医学界新聞


SSTはじめて読本-スタッフの悩みを完全フォローアップ

インタビュー

2008.02.25



SSTに「正解」はありません。
そのことをこの本で伝えたかったのです。

舳松 克代氏(田園調布学園大学助教/臨床心理士)に聞く

 精神障害者の社会復帰を目的とした認知行動療法の1つ,SST(Social Skills Training:社会生活技能訓練)。1994年の診療報酬化を機に,看護師がSST担当者となる機会は爆発的に増えた。加えて,このところの精神科病院の急性期化・早期退院の流れにより,SSTを患者さんの退院や社会復帰のための有効なツールとして位置づけたいとする期待も高まっている。

 そんななかで,今回弊社から発行されたのが『SSTはじめて読本――スタッフの悩みを完全フォローアップ』である。編者の舳松克代氏に,本書を発行した意図とSSTで悩む看護師へのメッセージをいただいた。


――舳松先生自身の,これまでのSSTとのかかわりをお話しください。

舳松 大学卒業後に東大病院の精神神経科に入り,そこのデイホスピタルでSSTと出会いました。当時東大では大卒者を対象に,2年間で精神科リハビリテーションのプロフェッショナルを養成するプログラムがあり,それに応募したのです。

最年少でSST認定講師に

舳松 東大病院のデイホスピタルは,UCLAのR.P.リバーマン教授が日本ではじめてSSTのデモンストレーションをされた,日本のSST発祥の地です。そこで先生から直接教えを受けられた故・宮内勝先生と前田ケイ先生の2人からご指導いただき,25歳でSST普及協会の認定講師に合格しました。これは今でも最年少記録です。

――なぜ最年少で認定講師になるほどに,SSTに惹かれたのでしょうか。

舳松 ひとつ言えるのは,宮内先生への憧れですね。先生は東大のデイホスピタルの中心で,リバーマン先生とも仲がよく,SSTも多くやっておられました。いつもクールでとても頭の切れる方なのですが,患者さんの前ではすごく温かくて,お父さんが子どもを膝に乗せて話をするような和やかなグループを進めていくんです。「ああいうふうになれたらいいなぁ」と思い,先生がやっていることはすべてマスターしようと,ずっと後ろを歩いてきました。そして先生が亡くなられた時,私の中に遺されたのは何かと考えたら,SSTだったのです。ご遺志を受け継ぐことが使命だと思いましたし,先生が輸入された物を絶やさず定着させるには私たちの世代が頑張らなければと考えました。

 リバーマン先生も,こんなにSSTを自国で定着させ,探究している国は日本以外にないと驚かれています。

――本書は,雑誌『精神看護』での2回にわたる特集を経て本になったと聞きましたが,特集のきっかけはなんだったのでしょうか。

舳松 私はなるべく現場に足を運び,実際にSSTの様子を見て直接アドバイスすることを心がけています。ある研修のとき,1人の看護師さんが,「研修会では聞きたいことの全部は聞けないし,現場でも常に疑問が出てくる。質問に答える場を雑誌や本に作ってほしい」と言われたのです。そこですぐに私はまったくの一見さんにもかかわらず医学書院に電話をして,この企画が立ち上がったのです。

答えはいくつもあっていい

――本書のQ&Aですが,クエスチョンの生々しさが特徴的です。個々の質問はどのように集められたのでしょうか。

舳松 これらはすべて講習会で看護師さんから実際にいただいた,現場の生の質問です。

 病院における看護師の役割は,悪いところを看護し,それを治していくことですよね。ですから病や障害に着眼する,いわばその人の欠点を見ることが求められます。ですがSSTでは,疾患がある人でも,その人の長所や使える資質をまず見ます。つまりまったく正反対のことを求められるので,非常に戸惑うわけです。はじめてやることなので取り組む前の不安も強いですし,取り組んだ後も「これでいいのか」という確認がほしいのだと思います。

 日本の医療・看護のレベルは世界的に見ても高水準ですが,それは「正しいこと」をやるからで,失敗は許されない世界です。ですから皆さん「これが正解かどうか」の答えを常に求めています。でも実際には,SSTに「正解」というものはありません。それで皆さんずっと悩んでいらっしゃるのだと思います。ですから,この本で心がけたのは,正解や答えを書くことではなく,考える道筋や手順を学んでもらおうということでした。答えは,いくつもあっていいと思うのです。ただ,一例として「私はこう考えました。それで,こういう結論になりました」ということを記したのです。

――正解を探して悩んでいるということですが,正解があるという幻想はどこからきたのでしょうか。

舳松 日本にSSTを普及させる段階で,学習しやすい方法に整理して教えていったのですが,それがいつの間にかマニュアルとして普及し,正解であるかのようになってしまったようです。もうひとつの大きな理由として,診療報酬化があります。精神障害,特に統合失調症の人たちへの適用を考えた時,ある程度のマニュアル化をしなければ理解しにくかった面もあると思います。看護師さんはチームで動くことが多く,マニュアルもよく使うのでなるべく順序だてて文章にしてほしいという要望がありました。マニュアルがあれば一瞬は安心しますが,「このとおりにいかなかったらどうしよう」といった恐れも出てきてしまいます。

 でも,何が起こるかがわからないことが集団で行うSS...

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