医学界新聞

連載

2009.06.22

腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第9回 〕
在宅ホスピスケア(3)

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

 厚生労働省が昨年(2008年)行った「終末期医療に関する調査」では,治る見込みがなく死期が迫っていると告げられた場合の療養の場所として,一般国民の63%が「自宅」を希望するとの回答がありました。しかし,病状が悪化した場合には29%が緩和ケア病棟に,23%がそれまでかかっていた病院への入院を望み,最後まで自宅で療養したいと思っている人は11%でした。また,自宅で最期まで療養可能と思っている人は6%にすぎず,66%が困難であると感じているようでした。「実現困難である」との回答の理由は,「介護してくれる家族に負担がかかる」79.5%,「症状が急変した時の対応に自分も家族も不安である」54.1%,「経済的に負担が多い」33.1%,「往診してくれる医師がいない」31.7%,「症状急変時すぐに入院できるか心配である」31.6%,「居住環境が整っていない」16.4%などでした。

患者の多くは「放り出されて」途方にくれる

 この調査結果を私なりに分析すると,国民の半数以上は「終の住処は自宅で」と希望しているものの,現状ではその希望はかなわないとあきらめているものと思われます。現実に,がん患者の約9割は病院の病室で亡くなっており,このような状況が四半世紀続いていますので,がんを持って自宅で最後まで過ごす場面を見たことのある国民は非常に少ないのが現状です。訪問診療もまだなじみが薄く,がんに伴う苦痛に対する症状緩和も残念ながら効果的に行われていませんので当然かもしれません。

 しかし現在,在宅医療の体制が急いで整備され,症状緩和治療に関する教育も積極的に行われていますので,希望がかなえられる可能性が少しずつ高まってきています。また,病院は急性期医療に特化しており,長期間の入院が予測される終末期がん患者の入院は,敬遠される傾向が非常に強くなってきました。近い将来,入院するベッドを確保することが困難となることは明らかです。すでに,「もう病院で治療できることはありませんので,近くの診療所の先生に診てもらってください」と在宅側に「放り出される」事態も増えているようです。そして,この事態に直面した患者や家族は,希望がかなえられたと喜ぶのではなく,病院に見捨てられたと感じ,「介護してくれる家族への負担」「症状が急変した時の対応への不安」「経済的な負担」を胸に抱いて途方にくれるのが現状です。

介護支援体制の強化と不安解消のための援助を

 私はこれまで多くのがん患者を病院そして自宅で看取ってきましたが,これまでの終末期緩和ケアで最終的に問題となるのが,患者や家族を取り巻く社会的な問題および経済的な問題です。通常,身体的苦痛は1週間程度で解決できます。その時点で医療的支援体制は確立し,いつでも自宅に戻れる状況になりますが,同時に家族の絆の深さや介護力の問題,そしてお金の問題が表面化します。当院の緩和ケアチームの専従看護師の業務の多くは,この非医療的な問題の解決に向けた業務となっており,いつも頭を悩ませています。

 したがって,病院から「放り出された」と感じている患者や家族が,そのことを少なくとも「不幸なことではない」と感じてもらうためには,介護支援体制の強化と“急変時”すなわち“看取り”に対する不安の解消をはかる必要があり,この課題の解決が今後の在宅ホスピスケアが普及するかどうかの重要な鍵となります。

 このために現在取り組んでいるのが,介護サービス事業所との連携です。ケアカンファレンスによる顔の見える関係性づくり,実践による教育,研修会による終末期緩和ケアに関する教育などあらゆる方法を使って連携を働き掛けています。そして,十和田地区において最終的にめざす連携システムを「十和田・上北地域緩和ケア支援ネットワーク」と呼び,昨年協議会を立ち上げました。次回はこのネットワークについて報告します。

つづく

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