コトバは時間を生み出す形式である
連載
2007.03.12
名郷直樹の研修センター長日記 |
| ||
コトバは時間を生み出す形式である
|
(前回2719号)
■月▲▽日
もうずいぶん長い時間が経った気がする。しかし,1年前にはまだへき地の診療所にいたのだ。確かに,ついこの前までは,へき地診療所にいたんだ。そう考えると,なんだかあっという間の出来事のようにも思える。何も変わっていないような自分と,ずいぶん変わったような自分。どちらが本当なのか。多分時間を止めれば,そのときそのときの変わらない自分がいる。時間を止めなければ,時間とともに変わり続ける自分がいる。ただ自分について語ろうとすれば,それはいつもどこかの時点の自分になる。名づけるというのは,時間を止めるということでもある。だから,「私」というひとつの同じ言葉で考える以上,私は変わっている感じがしない。時間というのは不思議なものだ。時間は経つ。しかし病院では時間が止まる。すべてを医学の言葉で表現するからだ。病院になくて,へき地にあったもの,それは「時間」ということではないか。
科学は時間を抜いたコトバで記述する。
ある生物学者が言っていたのを思い出す。言葉と時間,そんなことを考える。科学の言葉には時間がない。時間によって言葉の表わす意味が変わったりしたら,科学が成り立たない。だから言葉から時間を抜く。時間を含まない記号や数字で記述できれば,より客観的な記述ができる。科学としての医学を学んできた自分は,そういう時間を抜いた言葉を使うことには慣れている。だから,自分自身のことを考えるときもついついそうなる。時間を抜いた自分。常に私のことを,時間を抜いた同じ「私」という同じ言葉で考える。当然,患者さんのことを考えるときも同じになる。時間を抜いた「患者さん」を,患者さんとして認識する。
1年前の日記を引っ張り出して,ちょっと読んでみる。信じられないことだが,1年前の日記には,こんなことが書いてある。同じ自分が書いているのに。
「やりたいことは1つ。私自身医師として,必要なほとんどすべてをへき地医療で学んだ。もっと正確に言えば,へき地医療の中で出会った多くの患者さんから学んだ。にもかかわらず医師過剰といわれる中でもまだまだへき地での医師不足は深刻だ。都市部の過剰に反比例して,へき地ではますます不足している感じもある。そうしたへき地の医師不足に対し,自分ががんばるというだけでなく,単に医師を送り込むとい...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
対談・座談会 2025.06.10
-
#SNS時代の医療機関サバイブ 鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか
鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか対談・座談会 2025.06.10
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
最新の記事
-
#SNS時代の医療機関サバイブ 鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか
鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか対談・座談会 2025.06.10
-
対談・座談会 2025.06.10
-
Sweet Memories
うまくいかない日々も,きっと未来につながっている寄稿 2025.06.10
-
寄稿 2025.06.10
-
複雑化する循環器疾患患者の精神的ケアに欠かせないサイコカーディオロジーの視点
寄稿 2025.06.10
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。