであることを考えると,人には出生時から「食行動」については,柔軟かつ強靭なプログラムが体内に付与されていると考えるのが妥当であろう.その天与のプログラムが,なぜにかくも多くの若者において破壊されるのであろうか.
 ここ十数年,世は挙げてグローバリゼーション,情報化の波に押し流されているように見える.そこには伝統的に,go-getterを正義とし,拝金主義,弱肉強食を美徳としてきたアメリカ文化が底流にあり,「武士道精神」を基盤とするわが国の伝統文化とは相容れないものがあることを,われわれは知らねばならない.
 こういう風潮の一環でもあろうか,一時若者に「自分探し」というコトバが吹き込まれたことがあった.よく考えてみれば,「自分探し」の行き着く先は「本能」,つまり「食」と「性」でしかない.食行動の崩壊が目立つようになったのは,この頃からではなかろうか.マスメディアの愚劣さ加減がわかろうというものである.いま若者が必要なことは「己を創り,己を磨く」ことではなかろうか.
 貴重な医学書の巻頭に,このような駄弁を弄することはいささか忸怩たる思いがあるが,わが国の未来を考える時に,私にはぜひとも書き残しておきたい文言である.願わくば諒とされたい.
 「食行動」という本能の神経機構の解明と,本症の病因・病態生理が明らかにされる日を心待ちにしているものである.

 2009年4月
 大阪市立大学名誉教授 川北幸男


第2版の序
 本書の初版が出版されてから,はや約10年が経過した.時間の経つのは早いものである.この間,摂食障害に関する研究成果があがり,画期的な発見により特効薬的治療法が確立されたかといえば,残念ながらそうでない.相変わらず治療は難しく,症例ごとに工夫を重ねているのが現況である.今後も,このような傾向は続くものと予測される.というのは,摂食障害患者の治療において,「疾患」としての部分よりも「病」が何を意味し,その経験をどのように生き,その経験にどのように対処して扱っていくかという課題が,多くの精神障害のなかで最も際出った形で出てくるからである.それゆえ「病」をもつ人の性格や生き方,取り巻く家族,社会,文化が病気の経過や治癒に大きく影響する.したがって治療において,エビデンスに基づく医学的知識に加えて,個々の患者に対する治療者のアートの部分が大きい位置を占めている.
 そこで第2版では,筆者が初版を上梓してから,日常診療において日々工夫を重ね実施している治療法を中心に改訂した.そして他の章においては新たな知見を加えた.その主な内容を以下に説明する.
 Introductionは新しく追加した部分で,摂食障害患者の診療経験の少ない医師が抱きがちな疑問や,患者や家族から尋ねられたときの疑問に対する筆者の説明を紹介した.第II章の疫学的研究では,最近の研究結果を追加した.第III章の発症機序の解明については,それほど進歩していないため内容を少し減らし,神経画像や遺伝研究の最新の知見を加えた.第IV章の「さまざまな臨床像」では,最近働いている女性に摂食障害が増えているので,これについての記述を追加した.第VII章「治療は難しい」において,筆者が行っている外来通院治療法を具体的に述べ,支持的精神療法や対人関係療法を追加し,薬物療法については内容を一新した.さらに特殊な症例の治療において,治療抵抗性の慢性例の治療法について追加した.さらに今後の課題である摂食障害の治療ネットワークについて筆者らの研究成果を紹介した.第VIII章の予後について,筆者らの転帰調査結果と外国における最新のデータを追加した.
 以上,今回の改訂にあたって,以前にも増して摂食障害についてより深い理解に到達することができた.これは今後の研究に生かされるだろう.
 本書では治療法について筆者のやり方を紹介したが,筆者の臨床経験の偏りもあり,それらがすべての患者にあてはまるとは思わない.治療に携わる先生方には納得できる点だけを使っていただきたい.
 最後に,今まで筆者とともに研究および治療に悪戦苦闘していただいた教室の諸先生方に感謝するしだいである.

 2009年4月
 切池信夫

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 第2版の推薦の辞
 第2版の序
 初版の序

Introduction はじめて摂食障害患者を診る医師のQ&A
 Q1 病的なダイエットとは?
 Q2 病初期にみられる食行動異常のサインとは?
 Q3 精神症状や問題行動への対応は?
 Q4 医師や病院だけに治療を任せられるか?
 Q5 学生の場合,休学したほうがよいか?
 Q6 社会人の場合,休職したほうがよいか?
 Q7 摂食障害が治った状態とは?
 Q8 練習や競技へ復帰するためには?
 Q9 摂食障害患者に対する父親の役割は?
 Q10 1人暮らしを希望する場合の対応は?
 Q11 学校の先生や保健師から,摂食障害が疑われる生徒の相談を受けた際の対応は?
第I章 摂食障害の概念と歴史
 A 摂食障害とは何か
 B anorexia nervosa(AN)以前のやせ症
 C ANの概念の誕生
 D bulimia nervosa(BN)の出現
第II章 摂食障害は世界的に増えている
 A アメリカとヨーロッパにおける摂食障害
 B アフリカ,中東,アジアにおける摂食障害
 C 日本における摂食障害
 D アメリカのマイノリティにおける摂食障害
 E 比較精神医学的観点から
第III章 病因と発症機序は複雑である
 A 摂食障害の発症に関与する要因
 B 多元的モデルによる発症機序
 C 病因に関するさまざまな仮説
第IV章 さまざまな臨床像
 A 思春期から青年期発症の典型例
 B 若年発症例について
 C 働く女性例
 D 既婚例
 E 遅発例
 F 男性例
 G スポーツ選手例
第V章 診断は難しくない
 A 診断の手順
 B 摂食行動異常や問題行動の評価
第VI章 さまざまな合併症とcomorbidity
 A どのような身体合併症を生じるのか?
 B どのような精神合併症を生じるのか?
第VII章 治療は難しい
 A 当科での治療法
 B 各種治療法
 C 特殊な症例の治療
 D 看護上の問題
 E 家族への対応の仕方
 F 治療のネットワークについて
第VIII章 予後
 A 一般的経過
 B 予後

付録
 〔資料1-1〕神経性食思不振症について
 〔資料1-2〕過食症について
 〔資料2-1〕神経性食思不振症について
 〔資料2-2〕私は病気ではない,病気の否認について
 〔資料2-3〕神経性食思不振症の治療について
 〔資料2-4〕神経性過食症について

索引

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患者に寄り添う治療のコツ
書評者: 大野 裕 (慶應義塾大教授・臨床精神医学)
 本書の著者の切池信夫先生は,いつお会いしても温かさを感じさせる人だ。ごく自然な言葉やしぐさの端々から人間的な温かさが感じられる。人間的な距離の取り方や話の間の取り方も絶妙で,お話しをしていると心が温かくなる。

 その切池先生の人となりは,改訂版で新たに加えられたIntroductionの「はじめて摂食障害患者を診る医師のQ&A」によく現れている。そこには,先生のこれまでの臨床経験が凝縮されていて,摂食障害の患者さんを思いやりながらどのように接すればよいか,そのコツが書かれている。これまで経験を積んできた臨床家にとっても役に立つ内容ばかりだ。

 しかも,内容はもちろんのこと,その文章は,摂食障害の患者さんや家族,周囲の人たちが読んだとしても,まるで先生から話しかけられ,支えられているような安らぎが感じられる書きぶりになっている。もちろん,巻末の患者向けパンフレットも当事者の方々の立場に立ったとても実践的なものに仕上がっていて,こうしたことからも,本書が実に臨床的な視点から書かれていることがわかる。

 こうした切池先生の臨床家としてのセンスは天性の資質のように思えて,私は,心ひそかにうらやましく思っていた。しかし,この本を読むと,それが天性の資質だけではないことがよくわかる。

 本の帯に「ミニエンサイクロペディア」と書かれているように,疫学や発症機序,臨床像,そして治療的アプローチが,じつに細かく丁寧に書きこまれている。これだけの学問的知識と臨床経験を積み重ねられたからこそ,臨床感覚が行間からにじみ出る文章が書けるのだと思う。しかも,その知識と経験を多くの人たちと共有し,摂食障害の患者さんの治療に生かそうとされている先生の熱意は,本書で新たに取り上げられたネットワークづくりにもつながる貴重なものだと思う。

 本書の内容はもちろんのこと,本書を通して伝わってくる臨床家としての先生の姿勢は,私たちが日常の臨床をする上で,きっと大きな力になるものと信じている。
時代と共に大きく変遷していく摂食障害治療の羅針盤
書評者: 福居 顯二 (京都府立医大大学院教授・精神機能病態学)
 拒食症や過食症といった食行動の異常を呈する患者の増加が指摘されるようになって久しい。呼称も広く「摂食障害」といわれるようになった。筆者が研修医だった昭和50年代初めには,大学病院でも摂食障害(多くは神経性食思不振症・制限型)の患者さんの入院は1年間にせいぜい2~3例で,主治医として診る機会は少なかったと記憶している。近年では過食の症例の増加も相まって,外来や病棟でもよく見られるようになり,摂食障害は時代と共に大きく変遷していく疾患の一つであるといえる。

 そんな中,『摂食障害』第2版を読む機会を得た。初版から10年経った改訂版である。本書は副題にあるように,「食べない,食べられない,食べたら止まらない」の病態をわかりやすくまとめたものである。著者の序にもあるように,この10年間で画期的な特効薬的治療法が確立されたかといえば残念ながらそうではない。さらに本疾患が,本人の性格,生き方,取り巻く家族,社会,文化とも関係するため,「治療は難しい」(VII章)にも通じるが,治療者のアートの側面もまた大きい位置を占めていると述べている。

 第2版の特徴は,初めて摂食障害を診る医師のためのQ&Aをまとめた「Introduction」が冒頭に追加記載され,専門医にとっては知識の整理に,経験の少ない医師には,その診断・治療,種々のかかわりの中での対応などがわかりやすく記載され,親切で身近に感じられる。それだけ本疾患が増加し,精神科や心療内科以外の多くの診療科を受診する状況を物語っている。さらに,10年間の疫学の変遷や,生物学的病因の新しい知見,それに基づく薬物療法などについて新たに記載されている。これらのデータは,わが国を代表する摂食障害の臨床家として,また日本摂食障害学会の理事長として,長年本疾患に取り組んできた著者の研究グループの数多くの知見が中心であり,各章末に引用され,そこから海外の主要な文献にもたどり着くことができる。そして何よりも治療に関して力点を置いていて実践的である。

 最近,本疾患は単に医師・患者にとどまらず,家族や社会といった多方面の,さらには多職種のネットワークによる支えが必要であることが強調されてきている。この点からも,本書が研修医を含め,広く摂食障害治療にかかわる医師,看護師,臨床心理士,精神保健福祉士などにとっての有用な羅針盤になるものと思われる。
日々工夫を重ねる専門家の臨床経験に学ぶ
書評者: 古川 壽亮 (名古屋市大大学院教授・精神医学)
 大阪市立大学大学院神経精神医学教授,切池信夫氏の名著『摂食障害 食べない,食べられない,食べたら止まらない』の第2版が出版された。2000年に出版された初版のタイトルを見たとき,「なんと上手にエッセンスをサマライズしたサブタイトルなのだろうか」と,その洒脱さに脱帽し,そこに至る背景にあるに違いない臨床経験の厚みにひそかに感嘆した。そしてその数年後,大阪市大を訪問して切池先生と親しく話をさせていただき,「なるほど,この先生にしてこの名著あり」と,膝を打つ思いがしたことを今でも覚えている。その切池氏が,ライフワークとしてさらに研鑽を重ね,氏ご自身の第2版の序の言葉を借りれば「初版を上梓してから,日常診療において日々工夫を重ね実施している治療法を中心に改訂」されたのが,第2版である。

 何を隠そう,私自身は摂食障害と聞くと,「う~~ん,大変そうだな」という考えがまず頭をよぎり,そこはかとなくいすの上で居住まいを正してからでないと患者さんに会えない,普通の全般精神科医であるが,そういう精神科医であるからこそ,本書とそのバックボーンとなっている大阪市大での臨床と臨床研究にさまざまな示唆をいただきながら日々の診療をさせてもらえる。

 まず私が励まされるのは,第VIII章にある,摂食障害の予後研究である。海外のデータでは意外にも摂食障害の予後が悪くないことは知っていたが,大阪市大に通院,あるいは入院するほどの患者ですら,10年後予後が良好とされるものが,神経性食思不振症制限型で82%,過食/排出型で50%,神経性過食症で66%とのことである。大阪市大での治療のおかげであることはもちろんだが,しかし,大阪市大の専門治療に来るほどの重症例でもこのような結果が得られるということに,私は大いに励まされている。

 次に役立ちそうなのは,Introductionとして今回加筆された,「はじめて摂食障害患者を診る医師のQ&A」で,何をもって病的なダイエットといえるか,摂食障害が治るとは,学校などから相談を受けたときには,など,「ああ切池氏をはじめとする大阪市大の専門家たちもこのような質問を受けてきっと考え込みながら臨床経験を積まれたのだろうなあ」と,これまた励まされるのである。

 そしてもちろん一番役立つのは,第V章に詳述されている患者の評価方法,第VII章の治療方法(「治療は難しい」と銘打たれた章を読んで,励まされない臨床家がいようか!),そして付録に収載された患者用パンフレットであろう。本書をもって私の臨床が,そして私の教室の臨床が,そして日本中の臨床がまた前進することを祈っている。

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