二関節筋
運動制御とリハビリテーション

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理学療法学の基礎をなしている生体力学。本書では「二関節筋」を組み込んだ人体本来の力学体系をもとに、身体運動の出力特性、制御機能特性の理論構築、さらには臨床応用への道を探っていく。従来の「関節トルク」による生体力学のとらえかたに一石を投じる1冊。
監修 奈良 勲
編集 熊本 水賴
編集協力 内山 靖 / 畠 直輝
発行 2008年05月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-00592-0
定価 4,620円 (本体4,200円+税)
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監修者の序

 二関節筋は現世の生物の進化の過程で誕生し,高度な運動制御に関与していることから,その存在は古くから知られており,解剖学や運動学で教授される身体構造と運動における基本事項の一つといってもよいであろう.臨床的には,大腿四頭筋短縮症による尻上がり現象などから,二関節筋が身体運動に及ぼす影響と近接関節の位置を考慮した関節可動域運動,筋力増強運動,日常生活活動における動作分析と指導などの重要性が認識されている.
 それでは,二関節筋はなぜ存在し,その機能の特性とはいかなるものであろうか.たとえばヒトの腓腹筋は,通常は足関節の底屈筋であるが,足関節が固定された状態では膝関節の屈筋として作用する.また,足底が安定した座位で腓腹筋と協調して大腿四頭筋が収縮すると,股関節を伸展しながら体幹を前上方に動かすような力が働く.さらに,ハムストリングスが拮抗二関節筋として収縮することで,立ち上がり動作に必要な力と方向とを効率的に制御している.このように考えると,二関節筋は身体運動としての制御と運動学習に大きな役割を演じていると想定される.
 これらの事象から,二関節筋の存在意義を明らかにするためには,身体運動を詳細に分析するとともに,進化の過程やモデルシミュレーションを含んだ多角的な仮説証明の積み重ねが必要である.
 本書『二関節筋―運動制御とリハビリテーション』は,長年,二関節筋の機能について研究を続けてこられた熊本水頼氏を編集者として,工学,理学療法学,身体運動生理学の視点から二関節筋の力学体系をまとめたものである.
 現代医療は最新の理論と技術科学に基づいて,疾病の診断と治療には最先端の工学技術が駆使されている.リハビリテーション領域においては,さまざまな身体運動・動作を基軸として分析と介入を進めることから,それらの現象を客観的にとらえるのみならず,生体機構の本質を理解したうえで介入することが重要となる.また「二関節筋力学体系」を通して,多くの基礎理論と臨床との結びつき,さらに,その過程におけるモデル化,シミュレーションによる検証,ロボットや身体機能の診断・評価をはじめ,治療機器の実在化による一連の要素を精緻化するための具現例ともいえる.
 本書では,今後,多職種によるチーム医療と学際領域の発展を意図し,各領域の専門用語について相互の理解が得られるように配慮した.よって,セラピストに限らず,多くの関係者が二関節筋の存在意義に関心をもたれ,リハビリテーション領域のさらなる発展と人類の健康寿命の延伸に寄与されることを願ってやまない.
 2008年4月
 奈良 勲

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監修者の序
緒言

序章 二関節筋力学体系―リハビリテーション領域への導入
 1 二関節筋は邪魔な存在か
 2 理学療法からみた運動・関節制御
 3 リハビリテーション領域と工学との融合

第1章 総論
 1 二関節筋研究の歴史
 2 実効筋概念導入に基づく四肢筋骨格系リンクモデル構築
 3 人体四肢出力特性と制御機能特性
 4 考察
 
第2章 進化史が語る必然性
 1 二関節筋の誕生と運動制御の進化
 2 進化史が示唆する人体筋配列の特徴

第3章 計測・評価の実際
 1 実効筋力の解析・評価法
 2 実効筋力計測結果

第4章 動作解析法
 1 実効筋表示(FEMS)による動作解析
 2 筋電図動作学的解析
 3 実効筋駆動ヒューマンシミュレーション

第5章 臨床応用
 1 理学療法実践
 2 トレーニング応用
 3 バイオフィードバック法
 4 ヒューマンフレンドリーデザイン

用語解説
あとがき
索引

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二関節筋の存在理由を問い続けた闘いの記録
書評者: 高橋 正明 (群馬パース大学教授・理学療法学)
 二関節筋を研究テーマにされている熊本先生のことはかなり前から聞いていた。本書の拮抗二関節筋と拮抗一関節筋の3対6筋からなる二関節リンクモデル(以下,拮抗二関節筋モデル)についてはある研究会に参加して知った。このモデルの最大出力分布が六角形になることを筋電図学的に検証した発表を聞いたが,何を伝えようとしているかがよくわからず,共同研究者の先生にお願いしてそれまでの論文をいくつか送っていただいた。それでも,研究背景にある思想や概念,どのような過程でそこまで至り,どちらの方向に進もうとしているのかといった全体像までは思いが至らず,消化不良の感じを残していた。この度,今までの研究成果が一冊の本にまとめられたのを知り,早速全体を眺めた。本書は,二関節筋とは何ぞやとその根源的存在理由を問い続けた,ある種闘いの記録であり,そこから生まれた拮抗二関節筋モデルは,実効筋(動作時の活動筋)の出力量や出力方向を推定できる可能性を強く示唆する夢のような記録でもあることを知った。まだまだ疑問はつきないが,かなりの部分はすっきりと消化できた気がしている。

 本書は質・量ともに内容が濃すぎて一気に読み進めるのは困難であろう。まずそのことを知ったうえで段階的に項目を区切りながら,理解できない疑問と納得できない疑問を整理しつつ,一歩ずつ読み進めることが肝要である。そして,拮抗二関節筋モデルの最大出力分布が六角形になり,その六つの頂点の方向と活動する筋との関係を理論的に理解することだけはぜひとも理解してほしい。それが本書の最も基本となる仮説だからである。しかし,たとえその理論がわからなくても六角形の作られる方向さえ覚えれば読み進めることは可能である。

 本書を読み始めて最初に感じる疑問は,どうして二関節筋の特徴を知るのに拮抗二関節筋モデルが必要なのか,二関節筋の特徴は二関節筋の中にないのかというものであろう。第2章の「進化史が語る必然性」を読んでも同じ疑問が残る。なぜなら二関節筋の出現と進化が拮抗二関節筋のシステムが作られることを前提として説明されているからである。このことを簡単に説明すると,地上の四足・二足歩行の動物にはどれにも立派な拮抗二関節筋が備わっている。それぞれの進化の果ての事実である以上,そこには二関節筋の絶対的な存在理由があるはずである。これらの動物はまっすぐ足を伸ばして立ち,まっすぐ縮めて体に近づける。また手はまっすぐ伸ばして物を取り,まっすぐ縮めて引き寄せる。上肢も下肢も折りたたみ式に伸ばし縮める動作が自然である。しかし残念ながら,二関節筋の中に単独でこの動きを起こせるものはない。どう考えても二関節筋単独では絶対的な存在理由が見つからないのである。そこで,もしかしたら二関節筋はもっと大きなシステムの一部ではないかと考えても不思議ではない。そして探ったら,出力のみならず力の方向性まで制御する拮抗二関節筋モデルが見つかったというわけである。本書はそこから出発しているため,読者もそのレベルまで意識を高めないとギャップは埋まらないであろう。これは一種の創発現象であり,発想の転換が求められているのである。

 本書は真に示唆に富んだ本である。二関節筋の存在理由や拮抗二関節筋モデルの可能性だけではない。自然のありよう,筋の中枢制御と末梢制御の問題,還元論から全体論へ,そして研究テーマを追求するとはいかなることか等々,幅広い分野に渡り示唆を与えてくれる。とにかく考え,他人と議論しながら時間をかけて読み進めるとそれに十二分に応えてくれる,おもしろくためになる一冊である。
運動器治療に携わる医師のために
書評者: 丹羽 滋郎 (愛知医大名誉教授・整形外科学)
 地球上で生活している,われわれ人類をはじめとして哺乳類,鳥類,爬虫類,さらには両生類は,常に地球の引力の影響を受けて,言い換えれば重力に逆らって日々活動している。

 われわれは,椅子からの立ち上がり,歩行,走りなどの活動において,身体の各関節には体重の数倍の力が加わっているが,それを全く感じることなく生活できている。これは各関節を支えている骨格筋の作用,機能によるものであり,これらの筋は,各関節を挟んで人間が何気なく行っている行動を支えている。

 一つの筋の起始・停止の間に一つの関節を挟むとき,それを一関節筋と呼び,一つの筋の起始・停止の間に二つ,また多数の関節を挟むとき,それを二関節筋,多関節筋と呼んでいる。またそれらの筋に対して常に拮抗する筋が存在している。人間が日々の生活のなかで,例えば立ち上がる,歩く,走る動作が極めてスムーズにできるのは,この二・多関節筋の存在が重要な役割を果たしているためである。躯幹から大腿,大腿から下腿,下腿から足へと,股,膝,足関節を挟む二・多関節筋の働きによって,ダイナミックかつ効率的な,そして末梢は腱を中心に重量は軽く,躯幹へ来るほど強力な活動の力源としての大きな筋群が存在し,各々の拮抗筋とともに働いている。少なくとも地上の動物はこの「二・多関節筋」無しでは活動できない。また人間の活動に際し,その力の経済性,運動の正確性においてはこの二関節性が極めて重要な役割を果たしている。

 従来関節に加わる力は,関節を動かす回転モーメントとして計測され,一関節の屈曲,伸展運動として研究が行われてきた。しかしながら実際,地上で人間の動きを観察するとき,身体の各関節をダイナミックに動かすためには,二・多関節にまたがる筋の機能が互いに連携して活動し,さらに主動作筋に対する拮抗筋が常に関与していることも考慮することが重要である。

 本書の編者である熊本水賴氏は,生体工学の立場から既に30年を超えて二関節筋と拮抗筋の関わりについての研究に携わってこられ,人体本来の二関節筋の力学体系を明らかにされている。本書では,実際臨床の場での身体運動における二関節筋の重要性について,具体的に章を追って述べている。

 序章として二関節筋力学体系のリハビリテーションへの導入とその必要性を,総論として二関節筋研究の歴史,四肢筋の骨格リンクモデル,出力特性とその制御機能特性,動物の進化における二関節筋の誕生の必然性,二関節筋の実効筋力の計測,評価の理論,臨床の場における動作解析における二関節筋の実効筋力,解析法を,臨床応用として理学療法における実際,筋力トレーニングへの応用,二関節筋筋力強化に際してバイオフィードバック法の適応,さらには二関節筋活動からの日常生活動作の補助器具への応用など,これまで学んできた生体力学とは異なる視点でリハビリテーション医療を見直し,また新しい考えをもつロボットの出現にも期待されている。運動器の治療に携わる者にとって本書は示唆に富む,また学ぶことが多い書物と感じる。

 最後に二関節筋の関わる出力特性,制御特性を理解するための用語の解説が巻末にまとめられており,読者にとっては参考となることを書き添えておきたい。

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