自分の外に自分を探せ
連載
2007.04.09
名郷直樹の研修センター長日記 |
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自分の外に自分を探せ
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(前回2723号)
○月▲日
4月,新しい年度のスタートだ。今年も新しい研修医たちがやってくる。新しい研修医が来たら,新しい部屋に移って,新しい研修をやろう。去年よりも,さらに新しい研修を。 新しい研修医を迎える今,なぜか『小説の自由』という本を読んでいる。なぜこの本を手にしたのかわからないのだけれど,とにかく読み始めて止まらない。そのなかに「私に固有でないものが寄り集まって私になる」という章がある。この章の見出しを見ただけでも,これはなんとしてでも読まなければと思ってしまう。4月,新しい研修医に対して,なぜ医者になるのかと問いたい。その問いに繋がる。
あらゆる文学は何かの引用に過ぎない,そういったのは誰だっけ。あらゆる文学が引用であれば,あらゆる自己も何かの引用に過ぎない。つまり「私に固有でないものが寄り集まって私になる」。
そして,まずはこんなフレーズ。
「自己が語ることがらは,物語化されており,したがってナルシズムに侵されてしまっているから,信用できるのは他者から来る言葉だけである」
あなたがいくら医者になる理由を自分で説明しようとも,私はその理由に対し,どこまでも反対する自信がある。自分自身で自分について語る理由なんて,あなたのナルシズムに過ぎないのだから。
「ところが,他者から来る言葉だけを吐いている人間は,どう見られるだろうか? 自己責任の取れない人,ということになる。どちらにしても自分らしさというものを期待できない。だから,人格というものがあるとすれば,それは,他者から来た言葉とナルシズムの組み合わせ具合として定義されることになる。人格とは,その組み合わせ具合のその人ごとに最も安定したあり方,ということになる」
父が医者だったので自然とそうなりました。そう言われると,反対はむつかしいが,今度は逆に,お父さんでなくてあなた自身はどうなのか,今度はそう問い直さなければいけない。他者からの言葉とナルシズムの組み合わせ具合として,医者になる理由を定義付ける必要がある。
「人間は,成長して,それを自分の言葉であると思い込んで外に出すようにできている」
あなたがいくらもっともらしい理由を述べ立てようとも,それは何かの引用に過ぎない。ただ,父からの引用です,そう真顔で答えられたら,それはそれで困ったことだ。しかし,これは父でなく,母でなく,高校時代の恩師でなく,私が決めたと言い張ったところで,実は何かの引用に過ぎない。自分が医者になるわけを,自分の言葉で語ることができると,自分の選択であると思うのはいい。でもそれは思い込みに過ぎないのかもしれない。誰かの言葉や,誰かの選択でないかどうか,よく考える必......
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