MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.08.04
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
秦 維郎,野崎 幹弘 編
平林 慎一,鈴木 茂彦 編集協力
《評 者》大浦 武彦(廣仁会褥瘡・創傷治癒研究所所長/形成外科学)
現在にマッチした極めて信頼度の高い書
『標準形成外科学』は1975年に初版が発刊されて以来,形成外科を学ぶ者が座右の書として最初に手にし,ことあるごとにひもとく教科書として,長年形成外科の分野において君臨してきた。
さて,日本形成外科学会は2007年に創立50周年を迎え,現在会員数は4300名強となり,毎年の学術集会には約2000名を集める大所帯となった。本学会の内部組織として日本形成外科学会基礎学術集会および専門医制度があり,その上に現在設立されようとしている日本創傷外科学会がある。また関連学会としては,日本頭蓋顎顔面外科学会,日本熱傷学会,日本口蓋裂学会,日本褥瘡学会,日本マイクロサージャリー学会などがあり,形成外科は大きな広がりを見せている。日本形成外科学会の発足当時,初代の形成外科医師が集まり,形成外科のidentityをどこに置き,どのように発展させるべきかを口角泡を飛ばして激論したのが嘘のようである。今や形成外科は世に認められ,医学界においても重要な地位を占めるまでに成長している。今回本書を一新させ,初版から数えて33年,第5版として8年振りに改訂するのは当を得ている。
第5版の執筆者一覧を見ると,今更ながらに新旧の移り変わりの早さを痛感するし,内容を見ても初版に比べて今昔の感がある。まず,美容外科が堂々と大項目として収載されており,30頁の充実した内容となっていることである。実は第2版から美容外科の項目が収載されてはいたが,内容的には若干物足りなさを感じていたのである。現在の若い方々にはとても想像できないことであろうが,日本形成外科学会の創立当時,美容外科を口にすることはタブーであった。もし形成外科学が美容外科もするならば,大学としては形成外科の新設を認めないという国立大学が大勢を占めていたのである。したがって,美容外科をまったく表に出さずに形成外科の設立に奔走したのである。今回の改訂版では美容外科が形成外科学の大きな柱の1つとして充実しており,感慨無量である。
また最近は,交通外傷や熱傷が予想外に少なくなる一方,腫瘍や難治性潰瘍が多くなっている。これも第4版のころとは大きく異なっており,第5版では最近の世相を反映して,これらの項目が目新しくまた見やすくなっている。実は,世界の形成外科の中で形成外科医が腫瘍や難治性潰瘍を積極的に扱うのは日本の形成外科だけであり,これが日本の形成外科の特徴となっている。しかしこれは重要なことで,病院勤務の形成外科医が多くなるなか,これらの症例を扱うことで形成外科の存在価値を病院の中で発揮させうる良い機会なのである。
全体の編集としては要所要所が的確に押さえられており,その流れの中で新しく目につくのがインフォームド・コンセント,性同一性障害,レーザー,人体美論,アンチエイジングなどである。それぞれの項目についてもその道のエキスパートの方々が執筆しておられ,実に充実した編集の改訂版である。また,高度な内容でありながら見やすい教科書となっているので,読んでいて楽しい。
若い形成外科医のみならず,形成外科に興味を持っているすべての外科医に,本書を座右の書として薦めたい。
B5・頁352 定価7,140円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00558-6
宮城 征四郎 監修
石原 享介,谷口 博之,藤田 次郎 編
《評 者》長谷川 好規(名大大学院教授・呼吸器内科学)
レジデントに捧ぐ呼吸器診察の羅針盤
本書は,第一線の臨床現場において呼吸器疾患診療に長年にわたり携わるなかで,診療に真摯に取り組まれ,また,後継となる若き研修医の育成に尽力されてきた第一級の臨床医により執筆されている。本書の基本姿勢が,「臨床医学は万国に共通する“一般常識”の下に取り組まれるべきとする編者の医療哲学と,従来の偏向した趨勢に歯止めをかける目的をもって,若い呼吸器科研修医や専門外の諸先生方を対象として編纂された(序文)」とあるように,実地臨床に密着した,かつ,高いエビデンス・レベルに基づいた分かりやすく,使用しやすい呼吸器診療を学ぶ医師のためのベッドサイド診療指針となっている。第1章の最初のページに,「かつて診断の基礎として重要視された問診・身体所見診療法が次第になおざりにされてきている。―――(略)―――患者の自他覚症状は常に病態・生理学的に解釈を試みることが重要である」と編者の意図が明確に示されており,大変好感が持てる一冊である。また,呼吸器症状の詳細と診断学的意義の「痰」の項目では,「寝床にティッシュ・ペーパーを置いている場合には,1日痰量が30ml以上,痰壷の場合には100ml以上の痰量を示唆する」と,さらっと記載されており,執筆メンバーの知識に裏付けられた臨床的経験の深さを推測するに難くない。
呼吸器疾患は,急性期の呼吸管理から,慢性呼吸管理まで,また,肺炎・結核をはじめとする感染症から,アレルギー・免疫性肺疾患,さらには,肺がんをはじめとする腫瘍性疾患まで,取り扱う疾患の範囲は幅広く,呼吸器という専門性を有した内科医としての総合的な能力が要求される。これらの内容をコンパクトな一冊にまとめることは大変な作業であるが,この点においても本書はよく考えられている。第1章「呼吸器疾患の診断へのアプローチ」,第2章「呼吸器救急の実際」と構成されており,これだけでも初期臨床研修や後期臨床研修の研修医マニュアルとして大いに役立つ内容が盛り込まれている。さらに,第3章「主な呼吸器疾患の診断と治療」,第4章「慢性呼吸不全の診断と治療」,第5章「睡眠呼吸障害の診断と治療へのアプローチ」と構成され,common diseaseを中心とした各論が分かりやすい図表とともにまとめられている。最終章の第6章では,これも編者の意図するところであるが,「呼吸器疾患と社会との関わり」として,医師として身につけておくべき地域福祉資源との連携から,届け出書類のノウハウまで簡潔にまとめてある。本書は,まさしくレジデントの諸君が白衣のポケットに忍ばせ常に診療の指針として役立てられるすばらしい一冊である。
B6変・頁496 定価5,985円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00431-2
松村 真司 著
《評 者》木戸 友幸(木戸医院・院長)
プライマリ・ケア医をめざす医師が抱える不安を吹き飛ばす
ここ数年,プライマリ・ケアや家庭医療学についての関心が高まりをみせ,医学生や若手の医師たちのかなりの部分の共感を呼ぶようになり,この分野に進む人たちも徐々にではあるが増えてきている。しかし,この分野はまだまだマイナーで,この分野に進もうとしている者,あるいはもう進みつつある者にいろいろな意味での不安を感じさせているようだ。
松村真司氏の「プライマリ」は,彼(彼女)らが感じている不安にどう対処するかの対策を,自らの体験に基づき書いたものである。
当書は構成が非常に凝っていて,200ページ弱の中にさまざまな情報が立体的に配置されている。松村医院の研修を希望するキヨシローくんの依頼メールが松村氏に届くところからストーリーは始まる。キヨシローくんの医院研修が始まり,二人のかけ合い漫才のようなトークが続き,この会話から松村氏の日常がヴィヴィッドに描き出される。この二人のトークはいわゆる狂言回しである。プライマリ・ケアの各要素の理論的な解説も,6章にわたり真面目に書かれている。
プライマリ・ケアの理論については,東大とUCLAの大学院で学んだ松村氏であるから,もちろん正しい理論が展開されているのだが,彼自身開業家庭医であるので理論のみに溺れない現場の人間の視点が入っている点が非常にいい。
硬い(といっても硬過ぎない)話にちょっと飽きたところで,「幕間のクロストーク」が入る。ここでのトークの相手は松村氏の後輩医師であるが,このトークはキヨシローくんとのものより,もう少し真面目な雰囲気のものである。このトークも現在進行形の悩みや希望がいっぱい詰まっていて,ちょっとほろっとさせられた。このほか,コラムやエッセイも適所にちりばめてあるが,その中の音楽談義や映画談議は,われわれ団塊後期の世代にも楽しめる内容である。
松村氏があとがきに書いているが,父上の病気をきっかけに医院を継いでから間もなくの超多忙な日々にあるきっかけがあり,本書を書き始めることになったそうである。私が想像するに,自らのさまざまな不安と迷いを解決するために書くことを決断されたのだろう。最近の松村氏は機嫌よく颯爽としているので,おそらくその試みは成功したのだと思う。したがって,プライマリ・ケアをめざす人たちも,これを読めば恐らく不安と迷いを吹き飛ばすことができるであろうことは間違いない。
A5・頁208 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00679-8
ER・救急シークレット
Emergency Medicine Secrets, 4th Edition
箕輪 良行,田中 拓 監訳
Vincent J. Markovchick,Peter T. Pons 編
《評 者》田中 和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部長)
1冊で救急分野を網羅する「秘密」の虎の巻
私がシークレット・シリーズを知ったのは,米国で内科レジデントをしているときである。米国の内科では毎朝Attending回診があり,レジデントは受け持ち患者の症状・疾患について質問攻めにあう。質問のミサイル攻撃にどれだけ応戦できるかがレジデントの質を決めるのだが,Attendingの質問は基本的な基礎医学の知識から今週のThe New England Journal of Medicineに載っている論文の内容までとても幅広くて奥が深く,防戦する立場の私はどうしたら太刀打ちできるか分からないでいた。
そんなあるとき日本人の内科レジデントの同僚が「Attendingの回診にいい本があるよ」と教えてくれたのが,このシリーズだった。手に取ればわかるように,Attending回診でレジデントに向けて発せられるであろう質問とその答えが簡潔に記載されている。本のタイトルがシークレットとなっているが,これは質問と答えが「秘密」なのではなく,あたかも「秘密」であるかのようにその質問の答えを探すことが難しいからである。
ここに記載されている内容はすべて教科書や論文に書いてありそうで実は書かれていないことが多く,臨床上非常に重要なものばかりである。したがって,下手に教科書や論文を読みあさるよりは,この本を1冊読んだ方がポイントが効率的に頭に入るのである。しかも,1冊で1つの専門分野をほぼ網羅しているので知識がまだらになる心配もない。
今回シークレット・シリーズのEmergency Medicineが日本語に翻訳出版された。原著は米国の救急で有名なDenver Health Medical Centerのスタッフが中心となって書かれたもので,非常に信頼性が高い。その日本語版である本書に特徴的なのは,日米の救急医療の差異が考慮され,ただ機械的に全訳したものではないことである。まず,日本の救急医療とは直接関係のない項目については削除されている。そして,日本語として分かりやすく翻訳していることのみならず,日本の救急医療では理解しにくい点に訳注を加えたり,薬物にも日本の商品名を挿入するなど,日本の医療現場で適用しやすいように配慮されている。
本書は一問一答で書かれているので,超多忙な救急室で働きながら空いた時間を見つけて読み通すことができる。そして最も有用な点は,この本を読めば指導医は研修医にどんな質問をすればよいか分かり,研修医は指導医の質問にどのように答えればよいのかが分かることである。これだけ良い本なのであるから,指導医と研修医の双方に役立つ「秘密」の虎の巻になること請け合いである。
B5変・頁652 定価7,770円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/
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