医学界新聞

2008.12.08

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


二関節筋
運動制御とリハビリテーション

奈良 勲 監修
熊本 水賴 編
内山 靖,畠 直輝 編集協力

《評 者》髙橋 正明(群馬パース大教授・理学療法学)

二関節筋の存在理由を問い続けた闘いの記録

 二関節筋を研究テーマにされている熊本先生のことはかなり前から聞いていた。本書の拮抗二関節筋と拮抗一関節筋の3対6筋からなる二関節リンクモデル(以下,拮抗二関節筋モデル)についてはある研究会に参加して知った。このモデルの最大出力分布が六角形になることを筋電図学的に検証した発表を聞いたが,何を伝えようとしているかがよくわからず,共同研究者の先生にお願いしてそれまでの論文をいくつか送っていただいた。それでも,研究背景にある思想や概念,どのような過程でそこまで至り,どちらの方向に進もうとしているのかといった全体像までは思いが至らず,消化不良の感じを残していた。この度,今までの研究成果が一冊の本にまとめられたのを知り,早速全体を眺めた。本書は,二関節筋とは何ぞやとその根源的存在理由を問い続けた,ある種闘いの記録であり,そこから生まれた拮抗二関節筋モデルは,実効筋(動作時の活動筋)の出力量や出力方向を推定できる可能性を強く示唆する夢のような記録でもあることを知った。まだまだ疑問はつきないが,かなりの部分はすっきりと消化できた気がしている。

 本書は質・量ともに内容が濃すぎて一気に読み進めるのは困難であろう。まずそのことを知った上で段階的に項目を区切りながら,理解できない疑問と納得できない疑問を整理しつつ,一歩ずつ読み進めることが肝要である。そして,拮抗二関節筋モデルの最大出力分布が六角形になり,その六つの頂点の方向と活動する筋との関係を理論的に理解することだけはぜひとも理解してほしい。それが本書の最も基本となる仮説だからである。しかし,たとえその理論がわからなくても六角形の作られる方向さえ覚えれば読み進めることは可能である。

 本書を読み始めて最初に感じる疑問は,どうして二関節筋の特徴を知るのに拮抗二関節筋モデルが必要なのか,二関節筋の特徴は二関節筋の中にないのかというものであろう。第2章の「進化史が語る必然性」を読んでも同じ疑問が残る。なぜなら二関節筋の出現と進化が拮抗二関節筋のシステムが作られることを前提として説明されているからである。このことを簡単に説明すると,地上の四足・二足歩行の動物にはどれにも立派な拮抗二関節筋が備わっている。それぞれの進化の果ての事実である以上,そこには二関節筋の絶対的な存在理由があるはずである。これらの動物はまっすぐ足を伸ばして立ち,まっすぐ縮めて体に近づける。また手はまっすぐ伸ばして物を取り,まっすぐ縮めて引き寄せる。上肢も下肢も折りたたみ式に伸ばし縮める動作が自然である。しかし残念ながら,二関節筋の中に単独でこの動きを起こせるものはない。どう考えても二関節筋単独では絶対的な存在理由が見つからないのである。そこで,もしかしたら二関節筋はもっと大きなシステムの一部ではないかと考えても不思議ではない。そして...

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