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第3379号 2020年7月13日


遠隔教育のABC

「遠隔での教育実践が求められた。さて,何から準備すべきか?」。新型コロナウイルス感染症による学修環境の変化を踏まえ,遠隔教育を行う上で押さえたいツールの選択と授業設計のエッセンスを3回にわたり紹介します。

[第2回]遠隔教育の質を高めるための3つの視点

淺田 義和(自治医科大学情報センターIR部門 講師)


前回よりつづく

一方向型か双方向型かによって変わるツールの使い方

 遠隔教育を開始する際の7つのポイントを,第1回(3374号)に列挙しました。今回はその内の「学修目標」「評価方法」「教育内容」の3点について,インストラクショナルデザイン1))の観点も踏まえて説明します。新型コロナウイルスの影響を受ける環境要因も考慮しながら考えていきましょう。

 本題に入る前にここで,遠隔教育の区分をあらためて整理します。前回,同期型非同期型との区分を説明しました。この区分に加え,一方向型(教員から学生へ)か双方向型か,というもう1つの区分を紹介します。「講義を生中継するか,学生参加型にするか」のZoom利用事例から考えると,前者は同期型の一方向型,後者は同期型の双方向型と位置付けられます。2つの区分は「どのツールを使うか」よりも「ツールをどう使うか」の影響を大きく受けることに注意が必要です。仮に,電子メールや紙教材の郵送という方略であっても,学習者からの質問や課題の提出,講師からの解説やフィードバックの提示が可能であれば,双方向型と考えてよいでしょう。

遠隔教育での学修目標は?

 では,1つ目の学修目標の位置付けから見ていきましょう。医学部では文科省の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」(コアカリ)や大学のディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)などに沿った学修目標が設定されています。この前提に立つと,学修目標そのものを大きく変えるのは難しいかもしれません。一方で,遠隔教育に絞れば,例えば「診察できる」「参加できる」といった技能や態度にかかわるものは評価方法や教育内容との関連から具体的な学修目標の検討が必要になります。

 だからといって,難しく考える必要はありません。というのも,授業の設計にあたり従来考慮されてきたことだからです。知識に関しては一般的に,講義で教えて筆記試験で評価します。実技はシミュレーションや臨床で教えた後にOSCEによる評価があります。いずれも,学修目標に合わせて評価方法や教育内容を調節してきたことでしょう。遠隔教育も同様に,遠隔で可能なこと/困難なことを区分けした上で,学修目標を検討することがポイントになります()。

 Millerのピラミッドモデルにおける分類2)から考える,遠隔教育の実現可能性
濃い色の部分が遠隔教育で代替可能な範囲。

遠隔教育における評価方法,その特徴と限界

 次に,評価方法です。こちらも遠隔教育に切り替わったからといって,全体像が大きく変化するものではありません。学修目標が確定すれば,評価方法も連動してほぼ自動的に決まるものだからです。考えるべきは「遠隔でどこまで可能か」ということです。いわゆる成績評価のための総括的評価,学修を支援・促進するための形成的評価の両面から考える必要があります。

 例えば筆記試験や口頭試問であれば,不正防止の検討をした上で,学習管理システム(LMS)やWeb会議システムなどを用いた実施が可能です。毎回の授業で小テストを課しているのであれば,その積み重ねで総合的に評価する方略も一案です。本連載では踏み込みませんが,いわゆる期末試験のような評価をどう行うかも,遠隔主体の教育では別途検討が必要でしょう。

 不慣れな遠隔教育の開始にあたり,ついデメリットに注意が向きがちかもしれませんが,メリットもあります。遠隔,特に非同期型では,形成的評価を行う場合に評価の制約条件が軽減されることがあるからです。例えば1人3分間のプレゼンテーションを形成的に評価しようとする場合,学習者が100人いれば実施だけでも300分要します。これに加えて,もし講義時間内で評価までを行うとすれば相当な人員が必要です。しかし,学生に動画を提出させて評価するのであれば,授業時間内に全てを実施するという制約条件からは解放されます。評価の負担はなお残るものの,人的・時間的な制約条件はかなり軽減されます。

 ただやはり,実際に身体診察を行うなど,実践に即した内容に関する評価方法は,遠隔のみでは不可能に近いでしょう。特に図におけるDoesやShows howの部分が該当します。この場合,必要最小限の形で対面式を検討する必要が生じます。

遠隔教育で生まれるメリットから「新しい常態」を考える

 最後に教育内容です。「同期型・非同期型」「一方向型・双方向型」の2つの視点から,それぞれの特徴をに示しました。これらを考慮すると,「同期型×一方向型」は遠隔で行うメリットが小さいと言えます。前回,同期型について「(同時双方向)」と括弧書きで限定的に記載したのもこの理由からです。仮に講義を一方向的に配信することが目的であれば,通信不良時の担保や復習の利便性などを考え,録画配信,すなわち「非同期型×一方向型」が効果的と言えます。

 同期・非同期,一方向・双方向の2つの視点から利点と欠点を比較(クリックで拡大)

 双方向型は,評価の観点などで教員側の負担も増加します。しかし,これにより学習者の主体的な学びを可能とします。同期型・非同期型を問わず,何らかの双方向性を担保することが望ましいでしょう。

 筆者が実際に行う対面式の事例でも,講義中にディスカッションの時間を数回設け,その結果をLMSに書き込ませる方略を取っています。受講者を指名せずに書き込んでもらう狙いは,全員の意見を拾えるようにすることです。対面授業による口頭発表の場では,数人から意見を聞くので手一杯です。しかし遠隔の場合,一度書き込んでもらえば全員の意見が随時確認できます。結果を学生に共有すれば各自の視野を広げることにもつながるでしょう。非同期型でも十分実施可能です。

 対面授業の際,端末数の問題から授業中に入力させることが困難な場面もあったのではないでしょうか。その点,遠隔教育は個々人が端末を持った状態ですので,学生のアクセスも容易です。新型コロナウイルスの影響で,教室での対面型を離れざるを得なくなった一方で,遠隔教育によって生まれた新たなメリットも多々あるのです。

 反面,教育内容も評価方法と同様に遠隔教育ならではの限界が生じます。医療面接などであればWeb会議システムの利用や録画動画の視聴でも実施可能な部分はあります。しかし,触診や打診などの身体診察やシミュレータによる採血練習など,手順の確認には限界があり,これらの項目は対面の必要性が残ります。技能や態度を学修目標とする場合が該当するでしょう。逆にいえば,可能な限り遠隔を前提に進め,「教育のニューノーマル(新しい常態)」を検討することも一案です。遠隔化で得られた時間を有効に使い,形成的評価を充実させることも可能になります。

 次回は筆者の所属大学における実践例の紹介と併せ,遠隔教育の今後,いわゆるWith/Afterコロナでの利用方法に関する展望を整理します。

チェックポイント

☑遠隔可能な目標・評価を整理したか
☑双方向型の導入を検討したか
☑ICT活用の利点と限界を検討したか

つづく

:インストラクショナルデザインとは,「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野,またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセス」1)です。すなわち,学習目標に到達できる教育の実施(効果),そのために費用対効果を高め実践する(効率),学習内容に関する継続的な学習意欲を高める(魅力)ことをめざす方略と言えます。

参考文献
1)鈴木克明.e-Learning実践のためのインストラクショナル・デザイン.日本教育工学会論文誌.2006;29(3):197-205.
2)Miller GE. The assessment of clinical skills/competence/performance. Acad Med. 1990;65(9 Suppl):S63-7.[PMID:2400509]

【シンポジウムのご案内】
遠隔教育の実践に関する情報として,オンライン上で行う,以下のシンポジウムもぜひ参考にしてください。

●国立情報学研究所「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」
https://www.nii.ac.jp/event/other/decs/

●日本医学教育学会「医学教育サイバーシンポジウム」
https://cybersymposium.jp/

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