医学界新聞

連載

2009.09.07

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第6回 〕

敗血症へのアプローチ(1)敗血症の認識と感染臓器の決定,抗菌薬の選択

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 今回から敗血症のマネジメントについて考えます。敗血症の診断・治療には,ガイドライン,Surviving Sepsis Campaign 2008があり,これをどのように診療に生かしていくかを中心に取り上げます。

 敗血症診療のポイントとして,診断の2つの軸に(1)敗血症の認識,(2)敗血症での感染フォーカスの決定,治療の4つの軸として(1)血行動態の安定化をめざした呼吸・循環管理,(2)適切な対症療法(血糖コントロール,ステロイド投与など),(3)抗菌薬投与,(4)感染源コントロール:外科的ドレナージ・デブリドメントがあります。

 今回は,診断と治療における抗菌薬の適切な選択法について考えていきます。


■CASE

現病歴:75歳男性。3日間続く38℃台の発熱,悪寒・戦慄,緑色の喀痰分泌物を伴う湿性咳嗽の後に徐々に意識レベル低下があり,ERに救急搬送された。肺気腫があるも2箱/日(40年間)喫煙しており,アルコール多飲である。
身体所見:体温35.4℃,心拍数120/分,呼吸数24/分,血圧110/62mmHg,SpO2 88%(RA)。全身状態:もうろうとしている,E3V4M6,頭目耳鼻喉:口腔内汚染あり,結膜・咽頭:発赤なし,心臓:I・II音正常,雑音なし,胸部:左上肺野の呼吸音減弱,打診上濁音,ラ音あり,腹部:平坦・軟,圧痛・腫瘤なし,肝脾腫なし,直腸診で圧痛なし,四肢:両下肢浮腫・網状皮疹あり,チアノーゼあり,神経:項部硬直はっきりせず,麻痺,瞳孔左右差なし。
検査データ:Ht30%,白血球3,000/μL(80%好中球,15%桿状球,5%リンパ球),血小板46,000/μL,ヘモグロビン11.5g/dL,BUN/Cre44/1.6,血糖・電解質に異常なし,CRP24,髄液所見:白血球なし;蛋白,糖異常所見なし,胸部X線:左上肺野浸潤影,喀痰グラム染色でグラム陽性双球菌多数とグラム陰性桿菌少数,尿所見:pH7,蛋白・糖(+),赤血球10―15/HPF,白血球10-20/HPF,細菌(+),尿グラム染色でグラム陰性桿菌;心エコー上明らかな疣贅なし;腹部エコー上総胆管拡張・胆嚢腫大なし,腹水ないが,水腎症あり。

敗血症の認識
 最初に敗血症の診断基準の確認をします(表1)。重要なポイントは,SIRS(全身性炎症反応症候群)の項目4つのうち3つがバイタルサインであることです。そのためバイタルサインのチェックおよび採血での白血球数の確認を迅速に行い,目の前の患者がSIRSの状態になっているかどうかを判断します。その上で,SIRSの状態が感染症(疑い)で起こっている場合に敗血症と定義しています。

表1 敗血症の診断基準

SIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome):以下の4つのうち2項目以上
-1.体温>38℃または<36℃
-2.呼吸数>20/分またはPaCO2<32mmHg
-3.心拍数>90/分
-4.白血球数>12,000/μLまたは<4,000/μL,幼若好中球(桿状核球)>10%のいずれか

敗血症(Sepsis)
SIRS2項目該当+感染症あり・疑い

重症敗血症(Severe sepsis)
敗血症+多臓器障害+循環不全(尿量低下,乳酸アシドーシス,意識レベル低下)

敗血症性ショック(Septic shock)
重症敗血症+難治性低血圧〔十分な輸液に反応しない低血圧(収縮期血圧90mmHg未満,平時より40mmHg以上低下)〕

 敗血症と定義した上で,重症度の判断として,敗血症,重症敗血症,敗血症性ショックと分かれます。当然,重症度が高くなるほど死亡率・合併症率が高くなります。

敗血症を起こす感染臓器の探しかた
 感染臓器は,「その臓器に感染症が成立したら,どのような症状,身体所見,検査異常がみられるか?」を考えて,頭から足先まで1つずつ探していくアプローチで必ず見つけられると思います(本紙2776号参照)。そのなかでも,敗血症を起こしやすい臓器があり,特に表2の7つについて意識する必要があります。

表2 敗血症を起こしやすい7つの市中感染症

1.細菌性髄膜炎
頭痛,項部強直,光過敏,記憶障害,痙攣,神経学的所見,筋力低下,知覚低下。検査:頭部CT/MRI,髄液検査など。
2.肺炎
咳,呼吸困難,痰,吸気時の胸痛増悪,聴診でラ音。検査:胸部X線,胸部CT,喀痰グラム染色など。
3.感染性心内膜炎(特に黄色ブドウ球菌による)
胸痛,動悸,呼吸困難,浮腫,心雑音,皮疹(爪下線状出血斑,結膜出血斑など)。検査:胸部X線,心エコーなど。
4.急性腎盂腎炎(急性前立腺炎を含む)
尿意切迫,頻尿,排尿時痛,恥骨上部圧痛,CVA叩打痛。検査:腹部エコー,尿一般・沈渣など。
5.腹腔内感染(特に胆道系感染症,大腸穿孔による汎発性腹膜炎)
腹部圧痛,便秘・下痢,嘔気・嘔吐,腹膜刺激症状(筋性防御,反跳痛),胆道系感染症では黄疸,右季肋部痛など。検査:腹部エコー,腹部造影CTなど。
6.皮膚・軟部組織感染(蜂窩織炎,壊死性筋膜炎)
発赤,疼痛,腫脹。検査:CT,MRIなど(特に壊死性筋膜炎や骨髄炎合併の場合)。
7.カテーテル関連血流感染(留置ポート感染も含む)
刺入部分の発赤,腫脹,熱感,疼痛。まずはラインが入っている患者の発熱で,ほかに原因が見つからない場合には常にライン感染の可能性を考える。検査:血液培養(中心ラインから1セット,末梢から1セット)。

 感染臓器を決定する一方で,ガイドラインでは一刻も早い抗菌薬の投与(1時間以内)を推奨しており,さらにその抗菌薬が想定される感染臓器を外さないことが重視されています。

抗菌薬選択の考えかた
 感染臓器が決定されれば,原因となる微生物が想定されるため,それらをもれなくカバーするように抗菌薬を選択します(表3)。敗血症での抗菌薬選択は,あくまで“外さない”ことが重要です。そのため広域の抗菌薬でスタートし,48-72時間後に得られる細菌検査結果から,可能な限り狭域抗菌薬にスイッチするようにします。また,微生物学的に抗菌薬選択を考えるプロセスは,次の3つからなります。

表3 市中感染症による敗血症:感染臓器・起因微生物・選択すべき抗菌薬
感染臓器 想定される起因微生物 推奨される抗菌薬
感染源不明敗血症 グラム陰性菌(特に腸内細菌科),グラム陽性菌(連鎖球菌,黄色ブドウ球菌) 3,4世代セフェム/イミペネム/メロペネム/ピペラシリン・タゾバクタム
呼吸器:
肺炎
肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,レジオネラ,肺炎クラミジア,マイコプラズマ (セフォタキシム/セフトリアキソン)+シプロフロキサシン
血管内:感染性心内膜炎 黄色ブドウ球菌,ビリダンス連鎖球菌,腸球菌 (バンコマイシン/セファゾリン/セフトリアキソン)+ゲンタマイシン
腹腔内:
腹膜炎
大腸菌
バクテロイデス・フラジーリス
(イミペネム/メロペネム/ピペラシリン・タゾバクタム)±アミノ配糖体
皮膚・軟部組織:特に壊死性筋膜炎 A群溶連菌
黄色ブドウ球菌(市中感染型MRSA含む)
多菌種(糖尿病性足病変や褥瘡の場合)
バンコマイシン+(イミペネム/メロペネム/ピペラシリン・タゾバクタム)
尿路:
腎盂腎炎
大腸菌,クレブシエラ,プロテウス,エンテロバクター,腸球菌 シプロフロキサシン/(アンピシリン+ゲンタマイシン)/セフトリアキソン
中枢神経:髄膜炎 肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ桿菌,リステリア バンコマイシン+(セフトリアキソン/セフェピム)
カテーテル関連血流感染 ブドウ球菌(MRSA,MRSE含む),緑膿菌,エンテロバクター,セラチア,カンジダ バンコマイシン±(セフェピム/セフタジジム)±(ミカファンギン/フルコナゾール)

(1)グラム陰性菌カバーをどこまでするか?:市中感染症で問題となる一般腸内細菌科では第2-3世代セフェムを選択しますが,緑膿菌といったブドウ糖非発酵菌などの病院内感染症までカバーするなら第4世代セフェムかカルバペネム,モノバクタムに適宜アミノ配糖体を併用します。重症肺炎でレジオネラも考慮する場合,キノロンを選択します。

(2)嫌気性菌カバーが必要か?:複数菌感染症(腹腔内感染症,糖尿病性足病変など)では嫌気性菌を考慮し,βラクタム・βラクタマーゼ阻害薬合剤かカルバペネムを選択します。

(3)耐性グラム陽性菌(特にMRSA)カバーを考えるか?:市中感染型MRSA感染症(インフルエンザ後重症肺炎,壊死性筋膜炎など),カテーテル関連血流感染症などが感染フォーカスとして鑑別に入る場合,バンコマイシンかリネゾリド併用となります。

ケースをふりかえって
 今回のケースでは,バイタルサインの「体温35.4℃,心拍数120/分,呼吸数24/分」だけでSIRSを満たし,感染症が疑われるため,この時点で敗血症の診断となります。

 感染臓器としては,(1)肺炎(聴診で水泡音,肺野浸潤影),(2)尿路感染症(尿中白血球・細菌陽性)が疑われます。また髄膜炎は髄液所見より,腹腔内感染は腹部エコー所見より,皮膚軟部組織は診察上否定的です。そのため,これら2つの感染臓器を想定しそれぞれの起因菌をもれなくカバーするように抗菌薬を選択する必要があります。

肺炎:グラム陽性菌;肺炎球菌,グラム陰性菌;インフルエンザ桿菌,クレブシエラ嫌気性菌;口腔内嫌気性連鎖球菌,その他;レジオネラ
尿路感染症:グラム陰性菌;大腸菌,クレブシエラなど腸内細菌科

 上記をカバーするよう処方例には,“セフトリアキソン2g/日+シプロフロキサシン300mg×2/日”があります。これにFever work-up3点セット((1)血液培養2セット,(2)胸部X線,(3)尿一般・培養)および喀痰グラム染色・培養(抗酸菌培養含む)を行い,治療開始となります。

Take Home Message

●敗血症の診断にバイタルサインが重要であることを理解し,早期診断・治療を行う。そのためには抗菌薬投与前に,最低限Fever work-up3点セットをルーチンに行う。
●抗菌薬の選択では,感染臓器の特定→考えられる起因微生物のリストアップ→抗菌薬の選択,の流れを大切にする。

つづく

参考文献
Dellinger RP et al. Surviving Sepsis Campaign: International guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2008. Crit Care Med. 2008; 36(1):296-327.

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