医学界新聞

連載

2008.04.21



看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第40回〉
訪問看護の復権

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 第50回社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長=東大名誉教授・大森彌,2008年3月25日開催)では,「介護保険制度導入後,在宅介護サービスとの競合の中でかえって伸びにかげりが見られるとされる訪問看護ステーションの復権」(尾形,2008)について検討された。介護給付費分科会ではたびたび訪問看護ステーションの伸び悩みが問題にされ,「これではこれからの在宅医療を支えていくことができない」という発言もあった。日本看護協会副会長として分科会に出席している私にとって,訪問看護ステーションが社会システムとして認知され,機能していくための体制をどのように確立していったらよいのかが最大のテーマである。

伸び悩む訪問看護事業

 分科会ではまず,厚生労働省老健局が準備した資料を用いて,訪問看護事業に関わる基本事項が説明された。

 2015年には第一次ベビーブーム世代が高齢者となり,自宅死亡が1.5倍増と仮定されるため,介護施設が現行の2倍整備されるなど多様な居住の場での在宅ケアと看取りの充実が鍵となる。また,今後は首都圏域の人口密集地域で高齢化が加速し,そのトップ3が,埼玉県(増加率80%)・神奈川県(60%)・東京都(38%)である。都道府県別にみた高齢者人口10万人当たりの訪問看護利用者数には4倍以上の開きがあり,最多は長野県,最少は香川県。訪問看護利用率が高い都道府県では在宅で死亡する者の割合が高いという(相関係数α=0.57)。

 訪問看護の市場は介護費全体の約2%(1300億円程度)であり,国民医療費全体の約0.1%(320億円程度)と,シェアが非常に小さい。訪問看護受給者数は2006年夏以降減少に転じている。訪問看護ステーション数は増加しているが,病院・診療所による訪問看護事業所数は減少しているため,訪問看護請求事業所総数は2003年6月以降減少している。2006年4月診療報酬改定で「訪問看護計画において,理学療法士等の訪問が保健師又は看護師による訪問の数を上回るような設定がなされることは適当ではない」とされたことから,2006年9月以降,PT・OT・STによる訪問看護は減少した一方,訪問リハビリテーションが大きく伸展している(訪問看護と訪問リハビリテーションの合計回数は横ばい)。そのほか,短時間の訪問看護は緩やかな増加傾向にあること,サテライトステーションの設置数割合の平均は3.8%(2005年)であり都道府県別のばらつきが大きいことなども説明された。

 では,就業者はどうか。就業看護職員総数は過去10年で3割程度伸び,全国で130.8万人が働いているが,訪問看護ステーションに就業する看護職員はわずか2%しかいない。就職を希望する学生のうち約2割は訪問看護事業者等への就業を望んでいるが,実際には新卒者の約8割が大学附属病院等の医療機関に就業している。2002年末現在の免許保持者数(176万6981人)から就業者数(121万7198人)を引くと,およそ55万人の潜在看護職員数がいると推計されることも付記された。

ビジネスモデル構築の必要性

 続いて,訪問看護の活性化対策について全国訪問看護事業協会副会長・伊藤雅治氏のプレゼンテーションが行われた。(

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook