医学界新聞

連載

2009.07.20

腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第10回 〕
地域緩和ケア支援ネットワーク(1)地域緩和ケア支援ネットワークとは

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

“地域緩和ケアチーム”は地域社会の財産

 地域緩和ケア支援ネットワークとは,地域内の医療および介護にかかわる職種と地域住民が協働し,人生の終わりを迎える人とその家族の生活を支え,そして看取りを支える地域社会のシステムです。このシステムは,医療支援システムと生活支援システムの2層構造となっており,医療支援システムでは医師,看護師,薬剤師,栄養士,理学療法士/作業療法士などの職種が,病院,診療所,保険薬局,介護支援事業所などの機関から,生活支援システムではケアマネジャー,ホームヘルパー,介護や福祉の行政担当者などが市や町の行政機関,介護支援事業所,福祉事務所,民間業者などから,また,地域住民も“隣家のおばさん”あるいはホスピスボランティアとして参加します。

 参加する人は“地域緩和ケアチーム”の一員となりますが,病院の緩和ケアチームと異なる点は,参加する人の顔ぶれがいつも同じではないこと,生活支援のための職種が加わること,そして大切な人が亡くなった後も家族のグリーフケアが地域内で継続して行われることです。地域内の大勢の人々がかかわりますが,会議や講習会などで顔を合わせると,その瞬間に気持ちが共鳴し大きな一つのチームとなります。このチームに参加した人は,それぞれの思いで,先に逝く人とその家族を支え,生き方を学びますが,この学びは地域に広がり,地域社会の共有財産となります。

 十和田では,2007年10月にシステム構築を始めました。私が勤務医とかかりつけ医の役を兼ね,訪問看護ステーション,保険薬局,介護支援事業所など病院外の職種とあえて連携をとり,在宅ホスピスケアを開始しました。最初は誰もが戸惑っていましたが,事例を重ねるごとに自信を深め,今では,訪問看護師,保険薬局,ケアマネジャーなどが積極的に活動してくれています。

死は地域社会がかかわるべき問題である

 このような地域緩和ケア支援ネットワーク構想は,実は1993年ごろから少しずつ思い描いてきた構想でした。

 病院で死ぬことを当然と考えていた“青年医師”が,看取りを伴う在宅医療を経験することで,死は医療の問題ではなく地域社会がかかわるべき問題であると考えるようになりました。そして,この話をいわき保健所の所長さんと課長さんにしたところ,1994年6月に「いわきターミナルケア連絡協議会」を設立してくれました。この協議会には,市の医療福祉課,保健所,病院協議会,医師会,社会福祉協議会などが参加し,保健所(県管轄)が調整役となって,終末期を在宅で過ごす患者と家族の迅速な支援を行うためのプログラムを作成しました。

 プログラムの内容は電動ベッドなどの介護機器を迅速に準備すること,保健師が訪問し主に家族のケアを行うこと,介護機器が利用できない若年者に対して市内のボランティアグループの協力を得て,無償で介護機器を提供してもらうことなどでした。社会福祉協議会の方や保健師が自宅に戻る前に病院を訪問し,事前の顔合わせと打ち合わせを行う場面もありました。今でいうケアカンファレンスに当たります。このプログラムでは,生活支援チームが在宅ホスピスケアにおいて重要な役割を果たすこと,顔の見える関係性づくりが大切なことなどを学びました。

 いわき市でのプログラムは赴任8年目の取り組みですが,十和田市のプログラムは赴任2年目の取り組みです。その違いは介護保険制度があること,私以外にこれまで経験したことのない人が多いことです。多少混乱もありましたが,予想以上にネットワークづくりが早く進んでいます。次回はその詳細について報告します。

つづく