医学界新聞

連載

2009.05.11

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第2回 〕

内服抗菌薬を使いこなす!
――5つの内服抗菌薬

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 今回は,2796号「第6回:ERでの内服抗菌薬の“うまい!”使いかた」を一歩進め,さらに充実した内服抗菌薬治療ができるよう“5つの内服抗菌薬”について説明します。前回の4剤と今回の5剤の9剤を使いこなせるようになれば,外来・入院を問わず内服抗菌薬による感染症治療の大部分をカバーできるようになります!


■CASE

ケース(1) 発熱,咽頭痛でER受診した30歳の男性。ADL自立。1日前から発熱,咽頭痛の訴えあり,改善ないためER受診。鼻水なし,頭痛なし,咳・痰なし。身体所見:体温39℃,心拍数100,呼吸数12,血圧130/70。全身状態:落ち着いている,頭頸部:咽頭・右扁桃の腫脹,左頸部のリンパ節腫脹,心臓:正常,胸部:呼吸音清,ラ音なし,腹部:平坦・軟,肝脾腫なし,四肢:冷汗なし。皮疹なし。検査データ:咽頭迅速溶連キット陽性。 →患者さんは,以前にアモキシシリンを内服し全身にじんましんがでたという。あなたの処方は?
ケース(2) 糖尿病性足病変の悪化でER受診した55歳男性。ADL自立。2週間前より右足背から第2足趾にかけて発赤,腫脹,熱感ありER受診。身体所見:体温37.5℃,心拍数70,呼吸数10,血圧150/76。全身状態:落ち着いている,頭頸部:OK,心臓:正常,胸部:呼吸音清,ラ音なし,腹部:平坦・軟,肝脾腫なし,四肢:右第2足趾から足背にかけて4×4cm大の紅丘疹および足趾一部壊死,骨露出あり。糖尿病性足病変にて入院加療となり,アンピシリン・スルバクタム点滴された。創部浸出液から感受性のよい大腸菌,骨生検でMSSAが分離された。 →患者さんは解熱し,創部発赤・腫脹改善したため退院希望あり。また,足趾切断・デブリドメントは今回希望しなかった。あなたの処方は?
ケース(3) 10日間発熱,咳,痰が持続しER受診した65歳男性。ADLは自立しているがアルコール大酒家。身体所見:体温39℃,心拍数120,呼吸数16,血圧160/70,SpO2 94%(RA)。全身状態:ややきつそう,頭頸部:口腔内う歯多数,心臓:正常,胸部:右上肺野でラ音,腹部:平坦・軟,肝腫大あり,四肢:冷汗・皮疹なし。検査データ:喀痰採取するもグラム染色はっきりせず。 →肺炎の診断で入院加療を勧めるも,どうしても入院できないという。通院でやむなく治療することになった場合,あなたの処方は?
ケース(4) 腎盂腎炎治療中に再度発熱,下痢を起こした40歳女性。発熱,腰痛,排尿時痛で受診し,急性腎盂腎炎で入院。セフトリアキソン点滴で治療開始され,感受性のよい大腸菌が培養で陽性となり,アモキシシリン内服にて退院設定中に,再度発熱,下痢が出現。38.5℃の発熱以外はバイタルサイン安定。便CD抗原陽性。 →あなたの処方は?
ケース(5) 大腸癌術後創部リークによる腹膜炎再手術後の56歳男性。再開腹術およびICUでの全身管理にて改善。カルバペネム系抗菌薬を使用していた。腹水・腹腔内膿瘍培養で感受性のよい大腸菌とクレブシエラが分離された。10日間経静脈的に投与していたが,食事再開となり抗菌薬も内服へとスイッチしようと上級医が提案した。 →あなたの処方は?

内服抗菌薬を有効に使うためのヒント
 抗菌薬選択の際には,(1)量より質(「必要最小限の抗菌薬を」,「十分な理解を持って」,「自信を持って処方できることが大切!」),(2)新しさより実績(新たに発売された抗菌薬よりも以前からの十分な使用経験に耐えてきた抗菌薬をまずは選ぶ),(3)想定する感染臓器に届くか,(4)(効果が同じならば)可能な限り安い,(5)患者,医師・ナースへの優しさのある(=副作用・薬物相互作用・投与回数が少ない)抗菌薬を選ぶ,ことがポイントとなります。

 内服抗菌薬ならではのさらに重要な点には,(1)投与回数(回数が少ないもの),(2)Bioavailability(静注抗菌活性との比較),(3)他の内服薬との相互作用,(4)食事の影響(腸管からの吸収),(5)さらなる患者への優しさ(外来フォローのため,予測可能かつ限りなく副作用の少ない抗菌薬),があります。また,Bioavailabilityが良好な経口抗菌薬に表1のようなものがありました。

表1 Bioavailabilityが良好な経口抗菌薬
経口抗菌薬 Bioavailability(%)
アモキシシリン 90
セファドロキシル 99
シプロフロキサシン,レポフロキサシン,モキシフロキサシン 70-99
ドキシサイクリン,ミノサイクリン 93-95
メトロニダゾール 100
ST合剤 98
クリンダマイシン 90
リファンピシン 95

一歩先行くレジデントとそれを越える指導医のための内服抗菌薬
 ぜひ使いこなしてほしい内服抗菌薬は,次の4系統5種類です(表2参照)。

リンコマイシン系 -クリンダマイシン
テトラサイクリン系 -ドキシサイクリン
              -ミノサイクリン
葉酸代謝拮抗薬 -スルファメトキサゾールトリメトプリム(ST合剤)
ニトロイミダゾール系 -メトロニダゾール

表2 5つの内服抗菌薬
  クリンダマイシン(ダラシンカプセル(R)) ドキシサイクリン(ビブラマイシン(R)) ミノサイクリン(ミノマイシン(R)) スルファメトキサゾールトリメトプリム(バクタ(R)) メトロニダゾール(フラジール(R))
規格 150mg/1Cap 100mg/1T 100mg/1Cap 80mg/400mg/1T 250mg/1T
薬価 25.8円 24.4円 60.4円 90.1円 35.6円
Bioavailability 90% 93% 95% 98% 100%
効かせるための標準量 150-450mg×3-4 200mg×2を3日間,その後100mg×2 100mg×2 2T×2(ニューモシスチス肺炎,ノカルジア:3-4T×3) 250mg×4,500mg×3
有効菌種 グラム陽性菌(連鎖球菌,ブドウ球菌)
嫌気性菌(口腔内,バクテロイデス)
グラム陽性菌(肺炎球菌,黄色ブドウ球菌,※A群溶連菌は無効)
グラム陰性菌(インフルエンザ桿菌,モラキセラ,炭疽,Q熱)

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