時々の初心
連載
2008.05.12
名郷直樹の研修センター長日記 |
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時々の初心
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(前回2776号)
●月△日
新しい研修医がやってきた。この春医師になったばかりの研修医たち。新たな夢や希望に胸を膨らませて,と同時に大きな不安も抱えながら。私自身が5年前に,臨床のポストを兼ねない教育専任医師という立場で,へき地診療所を離れて新しい職場へやってきたときと同じように,かどうか本当のところはわからないが。またへんなことを考え始める。私と同じように,でいいじゃないか。なぜ,わざわざ,同じかどうか本当のところはわからないなんて言い出すのか。
私自身はどんな夢や希望を持っていたのだろうか。20年以上も経つと,もうなんだかわからなくなっている。大体は夢や希望はやせ細る。夢や希望が現実的に達成されるためには仕方のないことではあるが。しかしそれは考えようによっては最初の夢は肥満体なのかもしれない。そうだとすれば,やせたほうがいい。とはいえ,やや肥満体のほうが長生きだというエビデンスもあり,何がなんだかわからない。肥満したままの夢を持ち続けたほうが長生きできる。夢が実現するかどうかは別として,長生きという点では,確かにそういう気もする。
初心忘るべからず,という。これは世阿弥の「花鏡」の言葉だそうだ。
是非とも初心忘るべからず
時々の初心忘るべからず
老後の初心忘るべからず
初心とは最初の夢や希望のことだと思っていた。しかし,もともとの意味は,未熟な時代の失敗を忘れるな,ということらしい。夢や希望なんてどうでもいいのだ。どうせ肥満体だし。さらにその未熟な時代というのは修行の最初にあるだけではない。最初の未熟さが乗り越えられたら次の未熟さが明らかになり,それを乗り越えるとまたその次,というように終わりがない。修行のそれぞれの段階によって,形を変えて常に未熟さはある。違うレベルでの失敗がある。初心というのは,修行のス...
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