医学界新聞

連載

2009.08.03

レジデントのための
Evidence Based Clinical Practice

【8回】敗血症の患者へのアプローチ

谷口俊文
(ワシントン大学感染症フェロー)


前回よりつづく

 感染症は入院する大きな理由のひとつです。その中でも敗血症を起こした場合,患者は非常に重篤な状態に陥ります。ここではいかに早く敗血症の状態を察知し,対応できるかに焦点を当てます。

■Case

 86歳の男性。高血圧,糖尿病(インスリンにて治療),高脂血症,前立腺肥大を治療中。軽度の認知症も認められる。胸痛を訴えて来院。入院したその晩に意識レベルが低下。体温37.6℃,血圧100/70mmHgで,脈拍数は108/分。呼吸数は26/分で酸素飽和度はルーム・エアで94%である。血糖をチェックしたところ42mg/dLと低下していたため,低血糖発作と判断して当直医は50%グルコースの静注を指示。しかしながら改善は見られず,意識レベルの低下が進み,呼吸数が36/分となりそのうち呼吸不全のために酸素飽和度が低下。血圧も70/40mmHgまで低下した。挿管され,輸液,ノルアドレナリンを開始しICUにて管理となる。

Clinical Discussion

 鑑別診断は多岐にわたる。しかしインスリン使用のための単なる低血糖発作とは程遠い。この患者はICU入室時に血液培養と尿培養が採取され,大腸菌(Escherichia coli)が確認された。そのため,Urosepsis(尿路感染症による敗血症)にてショックを呈した状態と考えられた。敗血症のサインを見逃さないことは重要であり,それに伴うワークアップ,治療は早いほうがよい。ここでは敗血症の患者に対するアプローチを見ていく。

マネジメントの基本

 敗血症に対する欧米の治療の考え方に関しては,日本でよく行われているエンドトキシン吸着療法,欧米にてよく研究されている組換えヒト活性化プロテインC(PROWESS Study Group: N Engl J Med. 2001;344(10):699-709. [PMID:11236773])などあるが,このような話は本稿のレベルを超えるので,各自興味がある方は調べてほしい((1))。

 以下,欧米における敗血症ガイドラインである文献(2)から,重要項目を解説する。

A.初期蘇生
 敗血症を疑ったとき,最初の6時間は重要である。EGDT(Early Goal-Directed Therapy)は知っておかなければならない。循環動態の安定化や酸素化の目標を定めた治療法である(表)。これに関してはいまだ賛否両論あるが,明確な目標を定めた循環動態の管理の仕方は理にかなっていると筆者は考えている。静脈血酸素飽和度を見ながらドブタミンを開始するタイミングを計るのはひとつのポイントだろう。

 初期蘇生(6時間以内)の循環動態と酸素化の目標
低血圧もしくは血清乳酸値が>4mmol/Lの場合は直ちに輸液療法を開始し,ICUにて管理する。
蘇生目標
(1)CVP(中心静脈圧)8-12mmHg
(2)MAP(平均動脈圧)≧65mmHg
(3)尿量≧0.5mL/kg/時
(4)中心静脈血酸素飽和度≧70%もしくは混合静脈血酸素飽和度≧65%
もし静脈血酸素飽和度の目標を達成することができなければ,(1)さらなる輸液,(2)ヘマトクリットを≧30%に保つための輸血,(3)ドブタミンを開始(最大20μg/kg/分まで)。

B.診断
 患者が敗血症であると診断することは,治療戦略に大きくかかわるため重要である。ポイントは「抗菌薬投与前に培養を取る」ということに尽きる。血液培養2セット,そのうちのひとつは必ず末梢から採取。また敗血症の原因と思われるソースがあればそこからの培養も必須である。ただし,培養を採取するために抗菌薬の投与をあまりにも遅らせることはできず,その判断が難しい。1時間以内に抗菌薬を開始するのが目標である。感染症のソースを調べるための画像検査も早めに行いたいが,循環動態が不安定でCTなどに移動できない場合はポータブル検査(例えば超音波)などが便利である。感染源がわからない場合の基本ワークアップは「血液培養2セット,尿検査/培養,胸部X線写真」。これらに,患者個々の状況...

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