医学界新聞

連載

2007.07.09

 

【連載】

はじめての救急研修
One Minute Teaching!

桝井 良裕
箕輪 良行田中 拓
(聖マリアンナ医科大学・救急医学)

[ Case15 ]
血尿? 腰も痛い? 楽勝! ……本当かな?


前回よりつづく

この連載は…救急ローテーション中の研修医・河田君(25歳)の質問に救急科指導医・栗井先生(35歳)が答える「One Minute Teaching」を通じて,救急外来,ERで重症疾患を見落とさないためのポイントを学びます。


Key word
腰背部痛を伴う血尿,非糸球体性,腎梗塞

Case
 7月に入って間もないある日,当直の河田君のもとに血尿を主訴とする患者が訪れた。

 62歳女性,既往歴は特になし。夕食後から右の腰背部痛と尿が赤くなったため心配になり受診した。右腰背痛は鈍い痛みでなんとか我慢できる程度。嘔気・嘔吐は軽度,排尿時の痛みや残尿感は認めない。意識は清明で血圧154/90mmHg,脈拍94,体温37°C,SpO2 98%。身体所見では眼瞼結膜貧血・眼球結膜黄疸なし。呼吸音:清,心音:不整あり,心雑音なし,腹部は平坦・軟。右背部CVAの叩打痛あり。下肢に浮腫なし。

 河田君は,これは楽勝,尿路結石で決まりだな。俺も病歴だけで診断が付けられるようになったものだ,などと偉そうに考えながら栗井先生に症例を提示した。

■Guidance

河田 肉眼的血尿で,試験紙では尿潜血が3+,尿蛋白1+,尿糖陰性でした。沈渣を含めた尿検査は結果待ちです。抗血小板薬や抗凝固薬の内服もないようですし,出血傾向を疑う身体所見や最近の外傷歴も特にありません。

栗井 腰背部痛を伴う血尿だね。尿検査の結果が出るまでに鑑別を挙げてみようか。なんだか余裕の笑みを浮かべているね。(指導医の間で「河田の笑み」と呼ばれる笑いだ。これが出てるときは要注意なんだよな……。)

河田 これは尿路結石で間違いないと思います。そのほかでは膀胱炎,腎盂腎炎などの感染性の疾患でしょうか。

栗井 どれも救急外来で多く見てきた疾患だね。でも血尿一般の評価に立ち返ると,まず大きく糸球体性の血尿なのか,非糸球体性の血尿なのかを考える必要がある(Check point1)。前者では緊急を要することはまれで,後日再検を含めて腎臓内科を受診してもらうことが多い。一方,非糸球体性の血尿は画像診断を考慮したほうがいい。

河田 沈渣も確認したのですが,尿中の赤血球が多数認められるだけで,白血球少数,赤血球円柱は認めません。

栗井 血尿で受診した患者を診る場合,いくつか気をつけるべき点があるんだ。まず腹痛,腰痛を伴う血尿では,むしろ尿路結石以外に注意する必要がある。中でも致死的なのは腹部大動脈瘤の破裂だね。大動脈瘤破裂症例のうち初診時の誤診でもっとも多いのが,血尿に気を取られて尿路結石と診断されている症例なんだ。尿路結石を疑って超音波検査をするなら必ず大動脈も見ておく癖をつけたほうがいい。尿路結石自体は超音波や腹部レントゲンでは

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