医学界新聞

2008.09.29

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


内科医のためのうつ病診療 第2版

野村 総一郎 著

《評 者》松村 真司(松村医院院長)

一般医の目線で記載されたうつ病の解説書

 当院には,時に医学生や研修医が診療所実習に訪れる。実習が終わった後には必ず,彼らが実習中に受けた印象を聞くことにしている。患者との距離の近さを挙げる学生がもちろん多いが,それとともに「診療所には精神面の問題を持つ人がこんなに多いと思わなかった」との印象を述べる実習生が多い。不安障害,認知症などとともに,身体的愁訴が前景に立ったうつ病患者は本当に数多い。最近ではうつ病に関する啓発も増え,患者自らが「自分はうつ病ではないか」と考えて訪れる患者も多くなってきている。

 著者自身も記しているが,認知症,高血圧,糖尿病などと並び,うつ病は疾患の罹患率とその症状の多彩さ,そのアウトカムの重大さから考えると,専門家のみですべてに対応することは現実的ではない。著者によると,内科医のうつ病診療のレベルが期待された水準にないことが,本書のような啓発書を書くきっかけだったとのことである。確かに,これほどありふれた疾患であるにもかかわらず,卒前・卒後における研修機会は十分とは言えない。精神科医に相談をすることも,地域に出てしまうとなかなか容易ではない。また,地域によっては精神科医の診察のアクセスが悪い場合もあり,その場合には好むと好まざるとにかかわらず,非精神科医が治療の相当の部分まで担当せざるを得ない場合もある。できれば専門医に診療してもらいたいと思いながらも,薄氷を踏む思いで診療をしている非専門医はかなりの数に上るのではないだろうか。

 本書は,わが国のこの分野の第一人者である野村総一郎先生によって書かれた啓発書が改訂されたものである。第一版は内科医がうつ病の知識を得るためのテキストとして好評を博してきた。内科医のための,とうたってあるが,内容は内科医に限らずすべての臨床医や,一部のコメディカルや患者家族にも有用である。第一版の改訂とはいっても,近年の診断,治療方法の変化(特にSSRI/SNRIの扱い)を踏まえて大幅に書き改められている。前書きにあるように,「うつ病の概念を理解する」というポリシーが本書のすべての記載にわたって貫かれ,必要十分な内容が頭にすっと入ってくる大変実用的なものである。特に野村先生ご自身の経験が診断時の注意,初期対応のポイント,薬の「使い勝手」,典型例などにふんだんにちりばめられており,今日からの診療にすぐにでも役に立つ内容になっている。

 わが国のうつ病診療の質を高めるためには,一般医,コメディカル,患者・患者家族,社会との協働作業がどうしても必要である。そのためにも一般医と専門医との交流がより緊密なものになることが望ましい。本書のように一般医の目線で記載された解説書が,他の専門疾患においても数多く世に出されることを一般医の一人として望む次第である。

A5・頁152 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00639-2


図解 骨折治療の進め方 第3版

小野 啓郎 監訳
山本 利美雄,宮内 晃 訳

《評 者》菅本 一臣(阪大大学院教授・運動器バイオマテリアル学)

整形外科で最頻疾患の「骨折」治療のバイブル

 超高齢化社会の到来とともに整形外科医に求められるニーズは年々高くなっている。またそれに伴い診断法および治療法も著しい進歩を遂げてきた。関連分科学会は増加する一方で,人工関節,関節鏡治療など学会場の展示ブースを見るだけでもいかに盛況かが分かろう。

 それに比べて骨折の治療には必ずしもまぶしい脚光が浴びせられてきたとは言い難い。整形外科医が骨折を重視しなくなってきたのはいつごろからであろうか? 骨折は既に学問的には新鮮味に欠けるからなのであろうか。

 しかし昨年度の大腿骨頚部骨折は12万例を超え,さらに骨折すべての総数になると,正確な数字はないもののおそらく数百万例が毎年発生していると思われる。骨折は依然として整形外科疾患の中で最も頻度の高い疾患といえよう。このような疾患をおろそかにすることは,漁師が釣りを止めるようなものである。

 整形外科医にとって今一度骨折を基本に戻って学習することは,プロ野球選手が春先にキャンプを張るようにそのシーズンに活躍する上で必要なことと思われる。一方,これから専門医を目指す者にとっては,まさに漁師の卵が釣りのやり方を覚えるのと同じで論をまたない。しかし,現在のみならず過去においても骨折の臨床を外来診察,正確な診断,治療方法の選択,後療法にまでわたって体系的に分かりやすく解説した書籍は少なかった。

 本書はその中でそれらをすべて満足させる唯一のものといってよく,第1版の出版からすでに20年以上を経過しているにもかかわらず,今読んでみても新鮮な気持ちで知識を吸収できることに驚きを禁じえない。骨折治療のバイブルといっても過言ではなかろう。

 医療は「新」のみがもてはやされがちであるが,「真」がいかに重要かを私たちに教えてくれているのも本書である。

 25年前,研修医であった自分が先輩からご指導を仰ぎ,第1版の翻訳のお手伝いをさせていただいたことが非常に懐かしく思い出される。よくできた書であったので,その後自分ひとりで外来をやり始めたころには,本書を横に置きながら時々見てはフムフムと納得したものである。

 本書はこのたび第3版の改訂が行われ,内容がさらに充実したものとなっている。この機会に外来診療において時々チラチラ見ながらまた役立てたいと思う。

B5・頁440 定価7,560円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00025-3


異常値の出るメカニズム 第5版

河合 忠,屋形 稔,伊藤 喜久 編

《評 者》渡辺 清明(国際医療福祉大三田病院教授・検査部)

生涯の伴侶としてそばに携えてほしい一冊

 本書は1985年に第1版が出版されて以来,23年間の長きにわたり臨床検査の基礎読本として多くの医師や臨床検査技師に愛読されている。

 今回第5版が出版され,内容も血液化学検査,遺伝学的検査をはじめ最新の情報が加わり,前回の第4版より約70ページ増えた。具体的には関節液検査,赤血球酵素,栄養アセスメント蛋白およびシスタチンC,LDLコレステロールとリポ蛋白リパーゼ,銅およびセルロプラスミン,セロトニンおよび5-HIAA,MMP-3,抗リン脂質抗体,遺伝学的検査などが新たに項目として加えられた。これらの最新の項目の追加により旧第4版より,ますます刷新されたものになっている。また,血液化学検査については,各項目に総論が加えられ,より理解しやすいよう編纂されている。...

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